思い描いているようにコトは進みません(写真:takasuu/iStock)

独立して会社をつくっても、すぐに潰れる会社は少なくありません。「なぜ独立して失敗する人が多いのか?」「なぜ起業して3年で潰れる会社が続出しているのか?」「どうすれば会社を潰さずにすむのか?」――。『起業3年目までの教科書 はじめてのキャッシュエンジン経営』の著者、大竹慎太郎さんが解説します。

志の高い友人とITベンチャーを立ち上げた

これはある若者の話だ。彼は大学4年生の夏に、志の高い友人たちとともに、ITベンチャーを立ち上げた。スマートフォン向けのゲームアプリを開発する会社だ。幼少の頃よりゲームが好きだった彼は、卒業後はゲームをつくる仕事をしたいと思っていた。だが、新卒採用を行っている大手ゲーム会社やIT企業に就職することはなかった。なぜならプログラミングの才能があったからだ。

彼は自分がやりたいと思う面白いゲームを、自分ひとりでつくることができた。在学中には、簡単なパズルゲームなどをいくつか開発し、実際に発表していた。広告をつけることで少しの収入も手にしていた。その経験から、自分はこれで生きていけると確信した。「パズドラ」や「モンスト」を超えるスマホゲームを企画し、大きなゲーム会社をつくるんだ! そう夢に燃えた。

会社の立ち上げ前に、知り合いのつてをたどってある有名なIT起業家に会えることになった。その会社のシンプルだが豪華なしつらえの社長室で、つくったばかりの名刺を丁重に渡した。自分でプログラムを書くことができること。ゲームが好きで好きでたまらないこと。最初は少ない人数で始めようとしていること。自分の能力と実績、そして今後自分がやろうとしている事業について話した。

10分ほど話したところで、相手の起業家はこういった。

「世の中そんなに甘いもんじゃないよ」

彼は、「はは、すみません」と謝った。もちろん簡単に会社が軌道に乗るとは思っていない。だが、やる気と自信、そして彼のこれまでの助走ともいえるゲームの開発経験から、どんな荒波でも乗り越えてみせます、そう彼は語った。

「君のビジネスモデルは、当たるか当たらないか、つまりイチかバチかになってしまっている。そこが危ない」

そう言われた。

その後もすごく親身に話を聞いてもらえた。「ウチで修行してから起業しても遅くないんじゃない?」とさえ言ってもらえた。しかしその話は辞退した。自分だけでやっていける圧倒的な自信が彼にはあったからだ。

卒業する間際からフルタイムで仕事を始めた

大学を卒業する間際から彼は、本格的にフルタイムで仕事を始めた。プログラミングのできる友人たちと、小さなマンションの一室を借りて開発に励んだ。いままでつくっていたゲームとは違い、大きなコストを掛けている。たとえば、ゲーム中に流れる音楽やイラストはすべてプロに依頼し、クオリティの高いものを要求した。これまでは大学の友人たちにボランティアでつくってもらっていたのだが、こうしたほうがのちの人脈も築けると考えた。

最初のゲームが完成した。デジタルネイティブの彼らはSNSを駆使してゲームの宣伝をした。最初は自分の学生時代の友人たちにゲームをプレイしてもらっていた。それが徐々に広がっていった。だが、ゲームのダウンロードランキングの上位に入るまでには、遠かった。

スマホゲームの開発は、完成した時点で終わりではない。運用やメンテナンスのために人員が必要となる。そのため彼の会社はしばらく宣伝を続け、このゲームを長く売れるものにする戦略をとった。だがそれは簡単な道ではなかった。

会社は何をするにもおカネが必要になってくる。社員も昔なじみの友人とはいえ、給料を支払わなくてはならない。そのためには売り上げが立たなくては話にならないのだが、発表したばかりのゲームにすぐ収入がついてくるわけではない。そのため彼はまた別の事業を企画しなければならなかった。だが、1つゲームをつくったばかりのため、開発能力が不足していた。ありていにいえば人もおカネも足りなくなってきていた。

しばらくの間、彼の会社は収入のない状態で、最初に開発したゲームの運用を続けつつ、新たな事業の開発をしなければならなかった。しかしそれは無謀な計画だった。エンジニア、つまり彼の友人も寝る間を惜しんで仕事をする日々……。それも、収入が入ってくるまでの我慢だと言い聞かせていた。

だが、期待に反して入ってくる収入はいつまでたっても微々たるものだった。最初から課金前提の有料ゲームをつくってもファンはつかない。だから無料のゲームでまずダウンロード数を上げて、広告収入で稼ぐモデルにすればうまくいく……。そう考えていた。それは安易な発想だった。

収入はない。だから仕事を増やさなければならない。だが人手は足りない。外部から資金調達してくる手もあるが、そんなことができる会社はごく稀である。したがって新しい事業やプロジェクトの開発を始めるのも難しい。

そうこうしているうちに、彼の会社は仕事がなくなってきていた。社員である友人たちも手持ち無沙汰になりつつあった。その様子を見て、彼はいっそう奮起した。

仲間への不信感

「こいつらは意識が低い。やっぱり、起業家じゃない人間はやる気がない。この会社が大きくなったら、絶対こんな奴らは雇わない――」。

在学中は、大抵のことは仲間と一緒にやることができた。企画も、イラストや音楽の発注も、開発も、すべて自分たちでできた。それが自信になっていた。しかしそれは学生の遊びに過ぎなかった。学生という身分がなくなったいま、おカネの問題もシビアに発生してくるようになった。かつての連帯感は、仲間への不信感へと変貌していた。

「世の中そんなに甘いもんじゃないよ」

あのとき、起業家から聞いた言葉を思い出した。そう、確かに世の中は甘くはない。やる気のない人間はやる気のある人間の足を引っ張るし、力のない人間は能力のある人間に支えられている。普通の会社は、いや社会は、そうやって不必要にバランスをとっている。だが、自分は違う。俺は1人でもできる! もっと俺が頑張らなければならないんだ……。

それから半年経たずに、彼は会社を畳んだ。そういうものだったのだ――。

これが途中で夢に破れるベンチャー企業のよくある一例である。

逆にどんな起業なら成功するのか。2つある。私は「キャッシュエンジン型」と「スケール型」と名付けている。

キャッシュエンジン型は、キャッシュ(日銭)を確実に稼ぎ、事業を延々と継続するための原資となるエンジン(事業継続の原動力)をあらかじめ持って起業する経営手法のことである。多くの場合は地味だが、目立たないがゆえに見逃されている。

収穫逓増型の事業モデルの「スケール型」

一方、最初に開発のための多額の資金が必要になるが、そこを乗り越えて一発当たれば、一夜にして大金持ちになることも夢ではない、収穫逓増型の事業モデルのことを「スケール型」と呼んでいる。典型例としては、「パズドラ」を当てたガンホー・オンライン・エンターテイメントや、SNSのmixiや「モンスト」を当てたミクシィなどが挙げられる。

こうした会社が成功した場合は、上場して株式を公開(IPO)するか、企業に事業を売り渡す(バイアウト)かになる。これらをあわせて「イグジット」という。イグジットとは「出口」を意味する言葉で、ベンチャー起業家やベンチャー投資家(ベンチャーキャピタル)が、投資した資金を回収する手段のことである。

バイアウトが目的ならば、ほとんどの場合、労働集約的にコツコツ資金を貯める必要はない。ヒットするサービスが一つあれば十分だ。しかし株式を公開する場合はそうはいかないことも多い。一般の株主におカネを出してもらう以上、その会社は継続して利益を出す責任がある。よくいわれるゴーイング・コンサーン、つまり永続的に会社を大きくする必要があるからだ。

もちろんスケール型の事業を大きく当てて上場した会社もかなり多くある。しかし、そんなスケール型の事業を営んでいる会社でも、安定的な成長を続けるためには、キャッシュエンジン型事業“も”自社の事業のポートフォリオの中に組み込むことが、今後の会社経営を助けてくれる大きな力になる。


なぜならスケール型の事業の多くが、「プロダクトライフサイクルの罠」から逃れられないからだ。プロダクトライフサイクルとは、どんな製品やサービスにも「製品導入期」→「成長期」→「成熟期」→「衰退期」という名の売り上げの波が存在していることを示す言葉である。転じて、どんなに好調な商品であっても、いずれ終わりがくることを示す概念である。

すなわち、スケール型の事業で起業を行った会社は、最初のスケール型の事業が衰退する“前に”、次のスケール型の事業を開発し、当てておかなければ、倒産の憂き目にあうことさえあるということだ。

そうならないように、スケール型の事業を行いつつ、並行して手堅く日銭を稼ぎ続けるキャッシュエンジン型の事業を経営のポートフォリオの中に“組み込んで”おけば、大きな成長も狙いつつ、同時に会社を潰さない安定的な企業経営が可能になる。これこそが、サイバーエージェントやライブドアが行っていた、起業・独立して会社を3年で潰さないための秘訣である。