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「なかなかいい学生を採用できない」。そう悩む中小企業の多くは、面接を自社の会議室で行っているようです。採用コンサルタントの礒谷幸始さんは「私はスターバックスで面接を行うことがよくあります。開放的で、学生にとってもなじみのある空間なので、話したいことを十分に話してもらえる。企業にとっても、学生にとっても、いい結果が出ます」といいます――。

※本稿は、礒谷幸始『1万人を面接してわかった 上位5%で辞めない人財を採る方法77』(プレジデント社)の一部を加筆・再編集したものです。

■面接会場はスターバックスでもいい!

面接の会場は、自社の一室や貸会議室が当たり前。こんな常識にとらわれる必要はまったくありません。街のカフェ、いわゆるスタバでもいいのです。

スターバックスでは、就活解禁直後は特に、就活生と人事と思われる人の数が明らかに増えます。スタバに限らず、タリーズ、エクセルシオール、ドトール、プロントなどのカフェチェーンでも、リクルートスーツの学生とスーツの社会人が1対1で面接、面談しているのを見かけたことがあるのではないでしょうか。

実際、ベンチャー系企業の中にはそれを実行している会社も少なくありません。オフィスを見せづらい中小企業なら、むしろ自社よりベターと言えるでしょう。若者である学生も歓迎してくれます。

密室で窓がない会議室だと、学生は心理的に追い込まれます。会議室の設計デザイン次第では、まるで取調室のようなことがあります。

そんな箱のような部屋の中で、面接官の前に座った途端、緊張感はマックスに達しているでしょう。目の前に怖そうな顔の社長でもいれば、なおさら萎縮してしまいます。面接後の社長の感想は、「最近の若いやつはモノも言えんな」の一言で終わってしまうかもしれません。

という私も、身体が人より大きく、座っているだけで威圧感があると学生からフィードバックを受けたことがあります。「会議室+あなた」の印象は、自分が思っている以上に違う印象を与えます。

学生を見極めようと思ったら、話したいことが十分に話せる環境を作ることも、まずは大事です。もちろん、緊張感がある中でどう対応できるかもチェックはしたいところ。

心理状態がフラットなときとどう変わるのか。そのギャップを知りたければ、次回の面接の会場設定を会議室などに変えればいいのです。どんな意図でその面接をするのかによって効果的な場所を選んでみてください。

私自身、面接にスターバックスも愛用しています。少人数の面接で、1人ずつ時間をずらして行う場合や、何度目かの面接で個別に行う状況になったケースなどがそうです。

パチンコ業界のフィールズで採用担当をしていた当時は、ネットの採用ページに高学歴の学生のエントリーがあった瞬間に、そのエントリーした学生に直接電話をし、「スタバで情報交換しませんか?」と提案していました。パチンコ業界は学生にとって人気業界ではないため、数少ない高学歴の学生とはすぐにコンタクトを取って採用したかったのです。

スタバは学生にもなじみがあり、全国各地にあります。アクセスしやすい場所に多く、隣席との間隔が広くて落ち着ける空間であり、店内のデザインも良いので、個別の面接の場として借用するには最適です。東京・目黒駅そばの店舗など、おしゃれな店や見晴らしの良い店もあるので選択の幅もあります。京大、立命館大などの学生であれば京都三条大橋店などがおすすめですが、時期によっては席が取れるかどうかがカギになります。

スタバ以外ならタリーズコーヒーやエクセルシオールカフェ等。隣席との距離が近すぎるマクドナルドなどは、その点でやや不向きです。私は都心の丸の内、品川、目黒、恵比寿、渋谷、新宿、池袋、横浜などをはじめ、札幌、仙台、新潟、名古屋、京都、大阪梅田・なんば、兵庫西宮・三宮、広島、福岡など、全国の都市で面接に適したカフェを開拓済みです。

また、就活生は電源コンセントやWi‐Fiを欲しがるもの。ノマドワーカーが利用していそうな電源カフェとして知られるワイアードカフェなども近年できていますが、スタバも充電用の電源を無料で使える店が各地にそろっています。

面接時にはコーヒー代はもちろんこちらがもちますが、終わったら「じゃあ私は別件があるので」と先に立ち去ることも。その際には、コンセントの使いやすい席を学生に教えてあげ、コーヒーもそちらに運んであげます。そういう気遣いも大切です。

就活生にとっては、オフィス内の面接で、終わったら自分が社外へと移動しなければならない場合より便利でさえあります。店内に残って資料を広げることもできますし、Wi‐Fiを利用してもろもろの必要な活動をすることも可能だからです。

■学生によって面接回数は臨機応変に

欲しい学生を思うように採れない会社は、選考プロセスの設計が十分にできていないことが多々あります。逆に言うと、自社で作り上げてある選考プロセスにこだわりすぎていて、そこから逸脱する柔軟性がないということ。

例えば、面接のルールを、(1)人事の採用担当者→(2)現場面接→(3)人事部長→(4)最終面接と固定化して、誰に対してもそれを適用している、といったことです。

「この子、優秀だな。採りたいな」と判断できた学生なら、4回にこだわらず、いきなり最終面接にとんで「内定」でもいいのに、何がベストな設計かの分析・検討を怠っているわけです。

せっかく自社で働いてくれると言っているのに、段取りにこだわっている間に、学生側も不安になったり、「あれ、違うかな?」と心境に変化が生じたりして、選考辞退ということにもなりかねません。

逆に、4回どころか10回やってもいいかもしれないケースも出てきます。学生の思考がなかなか定まらず、評価は高いのに学生側が自社に対してやや消極的な場合です。

■面接回数は多いにこしたことはない理由

しかし、ただ回数を漠然と増やせばいいというものでもありません。とくに後者の場合、学生との接触回数の多さを活用して、十分なプロセス設計を行う必要があります。学生の育成と意思決定を一段階ずつ引き上げる設計です。

「どのようにすれば、うちに来てくれるだろうか」と、時間をかけてベストな設計をする。戦略・戦術を練ることです。面接を重ねることで情報も蓄積できますから、それを基に個別の戦略設計を行い、戦術を練るのです。

私は、面接回数は多いにこしたことはないと考えています。心理学でザイオンス効果と呼ばれるものがありますが、接する回数が増えるほど、対象に対して好印象を持つようになる心理現象のことで、営業やマーケティングにも応用されています。

男女交際でも、最初のデートで長時間がっちり付き合うよりも、1時間程度の軽いお茶やランチ程度の付き合いを繰り返すほうが、親密度は増すと言われています。

学生は社会経験のない、いわば大人社会のシロウト。他方、学生を採れないと悩んでいる会社。学生が納得感を持つに至り、会社側も「じゃあ覚悟、決めたんだね」と言えるようになるためには、お互いに接触機会を増やしたほうが、当然ながら入社に結びつく確率は上がるでしょう。

要は、人事担当者がその学生とうまく関係を築いて、いかに相思相愛に至ることができるかです。そのための設計作りは学生ごとに違っていいのであって、自社の固定したルールにこだわる必要はないということです。

私は実際、自分の意思がまだ定まっていなかったり、他企業に気持ちが傾いていたりする学生に、「面接8回」をした経験があります。内定を出してからの面接では意味がありません。学生には、「この面接を乗り越えないと、あなたには内定が出せない」という態度を取り続けました。

なかなか内定を出さないで、嫌がらせのように思うかもしれませんが、そもそも私の面接は、面接というよりは基本的に学生の相談に乗ってあげているという感じで対応しています。そのことが大切なのです。学生にとって、不安はあるが不満ではない面接です。

■志望動機を聞いてはいけない

面接で聞く定番の質問が、志望動機です。これはエントリーシートも同様です。しかし、志望動機は聞いても意味がありません。

なぜなら、それはファクトではなく学生が作り上げたストーリーだからです。何かの事実を材料に、その学生なりの解釈をして作り上げたストーリー。それを聞いても、本当に欲しい答えは見つかりません。大抵最初に出てくる志望動機の奥には、もっとリアルな欲求が隠れています。

学生をあまり理解できていない面接官は志望動機を尋ねて、「うちの会社のこと、わかってないな。全然、勉強してないね」「モチベーションが低いし、志望動機も弱いから落とそう」となりがちです。

本気で人財を採りたいのならば、学生をより深く理解すべきであり、その理解は、作り上げられた志望動機を尋ねることなどでは得られません。

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礒谷幸始(いそや・ゆきはる)
リード・イノベーション 代表取締役 コーチング・コンサルタント
1981年、千葉県生まれ。私立江戸川学園取手高校から立命館大学経営学部へ進学。大学時代はアメリカンフットボール部に所属し、主将としてチームを大学史上初の日本一に導く。2003年に卒業後、日本アイ・ビー・エムに入社。営業活動をしながら、社会人アメフトXリーグ1部所属IBM BigBlueのキャプテンを務める。その後、人事として、エンターテイメント企業、東証一部飲食チェーン企業の人財開発部門のGMを歴任。2015年に株式会社リード・イノベーションを設立し、代表取締役に就任。

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(リード・イノベーション 代表取締役 コーチング・コンサルタント 礒谷 幸始 写真=iStock.com)