ドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が12日、史上初の米朝首脳会談を行い、共同声明に署名したことに、世界の評価が分かれている。声明では、米国が北朝鮮体制の「安全の保証」を提供し、正恩氏が「朝鮮半島の完全非核化」を約束しているが、具体的な核廃棄スケジュールは盛り込まれなかったのだ。北朝鮮はこれまで「裏切りの歴史」を続けてきた。トランプ氏も罠にはまったのか。ささやかれる「米朝密約」の存在。日本人拉致問題を解決するため、今夏にも日朝首脳会談が開かれるとの見方もある。

 「(正恩氏は)朝鮮半島の完全な非核化に合意してくれた。できるだけすみやかにこの合意を実施しようと決めた。彼もそれを望んでいる。北朝鮮は、すでに大きなミサイルエンジンの工場を解体しようとしている。(共同声明の)文書には書いていないが、合意した」

 トランプ氏は12日午後、米朝首脳会談後の記者会見でこう述べ、会談の成果を誇った。

 会見では、米韓合同軍事演習を将来的に中止する意向も表明し、正恩氏を「適切な時期にホワイトハウスに招きたい」とも語った。トランプ氏は会談で拉致問題を提起し、対北制裁を維持することも明言したが、共同声明に「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の表現がないなど、北朝鮮を利する内容になった印象は否めない。

 このため、「完全な(朝鮮半島の)非核化について、正恩氏がトランプ氏に確約したことは極めて重たい」(安倍晋三首相)、「米朝の首脳が会談した事実が前向きだ」(セルゲイ・ラブロフ露外相)と会談を評価する向きがある一方、「(非核化をめぐり)何の詳細も示されていない」(米ウォールストリート・ジャーナル紙)、「(トランプ氏が米韓演習中止に言及したのは)大幅な譲歩」(米CNN)などと懐疑的な見方も多い。

 現に、官邸周辺は「トランプ氏は一見、強面のビジネスマンだが、中身は素直な好人物。相手を嫌っていても、実際に会うと仲良くなってしまう。中国の習近平国家主席も当初は警戒していたが、米南部フロリダ州の別荘『マールアラーゴ』で会ったら、『習主席は大した人物だ』に変わった。正恩氏は下手に出て懐に飛び込み、トランプ氏をうまく丸め込んだのではないか」と不安を隠さなかった。

 そもそも、北朝鮮の約束は信用できない。

 1994年の「米朝枠組み合意」では、北朝鮮の核開発凍結の見返りとして、国際社会による軽水炉の建設や年間50万トンの重油提供が盛り込まれた。だが、北朝鮮は核開発を続け、枠組み合意は崩壊した。

 多国間で北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議でも、北朝鮮は2005年に核放棄を確約し、07年には核関連施設を停止・封印することで合意したが、その後も核能力を高めていた。

 今回の共同声明を受け、トランプ政権は来週にも、マイク・ポンペオ国務長官と、北朝鮮が「死神」と恐れるジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、北朝鮮側と協議するという。

 トランプ政権は大丈夫なのか。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「トランプ氏が、正恩氏と会って、北朝鮮の狙う『友好ショー』に協力したという感じもある。今後、北朝鮮に融和的な勢力もいる国務省と、対北強硬派のボルトン氏のどちらが主導権を握るかで展開は違ってくる。米国の北朝鮮専門家からは批判的意見が出ており、ボルトン派が主導権を握る可能性はある」と語った。

 共同声明に出ない部分で、米朝の密約があったという見方もある。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「水面下交渉の結果、米朝首脳会談にこぎつけることができた。ポンペオ氏を中心として『どう非核化するか』『いつ検証を始めるか』など、米朝の秘密合意や実務者間の話し合いは進んでいると思う。具体的に公表すると正恩氏のメンツをつぶすため、共同声明はあのような表現になった。非核化のプロセスは、すでに具体的に始まっている可能性がある。だから、トランプ氏は『as soon as possible(できるだけ早く)』と語ったのではないか」と解説している。