消費税が10%になると、対策を打っても家計への実質的な増税額は3兆円超になる可能性がある(撮影:尾形文繁)

今年も「骨太の方針」の作成が佳境を迎えている(6月に政府が発表予定、正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」)。方針を決める経済財政諮問会議では、2019年10月の消費増税が予定される中で、2014年の増税時のような景気の落ち込みを防ぐ対応策が議論されている。

「消費増税による悪影響」が、正しく認識されていない

この中には、消費増税前の駆け込みと反動減がもたらす「経済の振れ幅」を平準化する対応策がある。だがこれらは本質的な対応とは言えないだろう。なぜなら消費増税の悪影響とは、増税による家計所得の目減りによって個人消費が落ち込むことだからである。


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「増税による恒久的な家計所得の目減りを、家計への所得補填政策でどの程度カバーするか」が、増税のインパクトを決する。2%の消費増税分から軽減税率分を引いた4.6兆円程度が、2019年10月から恒久的に家計所得の押し下げに作用する。

一方、予定されている消費増税分のうち、約2兆円については幼児教育や大学授業料無償化などの対策に使われるというのが安倍政権の公約となっている。実際には、増税ショックを和らげる恒久的な家計への所得補填がどの程度の規模になるかは、制度設計によって変わると筆者は考えている。

消費増税とともに実現する、家計に対する所得補填の規模がほぼ明らかになっている政策では、幼児教育無償化に約0.7兆円、低所得年金生活者(対象800万人)に対する支援金などに約0.5兆円が充てられる、と筆者は見積もっている。

以上は増税開始と同時期に始まる見通しだが、この恩恵を受けるのは、子育て世帯、低所得高齢世帯であり、消費性向が高い一部世帯への所得補填は、増税ショックを多少和らげるだろう。

もう一つの所得補填の目玉は、大学など高等教育の授業料無償化、支援金支給などの政策である。だが、これを通じた所得補填については、規模や対象範囲は依然明確になっていない。なお、この制度は2020年4月から始まるので、2019年10月の消費増税には間に合わない。

家計が支払う大学などの授業料の総額は年間3.7兆円と試算され、個人消費の1.5%の割合となる。この対象世帯の範囲によって、授業料無償化による家計への所得補填は数千億円レベルで異なってくる。

結局、家計所得への補填は1兆円程度?

2017年の自民党部会における資料によれば、低年収世帯には「授業料無償化」+「年収300〜500万円世帯へ半額無償化など」で、0.7兆円の財源(=家計への所得補填)が必要と試算されている。この対象となるのは、大学授業料を負担する世帯の2割程度とみられる。

一方、最近の報道によれば、大学などの授業料無償化について、授業料全額無償化は世帯年収約200万円以下に限り、世帯年収380万円まで、年収ごとに段階的に授業料の一部を補填する案が検討されている模様である。

この案だと、大学無償化による所得補填をうけるのは対象世帯の1割以下になるとみられ、上記の自民党案で示された0.7兆円の半分以下の規模に増税時の家計所得補填が抑えられる可能性がある。

これは授業料無償化に限る話で、別途、学生への生活支援の枠組みも検討されていると報じられていることから、ある程度の上積みはあるかもしれない。最終的には、今後固まる制度設計次第ではあるが、霞が関から漏れ伝わる報道を踏まえると、2兆円分とされる消費増税の使い道のうち、家計所得補填にまわる規模は1兆円程度にとどまる可能性がある。

そうなると、消費増税による家計負担は3兆円を超える可能性があり、家計所得の1%超に相当する可能性がでてくる。2014年の消費増税時の8兆円の家計負担と比べると小さいものの、2019年の賃金上昇率がどの程度高まるかで、個人消費に及ぶ影響は異なってくる。

もし賃金が1%前後の伸びの状況で3兆円を超える増税負担となれば、可処分所得の伸びはほぼゼロまで抑制される。2014年ほどではないが、個人消費に相当なブレーキがかかるリスクがある。

1〜2兆円規模の追加国債発行は、ほとんど問題がない

2%インフレの実現が難しい2019年度半ばの時点で、家計所得と個人消費にブレーキをかける緊縮財政政策の妥当性をどう考えるか。教育無償化には人的資産を底上げする性質があり、この恒久的制度の財源を国債発行によって調達する合理性はある。

また、すでに国債発行残高GDP比率は低下しており、1〜2兆円規模の追加国債発行はほとんど問題にならない規模である。そして、日本銀行による現行の金融緩和の枠組みでは、日銀による国債購入が減少していることが金融緩和の効果を弱めている可能性がある。国債発行の拡大は、金融緩和の効果を高め総需要安定化政策の強化となり、遅れている脱デフレを後押しする。

国税・地方税をあわせて、税収規模はすでに100兆円に達しているが、早期に名目GDPが3%程度伸びる経済状況を実現することは、3兆円規模の税収増が確保されることを意味する。であれば、長期的に財政収支を安定させるためには、道半ばにある脱デフレと正常化完遂を最優先することが最も確実なプロセスになる。

1990年代半ばからの不十分な金融緩和政策、緊縮財政政策の帰結としてデフレ不況が長期化してきたことが、公的債務拡大の最大の要因だと筆者は考えている。

そう考えると、総需要安定化政策を徹底する堅実な政策運営が、最終的に将来世代の税負担を減らすことになる可能性がある。政治的な事情が優先され、インフレ率が極めて低い中で再び個人消費に大きなブレーキをかける緊縮政策に踏み出す可能性が高まっているように見えるが、そうであれば脱デフレ完遂を前に日本経済に暗雲が漂ってもおかしくはない。