ブランドイメージもクルマの価値を決める大切な要素

 日本車とひと言でいっても、100万円未満のプリミティブな軽自動車から1000万円オーバーの高級車までさまざまだが、それでも世界の超富裕層が愛車にするようなスーパーカーやラグジュアリーサルーンは、現行のラインアップには存在していない。

 かつてはレクサスLFAのように3750万円というプライスを掲げたスーパースポーツが限定生産されていたが、後継車が生まれることはなかった。

 日産GT-Rは4シーターという点、NISMOでも2000万円未満という価格から、スーパースポーツとしては捉えにくいのも正直なところだ。ホンダNSXは価格面からするとスーパースポーツの入口にあることは間違いないが、日本ブランドのクルマでありながら、開発・生産はアメリカがメインという意味では純日本車というイメージではないのも事実。

 ラグジュアリーサルーンにしても、その代名詞といえるロールス・ロイスに匹敵するようなモデルは国産車にはないといえる。トヨタの製造した御料車「センチュリーロイヤル」は本当の意味でのVIPサルーンではあるが、誰もが購入できる量産車ではないのは、ご存じのとおりだ。

 もっとも、2018年内にフルモデルを予定している次期センチュリー(こちらは量産車)は、少なくとも日本市場においては高いポジションを得ると予想されるが、グローバル展開は予想しにくい。なぜならトヨタというブランドのままラグジュアリーサルーン市場に参入しても、ブランド力において先達に追いつけるとは思えないからだ。

 スーパースポーツにせよ、ラグジュアリーサルーンにせよ、ハードウェアの優秀さはもちろん、伝統あるブランドが商品価値として重要になってくる。

 たとえば現在のロールス・ロイスは2003年にBMWが設立した新会社であり、ブランドやロゴマークを受け継いだだけの別物ではあるが、ロールス・ロイスというブランドがあるからこそ、5000万円を超えるような価格をつけても異論を挟まれることはない。もし、これがBMWブランドであれば、同じクルマであったとしても市場はすんなりとは受け入れないだろう。

 スーパースポーツについても同様、フェラーリやランボルギーニといったブランド力は、ハードウェアの性能と同じくらい商品性に影響をおよぼす。もちろん、マクラーレンなど新興ブランドであっても、明確なブランドの背景があれば、伝統的なブランドに対抗することもできるが、大衆ブランドのままハードウェアの性能だけで、スーパースポーツやラグジュアリーサルーンといったプレミアムモデルとして参入するのは難しいのは事実だ。

 というわけで「国産車にスーパーカーや超高級車は必要か」という疑問の前に、いまの国産ブランドでスーパースポーツやラグジュアリーサルーンの市場で勝負のできるブランドは存在しない。

 レクサスにしても、キャデラックやメルセデス・ベンツとは同格で勝負できても、その上のプレステージブランドとなると同じ土俵にあがることさえ難しい。そして多くの超高級ブランドにおいて伝統の力が源になっていることを考えると、一朝一夕にブランド価値を高めることは難しい。

 しかしながら、トヨタが東京オートサロン2018にて発表した「GRスーパースポーツ コンセプト」は、そうした固定したブランド価値へチャレンジする意思を示したことは記憶に新しい。WECマシン直系となる1000馬力のハイブリッドパワートレインが、どのようなブランド力を生み出すのか、興味深い挑戦といえるだろう。