“私の兄は、障害者”。見て見ぬ振りして、直視できない現実を避けるように生きてきた、妹目線の連載です。精神疾患の兄は薬の量も半分に減り、落ち着きを取り戻したかと思った矢先。両親は、新聞に大きく載っていた自費診療の病院を発見しました。

文・心音(ここね)

【兄は障害者】vol. 18

両親は、誰よりも兄の回復を待っていた

兄がお世話になった病院は、今まで2か所。両方とも、保険が適応される精神科でした。高校のある時期から激変した彼の状況に戸惑いながらも、やっと慣れてきた生活でしたが、両親は障害者手帳を発行された後も、兄の回復を諦めませんでした。「お兄ちゃんは、どこも悪くない」「また何かの拍子できっと、よくなる」と……。もちろん、自分の子どものことですから、両親が兄を良くしたいと思う気持ちは痛いほどわかります。

しかし、妹の私からすると、当初に比べれば兄の状態はだいぶ落ち着いてきたように思えました。暴力的な言動や、過度の引きこもり生活を抜け、薬の量が半分に減り、入院ではなく通院に変わり病院に行く頻度もかなり落ちている。また、障害者手帳の申請や、障害者年金の受理までしているのだから、両親はもう少し気持ちを楽にしてはどうかと客観的に見ていました。

世の中にあふれている「広告」

そんなある日、「お兄ちゃんの病院を変えようと思う」と母から連絡がありました。なぜいきなりそんなことを言い出したのだろうか……?と考えていたのですが、よく聞けば新聞に大きく載っていた精神科に最後の望みをかけて診てもらいたいとのこと(当時は、藁をも掴む思いだったので深く考えていなかったけれど、その新聞掲載は記事ではなく広告だったそうです)。

私は実家から離れて暮らしていたので、どんな状況だったかはわかりませんが、「都会に有名な精神科があるらしい」と田舎生まれの両親が言うのです。内容を詳しく聞いてみると、その病院は保険がきかない自費診療。実家から電車と新幹線、そして診察代や薬代を合わせたら1回行くだけでも約5万円くらいはかかります。正直、心の病気で悩んでいる人が一向に減らない現代で、自費診療を受けたから何かが急激に変わるとは思えず、私は半信半疑でした。

しかし、基本的に、病院のことや薬については両親が決めていることなので、「興味があるなら、行ってみても良いんじゃない?」と反対はしませんでした。

診断結果と処方薬が変化し、さらに悪化

父が休みのときは一緒に行くこともありましたが、基本的に母と兄の2人で都会の病院へ通うようになりました。2年半近くそこの病院にお世話になりました。病名は、統合失調症ではなく「高次能機能障害」と診断があり、処方内容も異なりました。1回の診察で約5万円かかるので、総合的にみるとかなり高額な費用だったと言えます。

結論からいうと、その病院に通って兄の病状は悪化してしまいました。高額な費用がかかったにも関わらず、兄はいつも興奮している状態で、当初の荒々しい兄に戻ってしまったかのよう……。両親が当時を振り返ると、「ビジネスとして成り立っている病院もあると思う」とのこと。もちろん、私たち以外の家族では成功した例もあるかもしれませんし、兄とは診察内容が合わず無念な結果になっただけ。そう思いたいのですが……。

夢中になっている両親を救った言葉

しかし、働くことができない状況の精神障害患者を対象に、自費診療を家族が長らく続けることは現実的に考えると難しい計画です。また、個人的な意見では、新聞に広告を出す予算があるならば、診察料をもっと良心的な値段に落としてもいいのではないでしょうか。とはいえ、「精神障害」患者を抱える家族にとっては、どんな手段でもいいから改善したい、社会復帰のためになんとかしたい、と辛抱強く頑張るケースは少なくありません。

そんな藁をも掴む想いで頑張り続けた、両親を救った言葉。それは、祖母や祖父からの助言でした。

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