新しい働き方のロールモデルに(田端信太郎氏)

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「サラリーマンでもこれだけ自由に、好き勝手できることを示したい」。現在、「ZOZOTOWN」などを運営する株式会社スタートトゥデイで「コミュニケーションデザイン室」の室長を務める田端信太郎氏は、転職によって、キャリアと自身のブランド価値を高めてきた。新卒でNTTデータに入社後、リクルート→ライブドア→コンデナスト・デジタル→LINE→そして今年3月にスタートトゥデイに転身。組織に属しながら個人名を轟かせる、かつてない「サラリーマン」という働き方を、田端氏はどのように切り拓いてきたのか。インタビュー【後編】では、田端氏のサラリーマン哲学、そして、40代からの人材価値について聞いた。

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◆「あなた、年収いくらほしいですか?」と面接で聞く

──田端さんは元々、転職を視野に入れて働き始めたのですか?

田端:まず、転職はいいことでも悪いことでもないけれど、サラリーマンが転職という選択肢を常に視野に入れるのは当然のことだと思っています。働く人間が自分の市場価値を意識しないなんてあり得えませんから。

 僕、面接のときに聞くんですよ。「あなた、年収いくらほしいですか」と。そして、「なぜ、その年収に値すると考えるんですか」と。でも、僕が同意するかは別として、付け焼刃ではないロジックできちんと答えられた人はほとんどいません。

──田端さんは答えられますよね?

田端:僕の場合は、ライブドアで働いていた頃から、どうしても転職したくて動いているわけではないんですよ。だから、ロジックもへったくれもなくて、今いくらもらってるから、いくらいただけるならいいですよ、と。もちろん、もっとマイルドに、社会人としてしかるべき言葉で伝えます(笑)。

──どうしても転職したくて動いているわけではないとしたら、転職を決断する決め手は何でしょう? 【前編】で、共に働く社長への興味が、転職の一つのきっかけになったという話を伺いましたが、他に何がありますか?

田端:僕は、その時々でいちばん面白いと思う土俵の取り組みの「砂かぶり席」に、どんと座っていたいんです。サーファーが良い波を求めてビーチをさすらう旅をするようなものです。ライブドアに転職した時は、新興のIT企業がフジテレビと丁々発止するのは面白いなと思ったし、スマートフォンやアプリの大波がくるとよんだから、慌ててラインに戻った。

 で、なぜ今回、スタートトゥデイに移ったかと言えば、まず、僕は広告メディアのデジタル化は、もはや峠を越したと思っています。で、ファッション業界のEC化率は3合目か4合目のあたりでしょうけど、これから来るいちばんのビッグウエーブは、オンデマンドでの1to1型のモノづくりやマーケティングだと考えているから。まさに当社の採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」やプライベートブランド「ZOZO(ZOZO)」のようなサービスですね。

──面白い場所をかぎ分ける嗅覚と、そこへ移る行動力が必要になります。

田端:もちろん自分のよみが100%当たる保証はないんだけど、とにかくそこへ行ってみて、やってみる。サラリーマンのリスクって、最大で考えて、クビ、または会社の倒産ですよね。株主は投じた資金を損することがあるけど、サラリーマンは払った給料をさかのぼって返せとは要求されない。だったら、お金じゃ買えない貴重な経験こそが財産になると思います。

◆チャレンジングだし目立てるサラリーマン

──ご自身で起業するとか、経営者になることは考えますか?

田端:考えたことがないわけではないし、これからの可能性も否定しません。ただ、僕は飽きっぽいところがあるんです。で、恐れていることがあって、たとえば起業したとしますよね。一人でコンサルタントをするとか、弁護士事務所のようなプロ集団ではなく、若い人を雇ってベンチャーキャピタルから資金を引っ張って、スタートアップをしたとします。大成功したらそれでいい。逆に大失敗して、3年で潰れたとしたら、それはそれでいいんです。

 僕が本当に恐れる状態は、活かさず殺さずの状態で10年くらい続いてしまうこと。投資の言葉でいうリビングデッドの状態です。オレ、飽きてきたなーって絶対思うだろうけど、社員がいるからやめられないんじゃないかと。起業してる友人には、社長である自分が飽きないように事業内容を変えていけばいいんだよと言われるし、それはそうなのかな〜とも思いますが。

──つまり現状では、サラリーマンでいることのほうが田端さんにとっては魅力的だと。

田端:結局、日本でIPOする創業社長って、年間で数十人くらいはいるわけです。その数十人分の1になるよりも、サラリーマンでもこれだけ自由に楽しく、好き勝手できるという新しいロールモデルを示すほうが、いまの僕にとってはチャレンジングだし、目立てるんじゃねえのって。僕、目立ちたがりなんで(笑)。自分のブランディングにもなると思っています。

 もちろんIPOを目指すのも凄いことだし、僕だって5年後は、IPO目指しますと言ってるかもしれない。

◆田端氏が注目する人材とは?「天才は天然だし、天然は天才です」

──転職市場において、年齢を重ねると、一般に多くのものが求められるようになります。田端さんが考えるいい人材とは?

田端:40を過ぎで思うのは、ロジカルに正論を言うことがホワイトカラーの価値だなんて思っているのはちゃんちゃらおかしい、ということです。20代だったらそれでいいです。でも、30代後半になり、40代になってそれだと、まだまだケツが青いと思う。

 DeNAの創業者で現社長の南場(智子)さんが、マッキンゼー時代に印象的なことを言っていました。細部は間違ってるかもしれないけど、ざっくり言うとこんな話です。コンサルタントがあるメーカーに中国進出を勧めるとしますよね。一番レベルが低いやり方は、理屈だけで理路整然とプレゼンをする方法。言われた方の社長は、うーんピンと来ないな、で終わってしまう場合が往々にしてある。

 じゃあどうしたらいいかというと、なぜそのメーカーは中国進出をしたくないのか、あるいは迷っているのか、経営者の心のヒダを探りに行く。四川料理が辛いから嫌いなのかとか、ビジネスに関係ないことも含めて本心を探る。

 もし、社長が現代の中国は嫌いだけど、『三国志』は好きだと聞きつけたら、まずは現地に行ってみましょうと、三国志の史跡めぐりツアーを企画するのだっていいんです。とにかく、社長や決定権者の気持ちを少しずつでも変える努力をあの手この手でするのが、優秀なコンサルタントだという話でした。

──40歳を超えたら人間力みたいなものが試されると。

田端:こういう振る舞いをする人間に対して、あいつは男芸者だとか、寝技に持ち込むとか、ゴマすりだとか、揶揄する人は少なくない。けれど、理屈を超えたところで勝負できる力こそ、人間力だと思うんですね。40を超えると、何を言うかだけでなく、誰が言うかも問われるようになります。そこで試されるのって、人間力ですよね。

 ビジネスも最後は人と人のぶつかりあい。相手の社長の頭が固いとか、お客様にご理解いただけないとか言っててもしょうがない。むしろ、どんな手段を使おうと、そういう社長を動かすことができる人材こそ、僕は価値のある人材だと思いますね。

──いま、田端さんが注目する人材は誰ですか?

田端:いま、7月に出る僕の新著『ブランド人になれ!』を編集してくれている幻冬舎の箕輪(厚介)さんはヘンで、凄いと思います。

 彼の50%は古き良き編集者なんですよ。言うたら“人たらし”です。五木寛之さんの新刊が出ると5日以内に手紙を書き、それを長年続けて、25通目に会うことができたという幻冬舎の社長・見城(徹)イズムを踏襲している。一方で、50%はデジタルでソーシャルな人間。アウトプットはまったく紙にこだわらないんです。その新旧がごちゃまぜになっている感じが面白いなと。

 上司である見城さんに対しての距離感も絶妙なんですよね。「俺は絶対面白いと思って本を作ってるけど、万が一、売れなかったら見城さんの別荘をひとつ売ればいいんです」なんてことを、オープンな場で平気で言う。しかし、決して逆鱗には触れない。言動が天然なのか計算なのかわからないし、恐らく自分でもわかっていない。そういう人間が最強だと思います。天才は天然だし、天然は天才です。

◆子供を抱っこしながらでも、ツイッターしています

──田端さんはサラリーマンであると同時に、家庭人でもあります。両立の秘訣はありますか?

田端:僕にとっては、正直、仕事してるよりも、家で子供と向き合っている方が大変です。岡田斗司夫さんが、30過ぎたら仕事が現実逃避になる、と言っていますが、まさにその通りだと思います。

 まあ、これを言うと炎上する以前に、嫁が怒りそうですが(笑)、家族を幸せにできない人は、お客様も部下も幸せにできないんじゃないかという思いはありますね。ただこれはですね、嫁や子供が本当に幸せかどうかは、俺が決めることではないし、さらに言えば、幸せとは何か、という深い問題が横たわっていますから、難しい……。

 ひとつ言えるのは、やらないことは決めています。接待ゴルフはしません。土日に、物理的に拘束されるような予定はほぼ入れない。その代わり、ソーシャルメディア外交活動をしています(笑)。接待ゴルフより効率的だし、僕にとっては得意なこと。組織で働く以上、ある程度の社交は大事だと思うんですね。

 だから接待ゴルフを否定するつもりはまったくないんです。ゴルフが好きな人はゴルフをすればいいし、フットサルでも、麻雀でもいいと思う。僕は子供を抱っこしながらでも、ツイッターしています。

──炎上騒動もありましたが、田端さんのツイッターは社交でもあるんですね。

田端:まあ、そうなんですが、根本は、言いたいだけです。反応も嬉しいし、刺激になるけど、先立つのは、自分が思いついたことをすぐ言いたい!という素朴な気持ち。その結果、炎上することになっても仕方ないとは思いますが、決して狙ってはいません。当然ですが守秘義務については厳密にやっているので、あくまで個人のオピニオンを言ってるだけ。僕の意見が会社の意見のようにとられることもありますが、それは買いかぶりすぎですよと、言わせていただきたいですね。

【プロフィール】田端信太郎(たばた・しんたろう)
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」の立ち上げや、広告営業の責任者を務める。2005年、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後は執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSなどを立ち上げる。2010年春からコンデナスト・デジタルへ。VOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年、NHN Japan(現LINE)執行役員に就任、広告事業部門を統括。2014年、上級執行役員法人ビジネス担当に就任。2018年3月から株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室 室長。

●撮影/内海裕之