「舶来」の品々を身に付けたアイヌのリーダー像

写真拡大

北海道・旭川市博物館のキャッチコピーは「アイヌの歴史と文化に出会う」。1階ではアイヌの生活様式や他地域の先住民族の衣服などを紹介しています。13世紀ころから大陸方面でアイヌ民族が活動範囲を拡大していった様子などほかではあまり見られない展示内容にも注目。地階では旭川周辺の自然について触れています。嵐山にある分館では伝統的家屋を屋外展示。自然に囲まれた家はかつてのアイヌの暮らしを彷彿とさせます。

他地域の先住民族の人形や像を展示

アイヌ文化が確立したのは13世紀ごろと言われていますが、アイヌ民族は11世紀ごろからサハリン、千島方面にも進出。15世紀ころにはカムチャツカ半島にまで勢力を拡大していました。日本にはその当時の記録がほとんどありませんが、中国の史料「元史」にはアイヌがどんどん活動範囲を拡大していく様子が記されています。その史料を元にした展示ではサハリンから大陸に渡ったアイヌの人々が元軍と戦ったことがわかります。

博物館の一画には江戸時代の画家、蠣崎波響(かきざきはきょう)が描いた「夷酋列像(いしゅうれつぞう)」の中のひとりをモデルにしたアイヌのリーダー像が。威風堂々と立つその像は中国の服と毛皮のついたロシアのコートを着用。本州との交易で手に入れた刀を持っています。

アイヌを含む北方民族の衣装や民具が並べられているコーナーでは、それぞれの類似点と相違点を探すこともできます。

ほかの民族と比べ、アイヌ民族はヒト型の人形を作ることがあまりなかったそう。こうして他民族のものと並べてみると、そういえば、と気付かされます。

旭川市博物館ではほかにも個性的な展示が目を引きます。入口を入ってすぐに目に入るのが、こちら。鮮やかな赤ちゃん用のベッドメリーと動物の骨のようなもの。

なんとも奇妙な組み合わせに見えますが、これはアイヌの世界観を象徴するものとして設置されています。アイヌの人々はカムイ(人知の及ばないもの。神のようなもの)が人間に肉や毛皮を与えるために動物の姿となって人間の世界にやってくると考えていました。そのため動物を手に入れると、魂を丁重にカムイモシリ(神の世界)に返していました。

そうした考えは動物に対してだけではありません。ものにも魂が宿っていると考えていたので、使わなくなったものは所定の送り場に置き、自然に返しました。1968年に、博物館から車で20分ほどのところでそうした送り場の跡が見つかりましたが、そこには家紋を彫った椀などアイヌ民具のほか、ベッドメリーも置かれていたとか。入口のこのオブジェはすべてのものがカムイからもたらされたものである、というアイヌ民族の考え方を象徴しています。

入口から少し進むとササでできた家が見えてきます。旭川エリアのアイヌのチセ(家)です。伝統的な様式で作られたチセは前室ありの広めのワンルームで、中央に囲炉裏を置き、儀式の道具を出し入れするためのカムイ専用の窓があるなど構造はどのエリアもほぼ同じです。しかし、作る材料はエリアごとに異なり、カヤで作られる地域もあります。

チセは土間に直接囲炉裏がきってあるため、床暖房的な効果もあり、想像以上に暖かったようです。明治期になると、政府から板張りの住居が与えられますが、あまりの寒さにササのチセに戻る人もいたとか。また、囲炉裏の火を通じてカムイに祈りを捧げるアイヌの人にとっては、火の姿が見えないストーブの暮らしも落ち着かなかったようです。

明治のアイヌ女性、知里幸恵さんがまとめた「アイヌ神謡集」は、現在も出版されており、アイヌの文化を語り継ぎたい、という彼女の思いは世代を超えて共感を得ています。知里さんは旭川に住んでいた時期もあり、博物館では、彼女が知人の依頼に応じて、アイヌ神謡集とは別の神謡を執筆した際の手書きのノート(複写)を展示。カムイユカラ(神謡)のアイヌ語をまずローマ字にし、それから日本語に翻訳していったことがわかります。

旭川市博物館には車で20分ほどの嵐山に分館、「アイヌ文化の森 伝承のコタン」もあります。

北海道ならではの植物が一面に生えている中、ササで作られたチセが3棟、屋外展示されています。

北邦野草園内の「嵐山公園センター」では、特にアイヌの植物利用に関する展示を行っています。

北邦野草園では約600種の植物を見ることができ、その中にはアイヌの人が生活の中で良く利用していた植物も。

アイヌの暮らし・歴史を知ることのできる屋内展示、そして感じることのできる屋外展示。ゆっくり時間をとって両方楽しんでください。

※文中のカムイモシリの「リ」、カムイユカラの「ラ」、アットウシの「ウシ」は実際のアイヌ語表記では、小文字となります。

旭川市博物館 ■住所:旭川市神楽3-7(旭川市大雪クリスタルホール内) ■電話:0166・69・2004 ■時間:9:00〜17:00(最終入館は16:30) ■料金:大人300円 高校生200円 中学生以下無料 ■休み:第二、第四月曜、施設点検日、12/30〜1/4 ※6〜9月は無休

アイヌ文化の森伝承のコタン ■住所:鷹栖町字近文9線西4号 ■電話:0166・55・9779 ■時間:9:00〜17:00(最終入園は16:30) ■料金:無料 ■休み:第二、第四月曜、施設点検日、12/30〜1/4 ※4〜10月は無休

北邦野草園 ■住所:鷹栖町嵐山 ■電話:0166・55・9779 ■時間:9:00〜17:00(最終入園は16:30) ■料金:無料 ■休み:10/16〜4月下旬。開園期間中は無休(北海道ウォーカー・市村雅代)