カフェと喫茶店には物語がある。「渋カフェ」その23
1960〜70年代の懐かしい昭和をぎゅっと集めた柴又〈セピア〉。

Hanakoスイーツ担当が、普段訪れるカフェ&喫茶店の物語をご紹介しています。レトロなテーブル、懐かしくてかわいいメニュー。不思議と落ち着く「渋カフェ」。お茶をいただきながら、マスターやその店それぞれのストーリーに耳を傾けて。23回目は、懐かしい昭和の女の子の部屋のような、柴又の昭和レトロ喫茶〈セピア〉へ。

今回の渋カフェは柴又の〈セピア〉。店長のセピアママが子供時代を過ごした1960〜70年代の女の子の日常が、一軒の喫茶店に色濃く凝縮されています。

店内には昭和の雑貨やポスターがいっぱい。そうここは、セピアママが現実の世界に作り上げた一つのドールハウス。

「漫画家の陸奥A子さんの世界が大好きで。漫画の登場人物が、喫茶店でデートするような、自分が子供時代に読みふけっていた乙女チックな世界を、いつか形にしたかったんです」

セピアママがこの店をオープンしたのは2013年6月。ちょうど5年前のこと。

「若い頃は古き良きハワイが好きで。プレスリーの『ブルーハワイ』の世界に憧れてました。で、実際にハワイに行ってみたら、移民の方が多いせいか懐かしい日本の面影がいっぱいあって。気が付いたらハワイでも、日本の古い物を探してましたね」

「ただ子育ても仕事も大変で、一時は喫茶店を開く夢をあきらめていたんです。でも一番下の子が高校を卒業するタイミングで、もしかしたらやれるんじゃないかと思って」

気が付くと生まれ育った下町で、物件を探していた。

「ここは、もともと古い洋品店だったんです。何度か柴又に遊びに来たときに入ったことがあったのだけど。不思議と気になっていて。ある日ネットで物件を検索していたら、このお店が貸しに出ていて」

「最初は飲食はダメだと言われたけど、喫茶店だから油くさくもならないしと何度もお願いしました。そうしたらついにOKがいただけたんです」

「グラスや小道具は、いつも知らないうちに合羽橋で買い集めましたね。100円とか200円だから。店をやるとかそんな考えもないうちから、家の隅に(笑)」

店に入るとお客さんはみんなひとしきりキョロキョロとする。店内に置かれた雑貨やレコードから、思い出がそれぞれの人の中で次々に飛びだしているのがわかる。同時代を生きた人もいれば、「おばあちゃんの家にこれあった!」と喜ぶ姿も。

「あの時代はスターがちゃんとスターだったんです。歌がうまくてかっこよくて」

ケチャップたっぷりのナポリタンもまた、昭和を思い出すスイッチ。

「今は、どこに行ってもみんなスマホを覗いているし。カップルでもそれぞれに画面を見ていたり、さみしいですよね。陸奥A子さんの漫画のように、喫茶店で男女が会話をするようなドキドキ感がない。もっと対面して人と人が話せばいいのに」

「その点、ここは不思議と出会いがたくさんある場所なんです。この店をきっかけに新しいお友達が出来たり。戦争の話をしたら、同じ戦地に親同士が行っていたことがわかったり。不思議な引き合わせがたくさんある。私も店を始めてから、新しい友人がたくさんできたんですよ」

喫茶店はもともと出会いの場。まして同じ世界観を好きな人が集まれば、偶然が必然に変わるのも自然の成り行き。懐かしいものがたくさん置いてあるけれど、もしかしたらここは、一番新しい形のサロンなのかもしれない

〈セピア〉
■東京都葛飾区柴又7-4-11
■03-6657-8620
■10:00〜18:30(18:00LO)
■火水休 約20席 禁煙

前回の奥沢〈Okusawa Factory Coffee and Bakes〉はコチラ
連載トップはコチラ。