シニアがやれる仕事はたくさんある(写真:MOKUDEN_photos/iStock)

年金危機や老後破産など、今や長寿をリスクと考えてしまいがち。だが、ある一点気持ちを切り替えることで、逆に老後に可能性を感じさせてくれる本。『定年前後の「やってはいけない」』 を書いたCEAFOMの郡山史郎社長に聞いた。

先の人生に楽しみを見いだしていくほうがずっと幸せ

──今年83歳になられますが、働くこと以外に幸福な老後はない?

働きますと、他人の苦労を助けたり周りを喜ばせたりできて、ちょっとうれしいんです。若いうちは出世競争や、子どもの教育費、住宅ローンを抱えて、もっと稼がなければとそっちが先に来ちゃう。私は60歳過ぎていろいろ事業をやってきて、楽しくてしょうがない。毎日毎日問題は出てくるけど、それを一生懸命片付けることがだんだん楽しくなってきています。

30代、40代の頃とは、考え方も感じることもだいぶ違うような気がします。プレッシャーが少ないんです。何かうまくいかなくても、年寄りだからしょうがない、と最初から期待されてない(笑)。そこで少しだけうまくいくと、「やった!」と満足感があります。

老後の家計は労働収入を柱とし、年金はあくまで補助的にとらえる。少しでも働いて日々の生活費を稼ぎ、先の人生に楽しみを見いだしていくほうがずっと幸せです。

──人生の区切りを「定年前・定年後」ではなく、45歳を折り返し地点に「第1ハーフ・第2ハーフ」という視点で書かれてますね。

人間の能力は45歳を過ぎると落ちていく。新しい能力はほとんど身に付きません。定年で人生に区切りがついて、残された老後があるという話ではなく、人生は一続きです。責任を背負って競争している時代とは違う生き方ですね。第2ハーフはいっそ仕事をがらりと変えていいと思う。自分の市場価値、選べる仕事、生かせる能力、体力などすべて違う。過去とどれだけ決別できるかが定年後どれだけ幸せになれるかのカギです。

──定年退職の準備は45歳前後で始めよ、ということですか?

45歳でビジネスマン生活はいったん終わり、くらいの気持ちで。いくら能力があろうと、90%の人は45歳前後で給料は頭打ちになる可能性がある。だとしたら30代のうちから自分の定年は自分で決める。人生はマラソンなんですね。45歳で折り返し、帰りもほぼ同じ距離を走らなきゃいけない。

40代全盛期の後はそれまで勉強したこと、経験したことを使いながら、健康にゴールまで走るということ。50歳を過ぎたら管理職は今後能力がピークに達する後輩に道を譲るのが賢明です。役職定年を迎えたら「ポストを失った」ではなく「第2ハーフへの準備に取りかかれる」と喜ぶのが正しい。

“第3新卒”のつもりでゼロからの挑戦

──うまく走り続けるコツは?


郡山史郎(こおりやま しろう)/1935年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、伊藤忠商事を経て、1959年ソニー入社。1973年米国シンガー社に転職後、再びソニーへ。常務取締役の後、1995年ソニーPCL社長。2002年クリーク・アンド・リバーへ。2004年経営幹部派遣・紹介の会社設立(撮影:尾形文繁)

何でもチャレンジしてみる。“第3新卒”のつもりでゼロからの挑戦です。とにかく過去を引きずらない。私の職業紹介の経験からいっても、定年時に自分の職業人生をリセットし、再スタートを切れる人が早く仕事を見つけやすい。逆に現役時代の地位、収入、仕事内容にこだわると難しいです。

「俺は取締役だった」と胸を張られても、「今はどうなの?」と返すだけ。技術部長の肩書だったとしても、実際にやってた仕事は部下の提案の決裁とかで、自分では何も作っていないし新たに作れない。近年は高齢者についても専門的知識や経験をたいへん重視していて、「働きながら慣れてもらおう」なんて余裕はない。超即戦力でなければどこも雇ってくれないのが現実です。

67歳で再就職した際、私は新卒の新入社員と同じ待遇を申し出ました。まあ失敗でしたけど(笑)。若い新人のほうが能力も体力もある。夜8時、9時まで必死に働いて、さあ帰ろうと会社を出ると、ちょうど営業で回っていた新人たちが戻ってくるわけです。皮肉か知らないけど、「おお行ってらっしゃい」なんて言われて。

──プライドが邪魔して再就職できないケースは、やはり多いのですか?

非常に多いです。現実の厳しさを知り、少しずつ希望月収を下げていく方がいますが、それは絶対にお勧めしません。その間にどんどんブランクが空いてしまう。ブランクが長くなるほど企業は敬遠します。60歳でいったん一休み、なんて通用しません。ブランクはデメリットでしかない。定年後はどんな仕事であろうと積極的に拾っていく気持ちで臨んでほしい。

高齢者の再雇用は大抵週3とか週2勤務ですから、空いた時間は他社でも仕事すればいい。5万円の仕事を3つ4つ掛け持ちするフリーランスに似たスタイルです。自分は何の強みもないと言わないで、自分ができることを大事にする。趣味や特技を生かすのもいい。実際に話し好きな元証券マンがタクシー運転手になったり、もともと手先が器用だった技術部長がマンションの管理人になって、とても重宝がられたり。自分が楽しく働けて周りにも喜んでもらえるような成功された方も大勢います。

「安い」「辞めない」「休まない」

──自縛から解かれることですね。


定年後人材に企業が期待するのは「安い」「辞めない」「休まない」の3Yです。企業にとってみればこういう人材はすごく貴重。高齢者はもう娯楽におカネを使うことも少ないから、給料が安くてもやっていけるものです。働いていれば自分で健康管理しますし、これといった用事も少ないので、そんなに休まなくても大丈夫。高齢者の募集は少ないから、一度いただいた仕事は大事にしたいと思うようになる。

自分の時間を有効に使ってみんなを喜ばせられれば、そちらのほうがうれしくなる。私のやっている人材紹介業なんてどんな年寄りでもできるし、事務とか単純な受付とかクレーム対応とか、シニアがやれる仕事はたくさんある。公務員など60歳から採用したほうがいいとさえ思います。

──高齢者雇用を促進するシステム作りも必要ですね。

極端な話、60歳以上は最低賃金とか労働時間とかいろんな規制を取り払っていいと思う。高齢者はセルフコントロールが利くから過労なんかに絶対ならない。契約社員でも派遣でも、時給でも日給でも、複数の職場で働いても、高齢者は自由にやっていいですよと。そうすれば企業も高齢者を雇おうかと思ってくれる。医療費も高齢者は10割負担にしていい。そうすれば病院へ行かずに済むよう一生懸命に健康管理するでしょ。逆に最前線に立つ若者は1割負担にして、もっと病院に行ってもらったほうがいいですよ。