あと1年もしないうちに、「平成」が終わる(写真:Fujifotos/アフロ)

あと1年もしないうちに天皇の代替わりがあり、それに伴い「平成」の元号も終了する。通常なら、2019年5月1日に新元号が公表される。だが各業界からの声に配慮して、政府が新元号の「早期公表」を検討しているとの報道が相次いだ。

元号の「早期公表」をめぐる政府の二転三転

実際、菅義偉官房長官は昨年6月16日の記者会見で、「新たな元号にするには国民生活への影響も考慮しつつ適切に対応すべきだ」と述べている。こうした流れから平成の次の元号は、いつもよりも前倒しで発表されるとの認識が広まりつつあった。

しかしながらその後、新元号の早期公表は、「公表から改元(旧元号から新元号に移ること)までの間が空きすぎて盛り上がらなくなる」との指摘や、「元号をめぐって賛否が出る」との懸念が生じ、2018年の秋以降から2019年にすると報じられた。さらに早期公表のはずが、天皇陛下の在位記念30年記念式典が予定されている2019年2月24日以降とする方針にまでズレ込む。 

ついには、2018年5月13日付の朝日新聞が「政府が納税や年金システムについては改元後も平成を一定期間使い続ける検討に入った」と明らかにした。ここまでくると、もはや元号の早期公表ばかりか、改元そのものが名ばかりになる。

2018年5月17日に行われた新元号への移行に向けた関係省庁の連絡会議では、「作業上の便宜として、新元号の公表日を改元の1カ月前と想定」(菅官房長官)する方針が決まった。

元号として平成が発表されたのは昭和最後の日(1989年1月7日)。それに比べれば、改元の1カ月前の公表は確かに「早い」とは言えるものの、これまで報道されてきた早期公表のイメージとはかけ離れており、期待はずれの感もある。

改元をめぐる政府の二転三転を受けて、インターネット上では、「もう改元なんてせずに、ずっと平成のままでいいのではないか」「元号なんて必要ない」といった意見も出る始末。また、カレンダーや手帳、ITなど改元による対応を迫られる業界からは「1カ月前に新元号がわかっても、対応しきれるかわからない」「準備期間が短すぎる」など、不安や不満の声も続出している。

改元の影響は、予想外の業界にも波及する可能性がある。ジャーナリストの村上敬氏は、「来春『改元』で『平成』が商標登録可能に」の中で、「平成」を社名に冠した企業が「商標ビジネス」に巻き込まれるリスクについて指摘している。

商標ビジネスとは、いち早く獲得した商標を他社に売却や、使用するためのライセンス料の徴収を求めることで利益を得る行為。こうした商標ビジネスの問題は近年注目を集めており、昨年には大阪の会社が自社の商品やサービスと無関係にもかかわらず、「ピコ太郎」や「立憲民主党」「北陸新幹線」「ゲス不倫」などさまざまな商標を出願し、ピコ太郎の所属会社であるエイベックスに対して「ライセンス許諾を受けるように」などと警告書を発したことが問題視された。

現状、「平成」という言葉を使った単語は商標登録できない。しかし改元を経れば、平成は現元号ではなくなるため、商標登録できるようになる。すると平成そのものはもちろん、たとえば「平成建設」のように、「平成」+「業種名」での商標登録が可能になる。

東京商工リサーチの調査によれば、平成を社名に含む企業は、全国で1270社。業種別では、サービス業が372社、建設業が334社ある。たとえば「平成建設」は同社に登録されているだけでも全国に49社あり、こうした同名企業こそ商標ビジネスに巻き込まれるリスクがある。あるいは、複数の同名企業にある社名やサービス、商品の商標登録をめぐる混乱も予想される。

改元の恩恵を受ける業界もある

一方で、改元の恩恵を受ける業界もある。それは官公庁や銀行を取引相手とする印刷業界だ。

ペーパーレスが進んでいるとはいえ、霞が関をはじめとする全国の官公庁や銀行はいまだに書類偏重の「昭和」な世界。昨年12月に天皇の代替わり日程が決まった時点では、複数の印刷会社の株価が上昇した。書類ベースで動く会社はまだまだ全国に数多くあり、改元に伴う印刷需要の盛り上がりが予測される。

また、「平成」を早くもレトロなものとして振り返る「懐古ビジネス」もすでに始まっている。若い人は信じられないかもしれないが、「平成」期はCDが大変売れた時代だった。小室哲哉プロデュースのCDをはじめ、浜崎あゆみ、GLAY、B’zといったアーティストのCDが、次々にミリオンセラーとなった。

こうしたCDを買い求めた世代が、アラフォーに突入しつつある。彼ら彼女たちは、現在主流となっている音楽配信よりも、モノとしてのCDに愛着を持っており、だからこそ、昨年引退を発表した安室奈美恵のベストアルバムは、発売2カ月で200万枚を突破した。

年長者が飛びつく商品、いわば「おっさんホイホイ」と呼ぶかどうかはともかく、「平成」への懐古ビジネスはこれからが本番であり、とりわけ斜陽・衰退と言われて久しいCD業界にとっては改元によるメリットを享受できるチャンスとなるかもしれない。

さまざまな期待や不安、リスクやメリットを想定しながら、残り1年、「平成」の終わりに向けたカウントダウンが続いていく。