今年のアップル「WWDC 2018」の招待状は白を基調としたデザインだ(写真:アップル)

アップルは6月4日から8日まで、カリフォルニア州サンノゼにあるマッケンリー国際会議場で、世界開発者会議「WWDC 2018」を開催する。報道関係者にも招待状が配布され、初日の米国太平洋夏時間10時(日本時間6月5日午前2時)から、例年通り基調講演が行われることがわかった。ライブストリーミングも用意されるため、世界中からリアルタイムでの視聴が可能だ。

WWDCはソフトウエア開発者向けのイベントで、話題の中心はソフトウエアだ。iPhone・iPad、Apple Watch、Apple TV、そしてMac向けの最新OSが披露される他、アプリ開発者向けの新しい技術も明らかになり、秋の正式なOSリリースに向け、開発競争が活発になる。そのため、世界中の多くのソフトウエア事業者、ハードウエア事業者が注目する重要なイベントである。

昨年は多くのハードウエア新製品が登場

2017年のWWDCではiOS 11が登場し、機械学習と拡張現実を駆使したアプリ開発が可能となったほか、iPad向けにはDockや強力な画面分割によるアプリ活用機能が用意された。またApple Payには個人間決済を手軽にできるApple Pay Cashが用意されたほか、Apple Watchにはジムのマシンとワンタッチで連携できるGymKitが新機能として発表された。

前述のようにソフトウエア中心のイベントであるため、必ずしもハードウェアの新製品が出るわけではない。実際、「新ハードウェアの発表なし」という年もあった。

一方で昨年は、iMacシリーズ、MacBookシリーズの刷新、iPad Proの新モデル発表、HomePodとiMac Pro登場など、iPhone・Apple Watch・Apple TVを除くアップルの主力ハードウエアが登場した。

今年はどうなるだろうか。

例年、iPhone、Apple Watchは9月の新製品発表会で刷新されている。今年もおそらくそのサイクルを堅持することになると考えられるため、iPhone XやiPhone 8の後継モデルを、今回のWWDC 2018に期待することはできない。

その一方で、2017年6月のWWDCで刷新されたMacとiPad Proについては、今年もプロセッサの強化などを中心とした新モデルの登場に期待が高まる。

特に、13インチモデルのMacBook Proには長らく2コアのIntelチップと内蔵グラフィックスが用いられてきた。そのコア数の増加と、外部グラフィックスの搭載を実現する高性能モデルが登場することに期待したいところだ。

Macについてはこれまで、Intelチップからアップルが設計するプロセッサへの変更が噂されている。しかし今年発表するモデルでその移行が行われるとは考えていない。しかし、iMac Proに搭載されたT2や、MacBook Proに搭載されたT1など、アップル独自のチップを搭載することは、今後も続けられるだろう。

Mac Proは2019年か

現状、Macラインアップで新製品が期待されながら登場を見ていないのは、最上位機種となるMac Pro、最も身近な価格で提供されるデスクトップMac mini。Mac Proについては2019年の登場になるとみられているが、iMac ProやHomePodのように、お披露目だけは行われるかもしれない。Mac miniには、既にIntelが公開しているAMD製グラフィックスと一体化したプロセッサの搭載で、ビデオやゲーム、VRの用途にも活用できる性能になることだろう。

iPad Proについては、昨年、プロセッサの強化やディスプレイの品質向上が行われ、9.7インチモデルは10.5インチに拡大された。今年もA11 Bionicをベースとしたハイエンドプロセッサが搭載されることになるだろうが、セキュリティが指紋認証のTouch IDから、顔認証のFace IDに変更されるかどうかに注目が集まりそうだ。

今後のiPhoneがホームボタンがなく、顔認証のセキュリティを採用していくのであれば、iPad Proについてもユーザーインターフェイスの統一が図られると考えているからだ。そのため、iPadの使い勝手も変更され、ホームボタンではなく面内のジェスチャーですべて行われる方式に変更されるのではないか、と考えられる。

アップルはアマゾンやグーグルに遅れて、ホームスピーカーHomePodを2018年2月に発売した。

しかし発表したのは2017年6月のWWDCだった。アップルはスマートスピーカーとしてではなくオーディオ製品としてHomePodを紹介しており、Strategy Analyticsによると、2018年第1四半期に60万台を販売し、約7%のシェアを獲得しているとみられている。

アマゾンは引き続き、AIアシスタントAmazon Alexaに対応する製品やサービスを増やしており、最近ではスマートホーム製品から自動車へそのパートナーの範囲を拡げている。一方のGoogleアシスタントは、東洋経済オンラインでもご紹介した通り、より先進的な技術開発をつぎ込み、レストラン予約を電話でこなしたり、子どもにていねいな言葉遣いを促すなど、独自の発展を極めている。

前述のスマートスピーカーの販売台数では、Google Homeシリーズが240万台と躍進し、米国内に限ればAmazon Echoを上回るデータも出てきた。5月8日から開催されたGoogle I/Oでは、Google Home miniのデザインに触れるセッションを用意し、「人々のプライベート空間に入り込む存在」として、製品とアシスタントの双方のキャラクターを注意深く設計していることを明かした。

SiriがiPhoneの目立つところに常駐?

その一方で、アップルのSiriは、AIアシスタントとしての評判は高くない。2011年のiPhone 4Sから導入され最も古株で、既にiPhoneだけでなくiPadやApple Watch、Apple TV、Mac、そしてHomePodにも搭載されている。最も広く普及している一方で、アシスタントとしての能力は、アマゾンやグーグル、マイクロソフトに遅れを取っているのだ。少しでも巻き返すためには、Siriでのサプライズが必要だ。


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アップルのソフトウェアの進化の方策は、アプリ開発者の発想や想像力を生かすこと。すでにSiri Kitといわれる開発者向けのAPIは用意されているが、地図や写真、個人間送金、フィットネスなど、活用範囲はまだ限られている。より多くのアプリを声で操作できる仕組みを整えることが急務であり、そうして初めてSiriの発展が始まることになる。

その姿勢を表すためにも、iPhoneのロック画面やホーム画面で、常にSiriの存在を意識させるようなインターフェイス上の仕掛けを打ってくるものとみられる

例えば、Apple WatchのSiri Faceは、Siriがその人の時計の利用パターンやこれから先のスケジュールを見越して、情報カードを用意してくれる仕組み。このSiri FaceがiPhoneにも搭載され、各アプリからの提供情報をSiriが自動的に選別し並び替える機能を搭載するだけでも、Siriの有用性を発見する糸口になるだろう。

はたして、どのような発表内容になるのか。筆者も取材のためWWDC 2018に参加し、サンノゼから速報と詳報をお届けする予定だ。