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大切な老後資金を守り、増やすためにはどうすればいいのか。「プレジデント」(2018年4月2日号)では、だれもが直面する「悩ましすぎる10大テーマ」について、Q&A形式で識者に聞いた。第7回は「住まいは、夫婦水入らずか、子と同居か」――。

■老後の住まいに、待ち受けるワナ

老後の住まいを考えるうえで念頭におきたいのは、夫婦の「終の棲家」をどうするか、ということです。

子と別居(夫婦水入らず)を選ぶご夫婦は、郊外の一戸建てを処分して駅近のマンションに移り住む、という選択をするケースが少なくありません。また、同居を選ぶにしても、自宅を二世帯住宅に建て替えるケース、建て替えまでいかなくても、「お嫁さんが来るのだから」とリフォームにお金をかけたりするケースがあります。

いずれにしても、注意しなければならないのは、そこが「終の棲家にならないかもしれない」ということです。別居のケースで、たとえば65歳ごろに駅近のマンションに引っ越した場合に、80代になってからさらに介護つきマンションへ引っ越すという可能性は十分にあります。同居していても、二世帯住宅から親だけが介護つきマンションに住み替えるかもしれません。そのような場合、最初の転居費用や建て替え費用に加えて、介護つきマンションなどへ入居するための2回目の「転居」費用も必要になります。果たして老後にその費用が用意できるでしょうか。

同居するにしろ別居するにしろ、最初の段階で過大な費用をかけるのは危険だということをまずわかっていただきたいと思います。

そのうえで申し上げると、同居にも別居にも次のようなメリットとデメリットがあります。

まず同居。体調を崩したときなどに助けてもらえるだろうという安心感があります。孫育てを手伝える、孫の成長を間近で見守れることに喜びを感じる人も多いでしょう。

しかし、同居すれば、一緒に買い物に行ってついお金を出してしまう、光熱費などを親が負担するなど、ずるずると援助をしてしまい、支出が膨らむという問題も起こりがちです。ふたつの世帯が別々に暮らせば、土地代も固定資産税もそれぞれでかかり、1つ屋根の下に暮らしたほうが生活費全体は抑えられますが、子はラクができても、親に負担が偏りがちなのです。

また、子と同居する場合は、相続の際の「もめごとリスク」も想定しておかなければなりません。ほかにも子がいると、同居の子世帯に対して「親にこれだけ払ってもらったはずだ」「孫の面倒を見てもらったはずだ」と異議を申し立て、相続がもめることが多いのです。

一方、「夫婦水入らず」の暮らしなら、生活費が自分たちのものだけに抑えられますし、孫のためにお金を使いすぎたりしないで済む、などのメリットがあります。別居を決めたとき駅近のマンションに転居していたりしなければ、介護つきマンションなどへ入居するにしても転居費用は1回で済みます。経済的には「夫婦水入らず」に軍配が上がる、といえるでしょう。

今の自宅に住み続ける、または終の棲家となりうるところ(家なり、施設なり)に1度だけ住み替える。それが経済的には合理性があり、それを適えるには同居ではなく、別居、というわけです。

▼喜びをとるか、お金をとるか、それが問題だ!

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井戸美枝(いど・みえ)
社会保険労務士
ファイナンシャルプランナー、経済エッセイスト。神戸市生まれ。講演やテレビ、雑誌などを通じ、身近な経済問題をやさしく解説する語り口に定評がある。『100歳までお金に苦労しない 定年夫婦になる!』(近刊)など著書多数。

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(社会保険労務士 井戸 美枝 構成=高橋晴美 写真=PIXTA、iStock.com)