<虐殺とレイプの嵐から逃れて粗末なテントで暮らすロヒンギャの女性や子供たちにコレラと洪水の悪夢が襲い掛かる>

半年ほど前、妊娠中だったルキアは着の身着のまま故郷の村を後にした。親族のうち、生き残ったのは彼女と老いた母親と甥だけ。3人は3日間、昼も夜も歩き続け、国境を越えてミャンマーからバングラデシュに入った。村が襲撃されて「何もかも焼かれた」と、ルキアは話す。「夫も兄弟も父も......」

昨年夏以降にバングラデシュに逃れたミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャは70万人近く。大半は女性と子供だ。

難民の大量発生のきっかけは、ミャンマー軍が西部沿岸のラカイン州で行った過激派の掃討作戦だ。兵士らがロヒンギャの村々を襲撃し、男たちを殺して女たちをレイプした。国連が派遣した専門家は「ジェノサイド(集団虐殺)の特徴を示す」状況だと報告した。

現在、難民の大半はバングラデシュ南東部のコックスバザール県の海岸で、急峻な斜面に竹と防水布でテントを立てて暮らしている。ルキアはテントで母親の介添えで出産した。

筆者が難民キャンプを訪れたときは、生後3カ月の子供が下痢をしていたため、彼女はキャンプ内の仮設クリニックで診察の順番を待っていた。

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もうじきモンスーンの季節が始まる。豪雨で地滑りや鉄砲水が頻発し、多数の死者が出て感染症がはびこる季節だ。

バングラデシュでは毎年この季節、サイクロン(熱帯低気圧)の直撃によって大きな被害が発生するが、難民キャンプが位置するのは特に暴風雨の被害を受けやすい一帯だ。暴力の嵐から逃れてきた人々が今度は自然の猛威に直面する――援助関係者は迫りくる二重の悲劇に危機感を募らせている。

「最悪の場合どうなるか、想像もできない」と、難民キャンプの衛生状態を継続的に調査している国連スタッフのディディエ・ボワサビは言う。コレラと急性水様性下痢症はバングラデシュの風土病ともいうべき疾患だが、特に雨期に発生率が高まる。

難民キャンプと難民受け入れ地域では、コレラの予防接種キャンペーンが2回実施された。だが接種率は十分ではない。キャンプの衛生状態は劣悪で、飲料水も汚染されており、難民は密集した状態で暮らす。豪雨になればトイレのふん尿があふれ出すため、コレラの流行は避けられそうにない。

「予防接種にばかり力を入れているが、安全な飲料水の確保が先決ではないか」と、国際NGOウォーターエイドのバングラデシュ支部長で医師のカイルル・イスラムは訴える。

[2018.6.12号掲載]

ソフィー・カズンズ