舞台『フリー・コミティッド』は、NYにある四つ星の超人気レストランを舞台にした一人芝居。主人公のサムは売れない俳優で、その店の予約係。彼の働く地下の事務所に、金持ちの夫人や日本人観光客などからの予約の電話と、支配人やカリスマシェフ、ドミニカ人コックらからの内線が引っ切りなしにかかってくる。なんとサムに加え、電話の相手37役もひとりで演じることになるが、「問題なのは38役じゃないんです」と成河さん。

ひとりで38役を演じ分ける!? 都会の生きづらさを描いた喜劇。

「いろんな人種のいろんな立場の人が登場するんですが、それぞれの人の訛やしゃべり方を特徴的に描いていて、それを見て笑うっていう構造の芝居なんですよね。ただ、それを日本でやってわかるのか、面白いのかという問題があります。たとえやれたとしても、芸人さんの“あるある”のモノマネ芸になってしまうのは本意じゃない。でも、戯曲を何度か読み込んでいくうちに、その根底にあるテーマに気づいて、それで引き受けさせていただきました」

そのテーマとは、“多くの情報が交錯する大都会で、自分で選ぶことがいかに大変か”ということ。

「都会って、人の要求に振り回されすぎて、自分が一体何を望んで何を選択したらいいか、見えなくなってしまうことが往々にしてある。作者のベッキーさんはテレビ出身の脚本家ですから、都会に生きる人のジレンマをけっして難しくなく、すごく上手に描いていると思います」

演出は、これまで俳優同士としても共演経験の多い千葉哲也さん。

「千葉さんがすごいのは、役者の時と演出をやる時の動機が変わらないこと。よく『コミュニケーションに興味があるんだ』とおっしゃるんですが、だからこそ役者同士だと、ものすごく面倒くさい(笑)。でも演出家としては、役者が気になること全部を丁寧にすくいとってくれるんです。この間の稽古では、僕がサムを、千葉さんが他の37人を演じてくれました。お互いの脳味噌と技術を持ち寄って、一緒にこの作品を作り上げている感じが面白いです」

今回上演する劇場は、客席数が約200。観たいと思った時に誰もが気軽に立ち寄れる、そんな小劇場空間も大切にしたい、と話す。

「学生時代はパンクバンドをやっていたんですが、高校の文化祭でお芝居をやることになって、それが初めての演劇体験でした。その時に味わった、観客が舞台に集中した時の一瞬の静寂…それにシビれてしまった。僕は、いまもその瞬間を求めて、演劇を続けているようなものです」

『フリー・コミティッド』 超人気レストランの地下の事務所では、俳優のサムが予約係を務めている。責任者のボブの出社がトラブルで遅れ、次々とかかってくる電話にひとりで応対することになるが…。6月28日(木)〜7月22日(日) 渋谷・DDD 青山クロスシアター 作/ベッキー・モード 翻訳/常田景子 演出/千葉哲也 出演/成河 全席指定6900円(税込み) チケットスペース TEL:03・3234・9999 

ソンハ 1981年生まれ。東京都出身。舞台を中心に活動し、’11年に読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。近年はドラマ『マッサン』など映像にも出演。映画『チワワちゃん』は来年公開。

※『anan』2018年6月27日号より。写真・内山めぐみ インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)