ジンドンが2020年に導入予定の無人飛行機。さらなる配送能力の向上と省人化を図る(記者撮影)

中国EC(ネット通販)2位の京東(ジンドン)集団を通じ、中国小売業の進化を探る今連載。後編では店舗を離れ、ECを支える物流網にスポットを当てる。ジンドンは配達網を自前で構築、中国のほぼ全土で注文から翌日以内の配達を可能にした。その秘訣は、徹底した「自動化」にあった。

中国のECサイトといえば、「天猫」(Tモール)を展開する「アリババ」をイメージする人が多いのではないだろうか。アリババは現地ECサイトで首位を誇り、花王や資生堂など多くの日本企業がTモールに出店している。

京東(ジンドン)集団が展開するECサイト「京東商城」は、2004年にスタートした。IT大手のテンセントと2014年に業務提携を結び、同社の電子決済「wechatpay(ウィーチャットペイ)」を武器に売り上げを伸ばしている。日本での知名度はまだまだ低いが、中国のECサイトでTモールに次ぐ2位にのし上がった。


ジンドン副総裁で物流部門責任者の唐偉氏(記者撮影)

ECで火花を散らすアリババとジンドンだが、両社には大きな違いがある。物流システムだ。アリババは配送を外部に委託しているのに対し、ジンドンは自社で在庫管理から配送まですべてを行っているのだ。ジンドンの副総裁で物流部門責任者の唐偉氏は、「京東は中国で唯一、全てのサプライチェーンを提供している企業」と力説する。

配送料は99元以上なら原則無料

ジンドンは中国全土に物流倉庫515カ所、配送センター約7000カ所を展開する。現在では中国の「99%の地域に」(同社)、注文の当日か遅くとも翌日までに商品を配送することが可能だ。配送料は商品の種類や重さで異なるが、99元(約1700円)以上なら原則無料になる。

総取り扱い件数は非公表だが、同社の売上高は2017年12月期で3623億元(約6.2兆円)に上る。かなりの物量となるはずだが「一部の外注を除いて、ほとんど自社で配送している」(同社)。ジンドンの社員は傘下の金融会社を除いて約15万人いるが、そのうち配送員は約6.5万人。それだけの人員で中国ほぼ全土の配送をカバーしていることになる。ちなみに、配送員はすべて正社員だ。

ジンドンはなぜここまで省力化を進めることができたのか。背景には、同社独自の自動倉庫がある。

ジンドンは上海や北京に自動倉庫を持つ。中でも上海にある自動倉庫は4万平方メートルの広さがある。


上海の大型倉庫では300個もの仕分けロボットが使われる(写真:ジンドン)

自動倉庫では荷受けや、荷物の保管、包装、仕分け作業の4つの工程をすべてロボットが行う。特に圧倒されるのが仕分け作業だ。ロボット掃除機、ルンバのような赤い機械が300個ほどぐるぐる倉庫内を回り、荷物を仕分ける。

「1時間のうちに1台で1800個の商品を仕分けることが可能」(同社)。機械はセンサーで互いを認識するため、衝突も避けられる。こうした倉庫内の自動化により、上海の倉庫では以前は数百人が働いていたが、現在ではシステムオペレーターの数十人にとどめられているという。

すでに40機のドローンを活用

自動化が進んでいるのは倉庫のみではない。山間部への配送にはドローンを用いて飛ばしている。


ドローンで山間部にも配達(写真:ジンドン)

ドローン配送は2016年から農村部で始めた。現在ドローンは全部で40機。30キログラム以内の荷物を100キロメートルまで飛ばすことができる。ドローンは中央部の西安市と東部の江蘇省の2カ所に拠点がある。山間部に荷物を飛ばすと各拠点のスタッフが受け取り、自宅まで届ける仕組みだ。

毎日数十回の利用があり、行き来の難しい山間部への重要な配送手段となっている。さらに現在1トン以上を輸送できる重量ドローンも開発中だ。また、2020年をメドに配送用の無人飛行機の導入も検討している。

ジンドンの売上高はこの4年間で約5.2倍に急伸した。一方で収益面では赤字が続いており、自前の物流インフラが重荷になっている可能性がある。ただ、わずか15年あまりで中国全土をカバーするインフラを作り上げたスピードは目を見張るものがある。人手不足に直面する日本の物流業界にとっても、何かしらのヒントとなるかもしれない。