定数増は48年ぶり、沖縄の本土復帰という特別な事情があったとき以来のことだ(写真:Mugimaki / PIXTA)

20日の会期末を目前に自民党が強引に国会に提出した参院選挙制度改革案に与野党から疑問や反発が相次いでいる。自民党は参院選の1票の格差是正を大義名分に掲げて今国会での制度改革を強行する構えだが、改革の軸が「定数6増」と比例名簿での「特別枠」設置という「あまりにも自分勝手な改革案」(立憲民主党)だけに、国民の反発は必至だ。

参院の定数増はなんと48年ぶりで、「特別枠」は合区に伴って次回参院選ではみ出す自民現職議員の救済策であることは明白だ。野党側は「露骨な党利党略」(国民民主党)と批判し、自民党内からも「国民の理解が得られるのか」などの疑問の声が上がる。

同党執行部は来夏の参院選に間に合わせるため、制度改革を盛り込んだ公職選挙法改正案の今国会成立を目指すが、会期延長問題や重要法案の処理も絡んで、与野党攻防の新たな波乱要因となることは間違いなさそうだ。

埼玉2増で「1票の格差」を3倍以内に

自民党は14日、参院選挙制度改革のための公職選挙法改正案を参院に提出した。同日の参院各会派代表者会議での与野党協議では、自民案に反発する野党側が伊達忠一議長のあっせんを求めたが、伊達氏は「意見集約は困難」として議論を打ち切り、自民党が参院会派「無所属クラブ」も巻き込んで共同提案の形で改正案提出に踏み切った。
  
改革案は、参院定数を選挙区で2増、比例代表で4増の合計6増とし、比例では当選順位をあらかじめ定める拘束名簿方式の一部復活となる「特定枠」設置も盛り込んでいる。選挙区2増は、1票の格差を3倍以内に収めるため、議員1人当たりの有権者数が最多となっている埼玉選挙区の定数を6から8に増やすものだ。

また、比例の4増と「特定枠」とした拘束名簿の一部導入は、2016年参院選から実施された「鳥取・島根」「徳島・高知」の合区に伴い、次回参院選で選挙区からの出馬が困難となる現職議員を、比例名簿上位で救済するのが狙いだ。これに対し、野党側は「自民党の都合ばかりを優先した案だ」(立憲民主)「あまりにも乱暴なやり方」(共産党)などとそろって批判している。

自民党がこの改革案を決めたのは、6日に開催した選挙制度改革問題統括本部(細田博之本部長)と選挙制度調査会の合同部会。細田本部長らは「選挙後の『1票の格差』訴訟での司法の違憲判断を回避するにはこの改革案しかない」と力説し、一部の異論を押し切る形で公選法改正案を国会に提出する方針を決めた。

たしかに、司法が是正を求めている「1票の格差」問題では、埼玉選挙区の2増によって、2016年の前回参院選で最大3.08倍だった1票の格差を2.985倍に縮小できて、「3倍以内」とされる「合憲の目安」をクリアする。

もちろん、格差是正には、合区を現在の「鳥取・島根」と「徳島・高知」の2つから、さらに増やす手法もある。ただ、前回改正では、各都道府県別人口数で最下位グループに並ぶ4県がそれぞれ隣接していたため、合区が可能だったが、今回は、人口数で43位の福井、42位の山梨、41位の佐賀と地域がバラバラで、「新たな合区は極めて困難」(自民幹部)なのが実態だ。

さらに、同党は将来の憲法改正で「参院選での合区解消」も目指していることもあって、次回参院選で合区によって選挙区候補からはみ出す同党候補者を比例で確実に救済するための、拘束名簿による「特別枠」と、それに伴う非拘束名簿での得票数下位候補の落選を避けるため、比例の定数4増とを盛り込んだ。

進次郎氏、定数増は「国民の理解得られない」

今回の改正案が成立すれば参院定数は現在の242から248に増える。参院の定数増は、1972年の沖縄の本土復帰をにらんで選挙区を新設した1970年以来となる異例の事態だが、細田氏らは「参院創設時の250は下回るので問題はない」と強調した。

ただ、6日の会合では、国民的人気を誇る小泉進次郎筆頭副幹事長が「(定数の)6増などが国民の理解を得られるのか」と異論を唱えた。たしかに、人口減が進んで国会のスリム化も求められる中での定数増は「時代の流れに逆行する」(閣僚経験者)のは間違いなく、「格差是正」のための定数減を繰り返してきた衆院側にも不満が広がる。

しかし、合区の島根県を選挙区とする細田氏らは「今国会で法改正を行うことが国会の責務だ」などとして小泉氏らを抑え込んだ。日頃は執行部批判が目立つ石破茂元幹事長も、鳥取選出議員として合区に激しく反対してきた経緯もあって、会合では「現実的な案はこれしかない。(反対するなら)鳥取駅前で『この県の代表はいらない』と演説すればいい」と細田氏らを後押しした。

国民の批判も無視するような形で自民党が公選法改正案の成立を急ぐのは、周知期間も考慮すると2019年夏の参院選に適用するには、「今国会がタイムリミット」(参院自民幹)となるからだ。20日の会期末を前に、野党側の激しい抵抗でカジノ関連法案の衆院通過が遅れており、政府与党は同法案など重要法案を確実に成立させるため、7月中下旬まで約1カ月の会期の大幅延長も検討する構えだ。

このため、自民党は「公選法改正案も今国会で必ず成立させる」と強気だ。与党の公明党は「比例定数増は議論の余地がある」となお慎重姿勢を示すが、自民党側は「公明もあえて反対はしない」と与党連携への手ごたえを隠さない。

一方、野党側は「半数改選の参院選は、本来同じルールで実施すべきで、前回と次回で選挙制度を大幅に変更するのは大問題だ」(国民民主党)、「そもそも人口減の中での定数増は国民にも理解されない」(日本維新の会)などとそろって自民の対応を非難している。

ただ、共産党などが定数増による格差是正には理解を示していることもあり、野党も足並みをそろえての徹底抗戦に踏み切れる状況ではない。このため14日に提出された自民党の改正案は、早ければ会期延長決定後の来週後半にも参院で審議入りする可能性があり、大幅会期延長となれば成立の公算が大きいとの見方が広がる。

こうした状況の背景にあるのは、今国会で改正が実現しなければ来夏の参院選は現行制度のままでの実施となり、各地で1票の格差をめぐる「違憲訴訟」が相次ぐ可能性が大きいことだ。自民党はもともと、憲法改正の早期実現を念頭に、「合区解消」を改憲条項案に盛り込んだが、現状では来夏の参院選前の改憲実現は絶望的だ。だからこそ、暫定措置として今回の「6増」案を持ち出したわけだ。

総裁3選めぐる政局の「思わぬ落とし穴」にも

ただ、自民党内には「党利党略とみられかねない定数増のごり押しは、国民の反発を招き、かえって来年の参院選では自民党が不利になる」(閣僚経験者)と不安視する議員も少なくない。

さらに、安倍晋三首相の「3選」がかかる9月の自民党総裁選に向けて、国会閉幕後の国内政局は総裁選一色となる見通しだが、「そこで問われるのは、首相らの強引な政権運営の是非」(自民長老)ともされるだけに、「党利党略をむき出しにした参院選改革案は、安倍政権の強権体質の象徴として、党内の反安倍ムードを助長しかねない」(同)との側面もある。

首相サイドは「選挙制度は国会が決めることで、政府が口出しすべきことではない」(政府筋)とそろって静観の構えだ。しかし、依然決着が見通せない「もり・かけ」疑惑や、6.12米朝首脳会談を受けての日本人拉致問題の解決のための日朝首脳会談への交渉など、内外に難題を抱えながら総裁3選を目指す首相にとって、今回の参院定数増をめぐる党内外のあつれきが「政局運営の思わぬ落とし穴になりかねない」(閣僚経験者)との指摘も出ている。