中野氏はハメスの凄さについて「間合いの取り方が非常に巧み」と語る【写真:Getty Images】

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日本代表の前に再び立ちはだかる天才レフティー 「間合いの取り方が非常に巧み」

 日本代表は19日に、いよいよロシア・ワールドカップ(W杯)グループリーグ第1戦のコロンビア代表戦を迎える。

 今大会での命運を左右する大一番となるが、日本が最も警戒すべき相手といえば、やはり「背番号10」をつける左利きのMFハメス・ロドリゲスだろう。

 負傷により初戦の日本戦を欠場する可能性も報じられているが、出場すれば日本が1-4と惨敗した4年前のブラジルW杯の試合でも1得点を決めたエースをいかに止めるかが、最大のテーマとなる。コロンビアの10番のプレーは、何が凄いのか。ドイツ在住の日本人コーチである中野吉之伴氏に、今季バイエルン・ミュンヘンで輝きを放ったハメスのプレーを分析してもらった。

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 ハメス・ロドリゲスの凄さとは、どこにあるのだろうか。

 まずハメスはボールを失わない。技術レベルが極めて高いというのはもちろんだが、技術とはある限られた局面でしか発揮できないものであってはならない。たとえ狭いスペースで相手からのプレッシャーを受けながらでも、状況に応じた駆け引きの中で相手を上回るスキルが求められるわけだが、ハメスにはそれがある。スムーズにスペースへボールを運びながら、ボールをコントロールしてみせる。

 だが、そうしたスキルが優れているからというだけが、「なぜハメスはボールを失わないのか」という理由にはならない。彼は間合いの取り方が非常に巧みなのだ。

 相手が簡単に飛び込めないように距離を微調整しながら、ボールを受ける前の諸動作で相手をけん制する。相手が間合いを詰めて激しく取りに来たらタイミング良くスッと距離を取って、直撃を避ける。コンタクトが要求される局面でも最近は上半身をうまく使いながら潰されることなく、ボールをさばいていくことができている。相手に体重を預けながらでも体勢を崩さない、“軸”の取り方が上手いのだ。


“間”の使い分けが適切で鋭い

 さらに相手の動きの逆を取って、鋭いターンや細かいステップで体を入れ替えて抜け出すプレーも得意だ。小刻みな間とゆったりとした間――その使い分けが適切で鋭い。

 相手との間合いをコントロールしながら、同じ体勢から様々な種類のパスやトラップ、シュートを正確に繰り出せるので、常に相手のタイミングをずらしてパスを送ることが可能だ。

 例えば、インサイドでサイドへパスを出すと見せかけておいて、相手がそれに食いついたらそのまま少しボールを流し、体を倒しながら裏のスペースへスルーパスを送る。あるいは、浮き球をコントロールする素振りをしていたのに、最後の瞬間に足首だけの動きでスペースにボールを運び、相手のマークを一気に引きはがしてみせる。ワンステップで多角的にパスを供給できるので、ギリギリまで相手を引きつけることができるのも魅力だ。

 間合いの取り方が上手いことは、守備でも生かされている。相手への距離の詰め方が上手く、またスライディングタックルを仕掛ける時でも、タイミングと位置取りとスピード感覚が適切なので、ただブロックするだけではなく、しっかりと奪い返すことができる。バイエルンの試合では何度もハメスが中盤でボールを奪取し、そこからカウンターを仕掛けるという場面が見受けられるのだ。


守備におけるポジショニングも向上

 加えて試合の流れを読むことができる点も、高く評価されるべきところだろう。とはいえ、バイエルンに加入した頃のハメスは、まだプレーが途切れ途切れだった。時折素晴らしいプレーを見せたかと思うと、不用意なドリブルでボールを失ってしまう。だが、それもユップ・ハインケス監督が来て、チームの戦い方に順応するための時間をじっくり与えてもらったことでしっかりと克服した。今では非常にバランスの取れたプレーを見せている。

 ボランチでもインサイドハーフでもトップ下でも、どこで起用されても柔軟に対処する。特に守備におけるポジショニングが向上し、試合の流れに絡み、ゲームをコントロールしながらチャンスメイク、ゴールメイクに頻繁に顔を出す。

 コロンビアの至宝は成熟さを増し、一段上のレベルの選手へと成長を遂げている。

[著者PROFILE]
中野吉之伴
1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。


(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)