福田監督に全幅の信頼を置く山田孝之
 - 写真:中村嘉昭

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 『銀魂』『斉木楠雄のΨ難』の福田雄一監督がメガホンを取った人気テレビシリーズ「勇者ヨシヒコ」(テレビ東京系)で、正義感があふれすぎるオバカな主人公ヨシヒコを熱演した山田孝之。以来、「コメディーを撮るなら福田監督」というほど全幅の信頼を置き、そして今回、女優・長澤まさみを相手役に迎え、念願の福田組最新映画『50回目のファーストキス』の主役に抜てきされた。作品ごとに違う表情をみせるカメレオン俳優・山田が、新たに挑んだキャラクターを通して思う人生観とは?

 本作は、ハリウッド映画『50回目のファースト・キス』を福田監督が笑いと涙で完全リメイクしたロマンチックコメディー。舞台はハワイ・オアフ島、天文学者を夢見るツアーコーディネーター・大輔(山田)が、ある日カフェで偶然出会った美女・瑠衣(長澤)に恋をする。ところが彼女は、昨日の出来事を一晩で全て忘れてしまう短期記憶障害を抱える身。毎日猛アタックを続ける大輔の一途な思いは、果たして届くのか?

 理想の女性・瑠衣と出会い、恋に落ち、そして毎日ファーストキスをする大輔。記憶がリセットされ、思い出を積み重ねることができない切なさを等身大の姿で演じた山田は、「笑いに関しては、福田組のいつもの感触はあったのですが、感動の部分では『気持ちがちゃんと入っていただろうか』とか『主人公の切ない思いが伝わっただろうか』とか、客観的に観られなかった。あとは、観客のみなさんに委ねるだけ」と思いを語る。

 生きる上で、記憶がいかに大切なものか、改めて身にしみる本作だが、中には消したい“黒歴史”も1つや2つ、必ずあるもの。ところが山田は、「消したい過去はない」と言い切る。「僕の場合、良くも悪しくも、全部受け入れます。例えば、撮影などでなかなか思うような芝居ができず、自己採点すると『40点くらいかな……』と落ち込むことも正直あります。でも、それは誰のせいでもない、全て自分が招いたこと。この失敗を真摯に受け止め、反省しながらも次に生かす。逆に捉えれば、前に進むためのエネルギーになっていますね」

 俳優・山田の力強い人生観をちょっぴり覗けたような気がするが、長澤同様、振り切った芝居でファンを魅了する、あの思い切りの良さも「失敗を受け止める」覚悟があるからこそできるものなのだろうか?

 「いやいや、それこそ必死なだけですよ。基本、何が正解かわからないし、自信もないし、度胸もないから、考え込んでしまうと動けなくなるので、思いっきりやる。その結果が振り切ったものに映るんだと思います」と告白。「それが観客の皆さんの心に響いているかどうかはわからないですが、そこにはウソがない。それだけは確かです」と言葉に力を込めた。全てを受け入れ、必死に演じる。いい俳優になればなるほど、その生き方はシンプルだ。(取材・文:坂田正樹)

映画『50回目のファーストキス』は6月1日より全国公開