疲れているのに眠れない。寝たのに寝た気がしない。眠れない女性は増える一方……。前回につづき、不眠症と心の状態について、データをご紹介しながら考えてみます。

心の病気が“日常に支障をきたす疾患”No.1になる

不眠とうつの関係については、こんなデータもあります。

「いま現在、不眠のある人が1年後にうつ病を発症するリスクは、不眠のない人と比べて40倍高い」

不眠とうつ病は非常に相関関係の高い症状であることは明らかになっています。ですから不眠が続く場合、それは“心の状態を問う必要がある”というメッセージと受け取る必要があるのです。若い人に限らず、どの年代についても当てはまります。

心の健康は、体の健康よりも放っておかれがちです。体の不調は熱が出たり、湿疹などが出たりするのでわかりやすいですし、怪我したときは治るまでケアしますよね。けれども心のほうは、不調のサインが出ていても、ついつい「まだ大丈夫」「まだ頑張れる」と見逃しがちになってしまいます。しかし心の疾患は、体の病気や怪我よりも長いつきあいになりかねません。だからこそ早くその兆候をとらえ、異変に気がついたらすぐに手当する必要があるのです。

仕事の集中力の低下は大事なサイン

WHO(世界保健機構)は、「2030年には日常生活に支障をきたす疾患として精神疾患が第1位になる」という予測を発表しています。心の疾患は世界的にも重大な疾患なのです。

働く世代についてもその傾向は明白。労災補償にかかる件数をみると、脳疾患や心疾患は横ばいですが、精神疾患については上昇傾向にあります。日本人は心のエネルギー不足を、気合という精神論でなんとか乗り切ろうとしてしまう思考のくせがあり、無理して頑張り続けてしまうのです。

■精神障害と労災補償件数の推移(データ:厚生労働省)

精神的な症状で労災保険を申請する人は2000年と比べて7倍以上。

青:請求件数 オレンジ:認定件数 黄:うち自殺
2000年には212件だった精神障害の労災補償件数が、2015年には1515件と7倍以上。
認定件数は2000年36件に対し、2015年472件と13倍以上。

きちんと眠れていなければ当然、頭もボーッとしますし、遅刻や欠席も増える傾向にあります。仕事中の集中力は低下し、ミスも増え、協調性やクリエイティブ力は低下……。ストレスが積み重なって、それをなんとか発散しようと、暴飲暴食をしたり、お酒を飲み過ぎたり、甘いものを食べすぎたり。われわれは24時間の時間軸で生きているので、昼と夜の双方から、心の状態や眠れない原因を今一度、確認してみる必要があります。

放っておかれがちな心の健康。仕事中のサインを見逃さないで。



■賢人のまとめ
ストレスの多い現代社会においては、きちんと眠ることがますます大切になってきます。身体に比べて心の異変は放っておかれがちで、深刻な症状になってから対処する人が少なくありません。眠れない状態が続いたら、放置せず、しっかり眠れない原因を確認しましょう。

■プロフィール

睡眠の賢人 友野なお

睡眠を改善したことにより体質改善に成功した経験から、睡眠を専門的に研究。
科学でわかるねむりの環境・空間ラボ主宰。著書に『やすみかたの教科書』(主婦の友社)、『疲れがとれて朝シャキーンと起きる方法』(セブン&アイ出版)、『正しい眠り方』(WAVE出版)など。