かしこい食の方程式」をテーマに、さまざまな角度から食を見つめ直す特集。今回の主役はです。「ダイエットの敵!」と悪者扱いされる一方で、「美容のためには良質な油が不可欠」というウワサも。現代人にとって課題のひとつである油との付き合い方を、一般社団法人 日本オイル美容協会のYUKIEさんにうかがいます。

油は太る? そう思いがちな理由

脂質は、糖質、たんぱく質に並ぶ3大栄養素です。3つの栄養素はともに、体を動かすエネルギーになるもの。では、なぜ脂質だけが肥満と結びつけられやすいのかというと、1gを代謝するのに必要なエネルギーに違いがあるから。糖質、たんぱく質は1g=4kcalに対して、脂質は1g=9kcal。これはバターでもオリーブ油でも、亜麻仁オイルでも変わりません。そのため、油はたくさんとってはいけない、と考えられてきたんですね」

ただ、近年は、脂質の摂取量に関する考え方が見直され始めているといいます。

それは、私たちの体の最小単位である細胞をつくるために、油はなくてはならない栄養素だから。細胞を覆う細胞膜の原料は、ほとんど脂質です。また、脳の成分も6割が脂質と聞けば、さらにその重要性がわかります。

「でも、油ならなんでもいい、というわけではないんです。口にする油の種類によって、細胞の成長、神経細胞のシナプスの動きまで変わってくる、ということはあまり知られていませんね。どんな油で構成された細胞かによって、やわらかくもなれば、かたくもなる。油の質を見極めることがとても大事なんです」

偏った油をとる怖さ

もうひとつ、忘れてはならない働きが、体の生理機能を高める役割。以前は、生理機能調整役はビタミン・ミネラル類の専売特許で、油は関係ないと思われていましたが……。

「油と酵素が結びついて生み出される代謝物質は、体のあちこちにシグナルを送って、体のバランスを保とうとしています。たとえば、必須脂肪酸のひとつであるオメガ6は、炎症作用を促進するシグナルを発します。炎症というとこわいイメージがありますが、体に異物が入ってきたことを知らせるもので、これも大切な役割。一方、オメガ3と言われる油は、炎症を抑制するシグナル物質を出します。それぞれがバランスよく働くことで、私たちの体のホメオスタシス(恒常性維持機能)が保たれているんです」

つまり偏った油ばかりとっていると、体のバランスが乱れてしまう可能性もあるということ! これは大問題です。

現代人はオメガ6過多、オメガ3不足

1日あたりの油の摂取目安は、総エネルギー量の20〜30%。体重50kgで2000kcalを摂取する場合、脂質の摂取目安量は50gとなります。自分の体重(キログラム)と同じ数字(グラム)、と考えるとわかりやすいでしょう。

「まずは、日頃の食習慣を振り返ってみてください。油というと、とかくオリーブ油やごま油など、絞った食用油にばかり注目が集まりますが、肉や魚、乳製品、豆類などにも脂質は含まれています。卵やチーズ、肉料理などをよく食べているなら、動物性油脂はしっかりとれていますね。食材からとる油で目安量の50gのうち半分くらいは占められますから、勝負は残りの25g。ここには優先して、不足しがちな油を割り当てていきたいところです」

一般的に、現代人はオメガ6過多、オメガ3不足の傾向があるといいます。オメガ6系脂肪酸、オメガ3系脂肪酸はともに、人の体内でつくることができない必須脂肪酸。オメガ6は、リノール酸やアラキドン酸などを含む油で、コーン油、大豆油、グレープシードオイルなどが代表的。オメガ3は、αリノレン酸を含む油で、亜麻仁油、えごま油などがよく知られます。青魚に多く含まれるDHA、EPAもオメガ3系脂肪酸です。

「揚げ物や炒め物が多い人なら、オメガ6系の油をたくさんとっている可能性が高いです。一方で、現代人に不足しがちなのはオメガ3系の油。とくにDHA・EPAは、生魚からしかとれません。生魚を毎日とるのは難しいので、植物の力も借りながら、意識的に良質なオイルに置き換えていく必要があります。家で使っている油を、亜麻仁油、えごま油、チアシードオイルなどにシフトしていくのもおすすめです。オメガ6とオメガ3の割合が1:1になると理想ですが、それはなかなかハードルが高い。まずは、オメガ6とオメガ3のバランスを2:1に近づけるところを目標にしましょう」

煮る・蒸す・ゆでるをメインに、オメガ3は生でとる

ただし、ここで気をつけたいのが、オメガ3系脂肪酸のデリケートな特性。αリノレン酸は、熱、空気、光に弱い、という特徴があります。つまり、せっかく亜麻仁オイルを使っても、加熱してしまったらオメガ3の恩恵を受けられない、というわけ。

亜麻仁油、えごま油は、サラダやスープに回しかけるなど、仕上げに使うのがベスト。煮る、蒸す、ゆでる、で調理した料理に、仕上げのオイルでアクセントをつけるイメージです。納豆やキムチなどの発酵食品に加えてまぜるのもおすすめ。αリノレン酸は、善玉菌のエサになるので、プレバイオティクスの観点からも相性抜群の組み合わせです」

加熱に強いオメガ3も

「そうはいっても、炒め物をレパートリーからはずすなんて!」と嘆くかたに朗報。比較的加熱に強いオメガ3系も登場してきています。それがサチャインチオイルカメリナオイル。どちらも常温で保存でき、短時間の加熱調理にも使えるという点で人気急上昇中の注目株です。

「料理に使いやすいのは魅力ですね。やっぱり暮らしになじまないと、続けることはできません。料理に合わせ、毎日の食生活に取り入れられるオイルを選ぶことが何より大切。とくに、なずなの種から絞られるカメリナオイルは、味わいも人気の理由。オメガ3系の油はどれも独特の青くさみと苦味がありますが、カメリナは比較的マイルド。おいしいと感じられないと、体のなかで栄養素が十分に働かないという研究もあるくらい、味覚も大切な要素。いろいろな油を試して、好みにあうものを見つけられたらいいですね」

トランス脂肪酸はなぜいけない? 良質な油に置き換えを

動物性の油脂もオメガ6系の脂肪酸も、体にとっては必要なもの。とりすぎにだけ気をつけ、1週間単位でやりくりすることを意識すればOK。たとえば、「今日は肉がメインだったから、明日は魚にしよう」「お昼にフライ定食を食べたから、夜は蒸し料理に亜麻仁オイルをかけて食べよう」といった具合です。

ただひとつ、徹底して抜く意識を持ってほしい油があるといいます。それがトランス脂肪酸

「トランス脂肪酸はよくないらしい、ということは多くの方がご存知ですね。でも、なぜよくないかまでは知らない人も多いかも。トランス脂肪酸は、油に水素が添加されることで発生する物質。私たち人間の体には本来ない分子構造です。油は細胞膜をつくる原料になりますが、トランス脂肪酸がくっつくと、細胞は育たなくなってしまいます。また、トランス脂肪酸とともに二次的に発生する物質によって遺伝子にまで作用し生殖機能にも悪影響及ぼす可能性があるなど、深刻なダメージをもたらすことがわかってきています」

トランス脂肪酸が含まれる油脂として代表的なものに、マーガリンサラダ油があります。また、レトルトなどの加工食品のパッケージに「植物油脂」という表記があるものも、トランス脂肪酸が含まれている可能性が高いといえます。

「こうした油は、トランス脂肪酸のリスクとともに、過酸化脂質化している可能性も考えないといけません。過酸化脂質化とは、いわゆるサビ。サビた油を体にいれていいことなんて、ひとつもありません。体にとってなくてもいい油は徹底的に排除して、代わりに体が喜ぶ油が優先的に入り込めるスペースをつくる意識を持ちたいですね」

油はもはや生鮮食品。量より質で選んで

毎日、続けられるマイオイルと出合えれば、油のバランスの正常化にグンと近づきます。最後にお伝えするのは、良質な油の選び方です。

「オイルは、熱・光・空気に弱くてとても繊細。棚に常温で並んでいるのが一般的ですが、野菜や果物と同じような生鮮食品だと思ってほしいんです。油は、高温でプレスしたり、溶剤をいれて抽出すれば安価にたくさん絞れます。でも本物のオイルは、搾油効率が悪くても低温での圧搾にこだわり、賞味期限が短くなっても余計な精製をせず、ナチュラルなままビン詰めされたもの。とても手間暇がかかっているものなんですね。だからこそ、値段もそれなりにする。でも、暮らしの質を高めて、からだにいい油におきかえる、と考えれば、そんなにたくさん使う必要はないんです。量は少なくていいので、おいしい油をフレッシュな生鮮食品としてとりいれてもらえたらいいなと思います」

「良質な油に置き換えていくことができたら、6か月ほどで体の変化を感じるようになると思います」とYUKIEさん。「今年は、花粉症の症状が少ないかな?」「つらかった生理痛がそういえばない」「最近、化粧ノリがいいかも」。こんなうれしい変化を感じたいなら、ぜひお気に入りのオイルを探しに出かけてみて。そしてコツコツ、暮らしにとりいれ続けていくこと。半年後の自分に会うのが楽しみになる新習慣、さっそくはじめてみましょう。

YUKIEさん
一般社団法人日本オイル美容協会 JAPAN OIL BEAUTY ASSOCIATION(略称:JOBA)代表理事。美容オイルコンシェルジュ、O.I.L. 主宰 オイル美容クリエイター。美容家である母に育てられ、オイル美容で権威ある医学博士から学んだ経験が人生を変える。自身の体験をもとにした、本物の「オイル美容」を伝えるべくメディアで活躍中。

取材・文/浦上藍子、image via shutterstock