インドのArun Kumar Bajajさんは、ミシンで本格的な絵画を描いてしまうという珍しいアーティスト。海外のアート系メディアは、「世界で一人」と言っている。

一見するとリアリズムの油絵に見える彼の作品は、どれも刺繍と同じ要領で作られ(描かれ)ている。だが、刺繍よりはるかに細い糸を使うため、ディテールの表現が恐ろしいほど明確だ。

一度は挫けた画家になる夢

幼少の頃から絵を描くのが好きで、周囲からも才能を認められていたArunさんは、画家として有名になるのが夢だったという。

しかしその夢は、15年前、父親の突然の死によって絶たれた。家業の仕立て屋を継がなければならなくなったからだ。彼は絵の勉強のために通っていた学校をやめることになるが、それでも画家になる夢は捨て切れなかった。

仕立て屋と画家を両立させる

仕立て屋の家業を続けるArunさんが、自分の夢を追うために始めたのが「針と糸で絵を描く」ことだった。そのために彼が選んだツールは、いつも仕事で使っているミシン。

「僕は12才の時から、これまで23年間ミシンで縫い物をやってきました」と海外メディアに語る35才のArunさん。「父は仕立て屋で、僕が16才の時に亡くなりました。なので、僕は学校をやめ、店を継がなければならなかったのです」

「僕は、一生仕立て屋で終わりたくはありませんでした。それで、ミシンの技術と絵の技術を組み合わせました。自分の名前を、どうにかして世に認めてもらいたかったんです」

ミシンだから可能になるディテール

手芸の刺繍で見事な絵を描くアーティストは、世界を探せば少なくない。だが、ミシンでそれをやるのは「彼一人」と海外メディアはコメントしている。手縫いよりはるかに細かく縫えるミシンなら、驚くほど詳細なディテール表現が可能になる。

「作業はとても注意深く、正確にやらなければなりません。一度間違えると修正はほぼ不可能だからです」とArunさん。「それに、一度縫った糸の上に重ねて縫うこともしません。美しく仕上げるには、糸は一層でなければならないのです」

現在も彼は、インド・パティヤーラー県のアダラットバザーで店の営業と絵画制作を続けている。1つの作品を仕上げるのに1年以上かかることもあるそうだ。