「すべての歴史は階級闘争の歴史である」
 マルクスが『共産党宣言』でこう喝破したのは1848年。21世紀の日本に「新しい階級社会」が生まれている。 

「もはや『格差社会』などという生ぬるい状況ではありません。貧富の差が極端に大きくなり、人々が互いに分断される『日本型階級社会』が出現したのです」(早稲田大学人間科学学術院の橋本健二教授・以下同)

 橋本教授によれば、現代の日本社会は図のように5階級に分類される。

「階級社会にまで進んだのは、一部の経営者が非常に高額な報酬を得るようになったことが背景にあります。アメリカほどでなくても、日本でも年俸1億円を超える経営者は普通になってきました。かつてはどんな大企業の社長でも、せいぜい年収3000万〜4000万円だったころと比べると、大きな変化です」  

 一方で、極端な貧困層が大量に現われた。彼らが「アンダークラス」だ。

「非正規の労働者は正規雇用の労働者と比べて、格段に貧しい、不安定な状態に置かれています。彼らは平均年収わずか186万円で、貧困率は38.7%にもなります。貧困のために、結婚して家族を形成することすら難しい。男性ではじつに66.4%が未婚です」  

 かつて非正規労働者はパート主婦が大部分だったが、バブル経済の後半、1990年ごろから、新たに大量の非正規労働者が出現し始めたという。

「当時『フリーター』という言葉も生まれましたが、そのころから、学校を卒業しても就職せずに、非正規労働者になる人たちが出てきました。その後、バブルが崩壊すると、景気低迷のなかでその傾向がさらに強まってきたのです」

 そして、いったんアンダークラスに転落すると、容易に抜け出せなくなる。1990年当時、20歳前後だったフリーター第一世代はいまや50歳前後に。景気低迷で正社員になれなかった就職氷河期世代も40歳前後と「取り返しのつかない年代」になっているのだ。  

 マルクスは、こうした状況をすでに予言していたという。 

「『資本論』に『相対的過剰人口』という言葉があります。技術革新が進むと労働者が過剰になり、不安定就労者や失業者が増えるというのですが、彼らは『アンダークラス』と同じ人々です」  

 日本はかつて「一億総中流社会」と呼ばれていた。

「じつは1980年代に入ると、すでに格差は拡大し始めていたのです。しかし『日本は格差が小さい』というイメージだけがずっと残っていた。その結果、富裕層の所得税率引下げなど、格差を拡大させる政策が採られてきたのです」  

 新たな階級社会の出現が政治の無策によるものなら、対策はあるはずだ。 

「まずやるべきは労働時間の短縮です。正社員の労働時間を短縮すれば雇用を増やさなければならない。それにより、非正規雇用から正規雇用への流れができる。一方で、非正規の仕事に就こうという人が少なくなるので、非正規労働の時給は上がるはずです」  

 それを阻むのが自己責任論だという。 

「努力した人は報われるべきという考えですが、ここから報われないのは自分の責任ということになってしまった。しかも、貧困層にまで自己責任論に染まっている人が多い。欧米では、貧困になると殺人が増えるんですが、日本では自殺が増える傾向があります」  

 自らを責めるよりも立ち上がれ! 遠くからマルクスの声が聞こえてくる。

(週刊FLASH 2018年5月22日号)