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2014年に発覚した「ベネッセコーポレーション」(岡山市)の顧客情報流出事件をめぐり、個人情報が漏れたことで精神的苦痛を受けたとして、顧客計185人が同社とシステム開発・運用を行っていた関連会社に対し慰謝料など計1458万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が6月20日、東京地裁(朝倉佳秀裁判長)であった。

朝倉裁判長は「慰謝料が発生する程の精神的苦痛があると認めることはできないと言わざるを得ない」として、請求を棄却した。原告側は控訴する方針。

●「抽象的な不安感に止まる」

朝倉裁判長は判決理由で、ベネッセと関連会社の注意義務違反を認定。一方で、今回漏えいした氏名や住所、生年月日などの個人情報が、日常的に契約などの際に開示することが多い点を踏まえ、「一般的に『自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくない』私的領域の情報という性格は低い」と指摘。ベネッセがおわびの文書と500円相当の金券配布したことなどを考慮し、請求を棄却した。

今回の情報漏えいでは、警視庁の調べで複数の名簿業者を経て500社以上に情報が流出していたことが判明しているが、「現時点でダイレクトメールなどが増えたような気がするという程度を超えて、何らかの実害が生じたことはうかがわれない」と判断した。

また、「今回漏れた個人情報は、教育に熱心であるなど一定の評価が含まれる情報」という原告側の主張に対しては、「教育に関する何らかの思想や心情が推知されると言えるものではなく、教育事業を行う他の事業者から何らかの勧誘等があり得るといった抽象的な不安感に止まることに変わりはない」と退けた。

●弁護団「不当な判決」と批判

判決後、原告側弁護団が東京・霞が関の司法記者クラブで会見した。弁護団長の笠井收弁護士は「ベネッセと関連会社の過失と共同不法行為を認めながら、実質的に損害がないと棄却したもので、非常に不当な判決」と批判した。

ベネッセの情報流出を巡っては昨年10月、最高裁は「個人情報を漏えいされて不快感や不安を抱いただけでは、直ちに損害賠償を求めることは出来ない」とした二審判決について「審理を尽くさなかった違法があるといわざるをえない」と破棄。現在、大阪高裁で差し戻し審が開かれている。

金田万作弁護士は「プライバシーを侵害されたことは認定しながら損害が生じないというのは、最高裁判断とも矛盾した判断だ」と指摘。「今の現代社会では、基本情報がハブとなって様々な情報が紐づけられる。個人情報の価値が低いというのは、一昔前の考え方だと思う」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)