セックスだけじゃ心の安らぎも得られない

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4000人の女性に30億円貢いだと自著に記した“紀州のドン・ファン”こと和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助氏の怪死事件。

死因は「急性覚醒剤中毒」ということで変死として捜査が続いている──。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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事件の真相はわからないけど、一般的には「いい女とセックスするために大金持ちになろうと思った。4000人に30億円貢いだ。セックス目当てで高級ホステスを口説くのは手間とお金がかかるので、交際クラブのほうがいい」と誇らしげに公言して本まで出している男性に、真心を捧(ささ)げようと思う女性はいないでしょう。そんな人に「結婚しよう。最後の女になってくれ」と言われても、愛情を信じられないだろうし。

たとえ30億円かけて4000人とセックスしても、時間をかけて人との関係を築くことは学べないはず。セックスだけじゃ心の安らぎも得られない。いくら性体験が豊富でも、取っ替え引っ替えでは人の心のありようについては中学生みたいに世間知らずなままなんじゃないかな。

絶倫の富豪でなくても、女性との関係が貧しいまま高齢者になった人は少なくないと思います。週刊誌ではしつこいぐらいに女性器特集を組んだり、「70でも80でも90でもセックス」とか、どうかしているとしか思えない見出しも。

それが熟年層に売れるというのだから、正直、あんたらいい年してこれまで何やってきたわけ?と言いたい。そこそこ見てきたでしょ、女性器も。たくさん見たからって何がわかるわけでもないですよ。顔が全員違うのと同じことなんだから。むしろひとつの女性器の経年変化を見たまえよ。もしも相手を人間だと思っているならね。

なぜかくも貧しい女性観が少なからぬ人々の間で共有されているのかと考えれば、それは彼ら自身が単なる労働マシーンと見なされて人間扱いされてこなかったからだろうと思います。自分が人間だってことに気がついてなければ、相手の人格なんて意識するはずないよね。

しかし4000人とセックスしたい男性なんてどれくらいいるのかな。4000は多すぎやしませんか。恋する時間すらとれないじゃないですか。女性から見ても全然セクシーじゃないですよ。射精したいだけの人なんて、つまらないですから。

性欲ってもっと複雑でめんどくさくて難解で、もしかしたら性行為とは別物なんじゃないかって気がします。死ぬまでセックス特集を穴のあくほど読んでも、若い娘をお金で籠絡してバイアグラ飲んで思いを果たしても、満たせないものなんだろうという気がしますよ。

官能はお金じゃ買えません。粘膜の接触より、脳みそ混ざるほうがよっぽどエロいしね。脳みそ混ぜるには知性が必要です。それさえあれば、きっと生涯現役でしょう。

●小島慶子(こじま・けいこ)

タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『絶対☆女子』『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(共に講談社)など