東京に“ネブミ男”と呼ばれる男がいる。

女性を見る目が厳しく、値踏みすることに長けた“ネブミ男”。

ハイスペックゆえに値踏みしすぎて婚期を逃したネブミ男・龍平は、恋愛相談の相手としてはもってこい。

相手を値踏みするのは女だけではない。男だって当然、女を値踏みしているのだ。

そこで値踏みのプロ・龍平に、男の値踏みポイントを解説してもらおう。

これまでに、姫気質な「ワタシ姫」や、自称サバサバ系の鯖女子、夢見る夢子ちゃん、クネ・クネ子など を見てきた。

今週、彼の元にやってきたのは...?




彩奈から“ご飯に行こう”と誘いを受けたのは、先週のことだった。

元々龍平と彩奈は同じ会社で働いていたのだが、彼女はさっさと会社を辞め、別の投資ファンドへと転職した。

仕事ができて、同期の中でも優秀だった彼女。

1年前に婚約したと聞いているが、現在どうなっているのか、龍平は知らない。

-彩奈から誘われるの、久しぶりだな。何かあったのかな...

彩奈が龍平に連絡をよこすのは、何かあった時のみ。落ち込んでいるのか相談なのかは分からないが、美味しいご飯でも食べれば元気になるだろう。

そう思い、龍平は『新ばし 星野』の予約が来週に迫っていたことを思い出し、そこに彩奈を誘うことにした。(同期と言えども、支払いは毎回龍平である)。

「さすが龍平、相変わらず良いお店予約してくれるね〜」

意気揚々と店にやって来た彩奈を一目見て、龍平はちょっと安心した。以前と肌艶も美しさも変わっておらず、むしろ元気そうに見えたからだ。

「で、今日はどうした?何かあったんだろ?」

「実は彼と別れちゃって。次の人を探そうと思ってるんだけど、なかなかねぇ...」

彩奈と元彼の間に何があったかは知らないが、彼女ならすぐに次が見つかるだろう。

しかしそう思っていた龍平は…彼女のある部分をまだ、知らないだけなのだった。


出来る女性がうっかり2軒目で変身しがちなホームへ呼子とは?


「婚約者とのこと、大変だったね。何があったかは聞かないけど、彩奈ならすぐに次が見つかるよ」

綺麗だし仕事もできる。ついでに言うと、そこらの男よりはるかに稼いでいるし、自立している。

サッパリしている性格も、一緒にいる男性には心地が良いだろう。

「またそうやって龍平は適当なこと言うから。あのね、龍平はそんな呑気にしてるから、“奇跡の好物件”って言われながら未だに独身なのよ」

-奇跡の好物件って、何だ…?

そんな龍平の心のツッコミは当然気づかれるワケもなく、彩奈は話を続ける。

「でも自分で言うのも何だけど、性格もそんな悪くないしお金だって頼らないのになぁ」

『新ばし 星野』の季節を感じられる一品を食べながら、龍平はウンウンと頷く。






「あ〜美味しかった。やっぱり『新ばし 星野』さんは最高だわ。龍平、予約取れるなんてさすがだね。ありがとう、ご馳走さまで〜す!」

そう言ってウキウキと店を出る彩奈。

ここは、新橋である。新橋はあまり詳しくないが、2軒目へ行くなら銀座まで足を延ばすか、コンラッド東京のバー『トゥエンティエイト』にでも移動しようかなと龍平は考えていた。

「この後どうする?コンラッドのバーにでも行く?」

「そしたらさ、青山の方行かない?」

「青山?別にいいけど…。彩奈はどこに住んでるんだっけ?」

龍平自身、青山の方が家に近くなるから構わないのだが、銀座も近いのにわざわざ青山に行くのも無駄足のような気もする。

「こっちエリアは落ち着かなくて。とりあえず“ホーム”の港区へ戻ろうよ!」

ー新橋も港区だけど…?

あえて口にはしないが、龍平は小さな動揺が隠せない。

だがそんな龍平の動揺なんてお構いなしに、ぐいぐいとタクシーに引っ張る彩奈。たしかに青山界隈の方が知っている店も多いし落ち着くが、妙に強引な彩奈に、龍平はタクシーの中で思わず唸った。

「ふむ…これかな」

“え?何か言った?”と呑気に聞いてくる彩奈。そしてこの後の2軒目で、彼女が未だに独身でいる理由が分かってしまうのだった。


とにかく自分の得意エリアへ持って行こう&帰ろうとする女


“ホームへ呼子(よぶこ)”


タクシーに揺られるがまま、彩奈が行きつけだという青山にあるバーへと流れ着いた。

そこで龍平が目にした光景で、全てを悟ったのだ。
彼女が結婚できぬ理由を。




「翔ちゃん、お疲れ〜!」

そう言って、バーの店員さんと親しげに話す彩奈。そこまでは良かった。

しかし、龍平は徐々に異変を感じ始める。

「姐さんお疲れ様です!今日はデートですか?」

振り返ると、知らない男がニヤニヤしながら彩奈に挨拶をしに来た。

「違うわよ〜こちら、元同僚の龍平。龍平、ここの常連さんで、IT系の会社を経営されている橋本さん」

「あ、どうも初めまして...」

慌てて紹介された橋本という男性に挨拶をするが、この後も続々と常連客が彩奈の所へ声をかけに来る。

-なんだろう、この違和感は・・

普通に暮らしている一般人の龍平からすると、 “姐さん、お疲れ様です!”なんて挨拶は滅多に聞かない。その一方で、彩奈は満足そうに微笑んでいる。

「彩奈は、この店の何なの?すごいね」

ただならぬ常連感を醸し出す彩奈に、龍平は驚くと同時に居心地の悪さも感じた。

知り合いが多いのは良いのだけれど、あまりにも“ホーム”感が凄いのだ。

これでは一緒に来た男性が、萎縮してしまう。この人は、青山界隈の何なんだろうか、と。もしかしてすごい大物か?などの疑問を持つと同時に、自分の入る隙がなくて怯んでしまう。

「龍平も、何かあったらこのお店使って“あげて”。みんな頑張ってて、いい子達だから」

「う、うん。ありがとう」

そう言いながらも、龍平はただただアウェイ感しか感じない。そして彩奈から、決定的な一言が飛び出したのだ。

「私ね、彼氏ができたら毎回このお店に連れて来て、みんなにジャッジしてもらってるの。もちろん、コッソリとだけど」

「え?そうなの!?」

龍平は柄に似合わず大きな声を出してしまった。

彼女が結婚できない理由は、これだろう。

今回は元同期との食事だから良いけれど、これをデートでされたら男からするとちょっとキツイ。

男は見栄っ張りだから良い所を見せたいのに、ここは彼女のホーム過ぎて、自分の居場所がない。そして借りてきた猫のように萎縮してしまう。

行きつけのバーがあるのも、店員さんや常連と仲が良いのも素晴らしい。

だがまずは二人の関係をじっくり深めてから、徐々にこういう“ホーム”へ連れて行く方が良いのではないか。

-“ホームへ呼子”、だな。

常連と彩奈で盛り上がり、一向に入れぬ会話。そんな輪の中に入ることは早々に諦め、龍平は一人でぼうっと、彩奈にピッタリなあだ名を考えていたのだった。

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迎えるラスボス。宿敵・ぬらりひょん登場!!