ドイツ戦では黒子役として出色の出来を見せたチチャリート(右)。重鎮はタイムアップの瞬間、こみ上げる想いを抑え切れず泣き崩れた。(C)Getty Images

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 激しい闘争心、惜しみない運動量、そして攻守両面での一糸乱れぬ連動性。もはやアップセットとは言わせない。メキシコ代表は勝つべくして、大国ドイツに勝利したのだ。
 
 6月17日のグループF第1節、首位通過を争う両国がモスクワで激突した。ボール支配で劣勢に立たされながらも高質な堅守速攻をツボにはめたメキシコは、35分にイルビング・ロサーノが鮮やかに先制点を奪う。その後もドイツの猛攻を受けながら、機を見てはカウンターで手数を出し、ゲームを掌握し続ける。用意周到なゲームプランを完遂し、1-0の快勝を収めた。
 
 メキシコにとってドイツは、文字通りの天敵だ。今回の対戦を前にした通算成績は1勝5分け5敗。唯一の勝利は1985年と大昔の話である(つまりは33年ぶりの勝ち星)。ワールドカップでは3度対戦し、1分け2敗。1978年大会のグループリーグと98年大会のラウンド・オブ16で敗れ、86年大会は準々決勝で1-1からのPK戦で苦杯を舐めた。とりわけダメージが大きかったのは自国開催だった86年大会の屈辱で、メキシコはその大会を最後に8強の壁を崩せないでいる。ドイツは苦手な対戦相手だった。

 
 それだけに、喜びもひとしおだ。今回のワールドカップでの初勝利を受け、地元メディアは母国代表チームに手放しで賛辞を贈っている。
 
 スポーツ専門チャンネル『FOX Deportes』は「メキシコ・フットボール界にとって最大の衝撃だ」と題し、代表チームの組織力を高く評価。「ドイツは時間が経つにつれて焦りを増長させていった。まさにメキシコの術中にはまり、2点目、3点目を取ってもおかしくないほどだった」と称えた。かたや、全国紙『Milenio』はファン・カルロス・オソリオ監督の采配を褒めちぎった。「あの時間帯に先制点を奪えたのは理想的だったし、その後の戦い方を楽にした。後半のオソリオ監督の交代術は見事。ドイツはマルコ・ロイスやマリオ・ゴメスを投じてきたが、巧みに交代のカードを切って守備を強化して応対したのだ。動じることなく、実に冷静だった」と報じている。
 
 メキシコ代表チームの公式SNSはもはやカオスに近く、歴史的勝利を称えるコメントで溢れ返っている。「グラシアス(ありがとう)、戦士たち!」「美しい勝利だった」「君たちが真の英雄だ」「どこまでも勝ち続けてくれ」「もはやドイツは叶わない敵ではない」など、国民もサポーターも興奮覚めやらない状態だ。
 
 オソリオ監督はこうファンに呼び掛けた。
 
「今日、我々はアドバンテージを得ていた。遠く離れた母国からこれだけたくさんのファンが応援に駆け付けてくれたからだ。あらゆる場面で、我々をサポートしてくれた。選手たちを奮い立たせてくれた。その想いに勝利で報いることができて、本当に嬉しい」

 
 無論、この1勝で満足するつもりなどない。メキシコは過去6大会連続でラウンド・オブ16に進出しているが、すべてそこで敗北を喫している。32年ぶりの8強超えは、チームと国民にとっての悲願なのだ。
 
 次なる対戦相手は韓国。こちらは通算成績が6勝2分け4敗と分が良く、ワールドカップでは98年大会のグループリーグで一度だけ対戦し、メキシコが3-1で勝利を挙げている。