問題児ばかりが集う閉塞的なオフィスに、ある日突然見知らぬ美女が現れたー。

女派閥の争いにより壊滅的な状況に直面した部署で、春菜(25)は絶望的な毎日を過ごしていた。

そんな春菜の前に参上した、謎だらけのゴージャスな女・経澤理佐。

理佐は、崩壊寸前の部署の救世主となるのか?

「墓場」と呼ばれる部署に、ミステリアスな女・理佐がやってきた。

派手で超美人な彼女だが、入社初日から春菜のピンチを救い、
部署内のミスをカバーして、おつぼねーずとの直接対決では彼女たちの弱点をつく。

そんな矢先に春菜は理佐から「営業部の広岡鈴香を知っているか」と謎の質問を受けたのだった。理佐の真の目的は一体何なのか?




GWが明けた。

理佐のお陰で休日出勤を免れた春菜は、心身ともにすっかりリフレッシュできた。浮足立って出社する。

月初とはいえ、休み明けという事で経理部の雰囲気も穏やかだ。

「今回、当たりじゃない?『マディソン ニューヨーク キッチン』のチョイスも良かったし。」
「でも、あの人既婚者だったのよ!」
「うっそー!」

おつぼねーずは、再び団結を取り戻したようだ。GW中に行ったお食事会と、婚活パーティの様子を大声で話している。

「あのメガネは?良かったんじゃないの?」
「年収800万円でしょ?身長だけでなく年収もあとちょっとなのよねぇ。」

お食事会では相手が既婚者で撃沈したようだ。婚活パーティも年収がなんだの文句を言っているが、要は今回も収穫がなかった事が手に取るように分かる。

聞こうと思っていなくても内容が筒抜けで、仕事に集中ができない。

それでも、おつぼねーずのご機嫌は、経理部の平和に繋がるのだ。

-どうかこの平和が少しでも長く続きますように…。

だが春菜の祈りは虚しく、甲高い声が経理室に響いたのはそれからすぐだった。

「わたしO型で大雑把じゃないですかぁ。そんな細かい集計作業、向いてないと思うんですよねぇ。」

声の主は、おつぼねーず3番手の水沢沙織。おつぼねーずの中では32歳と1番若く、甘ったるい話し方が特徴である。

「A型の人の方が向いてると思いますぅ。ねぇ?」

沙織の口から飛び出したとんでもない発言に、春菜は耳を疑った。


今度はブラッドタイプハラスメントに地獄のロシアンルーレットまで!?


沙織は、仕事の依頼を、いつも何か理由をつけて断ろうとする。

嘘か本当か分からない、家族やペットの体調不良も何回もあった。しかも、月末月初や監査対応などの繁忙期になると毎回必ず、である。

背が低く小柄なことをいいことに、重たいものを持つような仕事も自分には向いていないと言ってやらない。

朝早く出社しないといけない時には、低血圧だから朝が弱いといい、医者の診断書を用意しましょうか?と声を荒げたこともあった。

このままだと、沙織が無理やり主張を通し、誰かに仕事が振られる。そんな流れがたやすく想像できる展開だ。

-今回の切り口は、血液型ときたか…私もA型だけど、他にも確か2・3人いたはず…。

以前もこのような決め方の時に、対象者でくじをした事がある。

地獄のあみだくじ。いや、もはやロシアンルーレットに挑む気分である。

-神様、今週の運を全部使っていいから、ここは勝たせて下さい…。

そんな中、沙織が春菜をじっと見つめてこう言った。

「決算作業も一段落するでしょうし、西野さんがいいと思いますぅ。ねぇ?」

「…。」

春菜は、くじ引きで決める、そう思っていたので、まさかの指名制というこの展開に上手く反応できず声が出ない。

そのとき、その硬直した空気を破るかのような、ふわりと爽やかな声が経理室に響いた。

「お取込み中、ごめん下さいね。」




声の主は経澤理佐だった。コツコツと心地よいヒール音と共に、沙織のもとに近づいてくる。

「そのお仕事、私にさせて下さいません?私もO型ですけど、宜しいでしょうか?」

意外な申し出に、沙織もおつぼねーずも押し黙った。

10cmのヒールが、高身長の理佐をさらに大きく見せているうえに、無表情の冷たい顔つきには異様な迫力がある。

小柄な沙織は、理佐を見上げるような形になって1、2歩後ずさりする。そしてゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る発言した。

「じ、じゃあ、経澤さんにお願いしようかなぁ…なんてぇ。」

「承知致しました。わたくしもO型ですし、細かい作業は苦手なので、関数を駆使しようかと。

あ、あと…血液型の話はしない方が良いかと思います。新種のハラスメント『ブラッドタイプハラスメント』と言われかねませんから。」

ブラッドタイプハラスメント。それは血液型により性格を決めつけ嫌がらせや差別を行うこと。春菜はもう少しで、まさに餌食とされるところであった。

理佐はにこっと美しい微笑みをおつぼねーずに向けると、自席に戻り仕事に取り掛かったのだった。

こうして今回の仕事分担は、理佐が引き受けることになった。

-何だろう…この感じ…。

春菜は思う。結果として理佐が仕事を引き受けることになったにも関わらず、この勝ったような気分、空気。

これまで自分はいつも同じようなことがあったとき、ハズレくじを引いた気がして、負けた気分になっていた。

でもどうせやる羽目になるのなら、自分から積極的に行けばよかったのかな、春菜は自分の行動を振り返り、今度理佐をマネしてみようかな、そんな前向きな気分になっていた。

だがおつぼねーずは、仕事をせずに済んだにもかかわらず、何やらブスッとした表情で、不満そうである。

-何事もないといいけど…。


新たな問題勃発…!?営業部に忍び寄る影。ついに経澤理佐が動き出す!


それから、理佐は依頼された仕事をあっという間に片づけた。

理佐は、作業が早く、かつ丁寧である。

聞くと、「他人の3倍速く入力し、その入力時間の半分の時間でチェックできれば、他人の2倍の速さで完璧な作業ができます」と答えるのだ。

言うのは簡単だが、理佐はそれを本当にやってのける。しかも作業が驚くほど静かで、所作が上品なのだ。

それを実現しているのが、彼女が持ち込んだキーボードとマウスなのだと、春菜はしばらくして気付いた。

どうやら持ち込んだそれは、消音仕様となっており、早く多く入力しても静かで周りに威圧感を与えない(春菜は課長のEnterキーの音の大きさを、心の中でキーボードハラスメント:キーハラと呼んでいる)。

-一体どこでどんな仕事をしたら、そんなに仕事が早くなるのだろう?

理佐の正体は相変わらず謎のベールに包まれているが、そのスピードの秘訣を知るために、彼女の過去についてもいつか聞いてみようと春菜は心に決めたのであった。




「西野さん、これどう思います?」

その夜、理佐は珍しく春菜に相談を持ち掛けた。

手渡されたのは、とある経費精算の書類。内容としては、ごく普通の出張費用の精算だ。一体これがどうしたのだろうか。

「うーん…何も思わないですが、何か気になることでも?」

「そうよね…。」

理佐は顎に手をやり、何か考えているようだ。春菜は書類にもう1度目を通してみる。

「あれ?これって…営業部の広岡さんの書類ですか?」

申請者の名前の欄をよくよく見ると、営業部の2年目社員・広岡鈴香の名前が書かれていた。

そういえば先日、理佐から「広岡鈴香のことを知っているか」と突然聞かれたことが記憶に新しい。

あの時春菜は、理佐がランチに誘ってきたのは、鈴香の情報を探るためだったのではないかと勘繰ったのだが…。

そのことを思い出していると、理佐がおもむろに、こんな言葉を口にしたのだ。

「実は連休前から悩んでいるのですが…不正の申請の可能性があると踏んでいるんです。」

ー不正…。

ニュースではよく耳にするが、この身近なところでそんなことがありえるのだろうか?

その大きな衝撃のキーワードに、眩暈を覚えた春菜だった。

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営業部の不正に立ち向かうスーパーウーマン、本領発揮となるか?