悲劇の予感に満ちた母子の関係を描く押見修造さんの『血の轍』の待ちに待った第3集が刊行。

一見、普通。でも何かがおかしい。鬼才の描く母というファムファタル。

母・静子と一人息子・静一の“毒母もの”といわれてもいるが、簡単にそうとくくれない不穏さに満ちている。

「静一の母をモンスターとして描くだけで終わらせず、母性の不可思議さに迫っていきたいと思っています。一方で、家族の和は取りもつが肝心なところは見落としている父親や、しょっちゅう家に来るいとこなど父方の親戚たちの様子も異様ですよね。『あれではお母さんがおかしくなるのも不思議はない』という、静子への同情の声も聞こえてきます」

普通そうに見えて普通ではない長部家の様子を、もっとも端的に表しているのは食事の風景だ。

「ごはんには、親子関係が表れると思います。静子が用意する朝ごはんが肉まんとあんまんの2択という設定にたどりつくまで、熟考しました。あからさまにおかしいわけではないですが、違和感がある。母親が息子をくすぐって起こすというのも、母子の関係性や母親のキャラクターによるでしょうが、静子と静一の場合はどう映るか。母は息子に対して彼氏を求め、息子は無自覚にそれを受け入れています。ふたりの間で、言語化されないまま関係性ができあがっているところが不気味だし、その空気感が出せていたらいいなと」

静子の過剰な母性に、じわじわと搦めとられていく静一。そうとは知らず、クラスメイトの吹石さんは静一に好意を寄せる。

「静一にとっては、違う世界への扉ですが、正義のヒロインというだけの存在にせず、彼女が抱えているものの正体も探っていきたいです」

押見さんの圧倒的な画力に惹かれるファンも多い。母や静一のうつろな表情をどう読み取るかで、物語の印象が変わってくるのも面白さだ。

「画では光もテーマです。顔にかかる影や逆光のときの表情、夏空などから、光を感じてもらえれば。斜線の塗り残しだけで輪郭線を出すなど、小さな実験を繰り返しています」

トーンを使わずにすべて手描きにしているという本作は、押見作品の魅力を堪能できること間違いなし。

押見修造『血の轍』3 「思春期には親に気を遣うあまり、ちゃんとした反抗ができなかった」と語る押見さん。私小説的な要素も入っているとか。待望の第4集は、9月末ごろ発売予定。小学館 552円。©押見修造/小学館ビッグコミックスペリオール

おしみ・しゅうぞう マンガ家。1981年、群馬県生まれ。2002年にデビュー。映像化された作品が多く、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』は7/14 公開。「血の轍」も現在好評連載中。

※『anan』2018年6月20日号より。写真・大嶋千尋 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)