もっと料理を楽しみたいと思ったら、何を備えておくべき? 基本のき、といえばやはり包丁。料理上手でも知られる作家の辻仁成さんがその向き合い方を綴ります。

「味を引き締めるもの」

包丁というのは切れすぎてもいけません。和食の達人などは包丁が切れすぎると魚が美味しくならないというのでわざとちょっと切れを悪くするような料理人さえいるくらいです。刺身なんかは繊維に対する刃の入れ方次第で美味しさが変わりますから切れ味は大事ですが、魚を知り、包丁を知り尽くしていないと最高の味を引き出せないわけです。

母方の先祖が立花藩の刀鍛冶でしたから包丁を持つことが子供の頃から好きでした。でも、とくにこだわりはありません。有次も使えばグローバルも使います。とくに料理は毎日のことなので圧倒的にグローバルが便利です。有次は刀に近いのでしょっちゅう面倒みてやらないとなりませんし、血の匂いのような鉄成分を嗅ぎ分けて研ぎ続けなければならず維持に手間がかかります。グローバルの包丁は研ぎ石じゃなくてイケアで買った研ぎ機で十分ですから重宝しますし、タリアータ肉のような表面が硬く中が柔らかい肉でさえも、すっと引くことができます。

けれども月に一度は近所の市場に出る研ぎ屋さんに行き調整方々研いでもらっています。プロが研いだ後の包丁はまるで別物。恐ろしい感じさえしますよ。しかし、生きていたものを料理するわけですから、この緊張感と畏怖が味を引き締めているのも間違いありません。包丁を究め、包丁と向き合うことが料理上達の一番の鍵なのです。

手順が色々とある包丁研ぎは、プロに任せればより安心。『築地・有次』では、ひとつひとつ手研ぎで丁寧に研ぐので、包丁を傷めず大満足の仕上がりに。他社製品も受け付け、修理にも対応。1丁1000円前後〜。東京都中央区築地4-13-6 TEL:03・3541・6890 6:00〜15:00 不定休 郵送可。

つじ・ひとなり 作家、ミュージシャン、映画監督。SNSで紹介している、一人息子に作る、愛情たっぷりの料理が話題に。レシピ本、料理小説などの著書も。最新刊は『真夜中の子供』(河出書房新社)。

※『anan』2018年6月20日号より。写真・中島慶子 イラスト・勝山八千代 文・辻 仁成

(by anan編集部)