問題児ばかりが集う閉塞的なオフィスに、ある日突然見知らぬ美女が現れたー。

女派閥の争いにより壊滅的な状況に直面した部署に参上した、謎だらけのゴージャスな女・経澤理佐。

理佐は、崩壊寸前の部署の救世主となるのか?

「墓場」と呼ばれる部署に、ミステリアスな女・理佐がやってきた。

派手で超美人な彼女はお局女性陣・おつぼねーずから早速目の敵にされ、ウェルカム洗礼を受けながらも、直接対決では優勢に立ち反撃のすきを与えなかった。

さらに、営業部にはびこる不正を暴き、その手腕を経理部以外でも発揮する。

だが、以前から噂されていた、経理部長と理佐の関係。2人がコソコソ会議室に入る姿を春菜は目撃してしまう。果たして理佐の正体とは?




5月も半ば。天気がいい日には少し汗ばむくらい、日差しが強くなってきた。

春菜と理佐の決算作業も、いよいよ大詰めである。

-これで、女子会にもお食事会にも参加できる日々が戻るかも!自分を自分で褒めてあげたい!

まだ気が早いとは思いつつ、春菜は感激していた。

他の企業との残高確認も終わらせた。後は、役員と経理部長と顧問税理士で最終の決算数字をどう出すのか、すり合わせと調整、その修正が入る程度だ。

営業部の不正で沈んだ心も、理佐と部長のコソコソとしたツーショットを目撃したショックも、ようやく見えた決算業務の終わりに春菜の気分も明るくなる。

しかしそんな矢先、またしても事件は起こるー。



「経理部、中途採用しないってどういうことですか!?」

あれだけ新入社員を嫌がっていたはずの、おつぼねーずが声を荒げて課長に詰め寄っていた。

特にボス的存在の藤沢陽子は、ただでさえ吊り上がった眉をさらに吊り上げ、般若のようである。

「一度、今の体制のまま出来ないか試しにやってみよう、っていうくらいだから、ね?ね?」

課長が、経理部の仕事や残業時間の現状を踏まえ、募集の求人を取り下げるという話をしたのだ。

経理部は、人数が半減して一時期は仕事が滞っていたが、今は大幅な遅れがある業務はなくなり、何とか回っている状況である。上が、一旦このメンバーのまま行くという判断をするのも分からなくはない。

ただ、おつぼねーず含め、経理部一人一人の業務量は必然的に多くはなっている。

以前までは、繁忙期以外は暇な時期もあったが、今やゆとりは皆無。

このような状況を、プライベート重視のおつぼねーずが黙っているはずがなかった。


人を増やさないと言われたおつぼねーずの反乱 その手段とは


「え?君も金曜日?」

経理課長の驚く声が経理室に響いた。今週金曜日の有給申請が3人目なのだ。

おつぼねーずたちが、有給を一斉に取り仕事が回らなくなることで、新人を入社させ、自分たちが楽になろうとしている事は、見え見えである。

ただ、春菜はおつぼねーずの、今までのウェルカム洗礼を思い出す。

-入社させても、どうせ辞めさせるのに…。



「西野さん、提案があります。」

おつぼねーずが休む前日、木曜日の夜。

理佐が急に春菜に話しかけてきた。2人きりの時はいつもなら和やかな雰囲気を醸し出す理佐が、今日に限っては鋭い目つきをしている。

春菜は、ビクリと身体を強張らせた。部長と理佐が2人でいる事を見てしまったことに気付かれたかと思ったのだ。

ところが、彼女の口からは予想していなかった言葉が飛び出した。

「そろそろあの3人衆に、メスを入れたいと思って。」

理佐の話は、今度おつぼねーず3人が休んだ時の業務を完璧にやってのけたいので、少し手を貸してほしいとのことだった。

おつぼねーずは、自分の担当の仕事をとられるのをすごく嫌がる。

新しい業務を押し付けられると頑なに拒否するのに、自分たちが以前から担当している業務については、絶対に口出しされたくないらしい。

なので、彼女たちが休んだ時には、よっぽど急ぎの時以外は、敢えて仕事をおいておくのが暗黙の了解なのだ。

-部長との話じゃないのね…。

春菜は少しホッとしつつ、おつぼねーずが怒りそうなことをあえてするという事にドギマギする。

「大丈夫。こんな絶好のチャンス、みすみすと逃すなんてもったいないわ。」

理佐の整った横顔は、とても凛々しく神々しかった。




迎えた月曜日。朝からおつぼねーずは、勝手に仕事に手をつけた理佐を取り囲むように立ち、詰め寄っている。

「ご出社された際に仕事が溜まっていたら嫌かなと思いまして。ご迷惑でした?」

おつぼねーずに突っかかられても、ひらりとかわして平然と答える理佐。

「間違えているかもしれないから、もう一度やり直しだわ。もし間違えていて私のせいにされるのはまっぴらだもの。あぁ二度手間、時間の無駄遣い。」

そう言って手をヒラヒラさせて大げさに嘆く。そして「ホント自分勝手よねぇ」と聞こえるように、おつぼねーず井戸端会議を繰り広げ始めたのだった。

「お取込み中、ごめん下さいね。」

理佐はスッと自身のPCのモニターをおつぼねーずの方に向けた。

「Excelで数式を組みました。IFやVLOOKUPを使えば、間違いがないかチェックはすぐできます。一度関数を組んでしまえば、毎回使えますよ。」

理佐は、ただ仕事をこなすだけではなく、先回りし2重チェックを行うような数式を組んだExcelを作成したようだ。

確かにおつぼねーずの入力する伝票には、よく間違いがある。

今後、こういったチェックを入力の後にしてもらえると、後々の修正が減る。

「単純入力の仕事は減っています。領収書を写真に納めるだけで伝票入力までできる時代。人だからこその仕事をしないと、時代に取り残されちゃいますよ。」

春菜は脳内で、拍手喝采スタンディングオベーションしていた。あとは彼女たちがどう反論するか…。

黙りこくるおつぼねーず。ぐぬぬという音が聞こえそうなほど肩を震わせており、一触即発の雰囲気。


この空気を破るのは、まさかのおつぼねーずのアノ人だった


「あのぉ…この表、貰えないですかぁ?」

そんな空気を壊したのは、おつぼねーず一番の若手、水沢沙織だった。

春菜は、沙織の言葉を聞いてギョッとした。だが反対に、理佐は女優ばりの余裕の笑みを浮かべる。

「ええ、もちろん。皆さんのお力になりたかったんです。嬉しい。」

黙りこくっていたおつぼねーずのボス藤沢陽子は、声を発することなく踵を翻し、ガツガツと経理室から出て行ってしまった。

2番手の相沢由美は、陽子と沙織どちらを追うか悩むように、右往左往した後、結局陽子に続くように経理室から出て行った。

残された経理室は、シンとした物々しい雰囲気に包まれていた。

そんな中、理佐は「じゃあ説明を」と切り出して、沙織に話し始める。

理佐の説明をする声はおつぼねーずを牽制する時とは打って変わって柔らかく、一方の沙織もメモを取りながら一生懸命聞いているようだ。

次第に、経理室の雰囲気は元に戻っていった。



夜、経理室が静まり返る頃、沙織が理佐に恐る恐るといった様子で近寄ってきた。

「あの…数式の作り方、教えて欲しいです…なんて…。」

「もちろん。数式に興味があったのですか?」

突然の声かけにもかかわらず、薄ピンク色のベールを帯びたような優しいオーラを、ふわりと醸し出す理佐。表情や声の質、オーラを自由自在に操るところは感動するレベルだと、春菜はつくづく感じる。

「実は前に、私も課長に営業部に行かせるって言われた事があって…まだ若いし転職しようと思ったんですけど、転職エージェント?に、ある程度は関数使えないとって言われて…。」

彼女が転職を考えたことがあったことに、春菜は驚く。

「でも陽子さん、あんな感じじゃないですかぁ。仕事の仕方とか変えようとしたら、自分だけ抜け駆けするの?今のやり方のままでいいから!って怖くてぇ…。」

要は、陽子は自分が出来ないことを認められず、新しい事への変化が許せないのだ。

そう言えばずっと前にも、データ入力の効率化の手段を沙織が提案した時、陽子が「今までのやり方を変える意味が分からない!私のやり方に文句あるの!?」と息巻いている場面を見たことがあった。

新しい試みに対して反対する人は一定数いる。陽子もまさにそのタイプで、否定的な感情で周りの人を巻き込んでいたのである。

春菜が呆れて顔を上げると、理佐と目が合い、うなずき合う。どうやら理佐も同じことを考えているようだ。

「入力作業の自動化とか聞くと、いてもたってもいられなくってぇ。でも、勇気出してよかった。最近の西野さん、いろんな仕事して楽しそうで。ちょっとうらやましくなったの。」

-いろんな仕事をしているのは、あなた方おつぼねーずのせいですけどね…。

自分の都合の悪いところはちゃっかりと棚に上げる沙織に、春菜は苦笑いするしかなかった。




その後、理佐は部長課長に確認をとり、翌日から沙織の座席を春菜の隣にした。

翌朝、経理部に出勤したメンバーはその座席を見て騒然とし、異様な雰囲気である。

だが、理佐と沙織は親しげにしょっちゅう話している。沙織の態度が変わったことが分かるにつれて皆も安心したのか、少しずついつもの空気が戻ってきた。

いや、今まで以上に和やかな雰囲気に変わりつつある。

春菜は、理佐の言っていた『3人衆にメスを』という言葉を思い出す。それは、おつぼねーずを解体させるという意味だったのだろう。

春菜はこの状況を喜びながらも、沙織の突然の変化には少し戸惑っていた。

-水沢沙織はおつぼねーずから脱退したように見えるけど…信じていいのかしら…。

陽子と由美は相変わらずそのままで、2人きりで行動するようになった。今のところ特に騒ぎ立てる様子もなく、ずいぶん大人しくしている。

ただ、春菜は気付いていた。

異常なほど頻繁に理佐の様子を伺う、おつぼねーずナンバー2、由美の目線を-。

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ついにおつぼねーずが分裂し、動き始めた経理部。しかしそう簡単に平和は訪れない…!