仙台市出身の作家・渡辺優さんの著書『地下にうごめく星』は、自身の体験も盛り込まれた一冊。

仙台在住の会社員・夏美は同僚の誘いで地下アイドルのライブに行き、一人の女の子に魅了される―『地下にうごめく星』の第一章の主人公の体験は、著者の渡辺優さん自身の身に起きたことだという。

「それまでも女性アイドルは好きでしたが、地下アイドルのライブに行ったのは大人になってからでした。芸能人というより身近な女の子というイメージだったのが、本格的にやっている姿を見て驚いて。それに特別タレント性があるわけではなくても、自分は応援したいなと思わせる子っているんですよね。この楽しさを小説に書いてみたくなりました」

夏美は楓という少女に惹かれ、彼女のグループが解散すると知り、今後は自らプロデュースして楓を含む新しいグループを作ろうと決意。

「私もライブを観ていて、“私のほうがこの子を輝かせられる!”などと、面倒くさいオタク目線が湧いてきて(笑)。夏美さんはド素人ですが、実際に副業でプロデュースをしている人もいると知り、絶対にありえない話ではないと思ったんです」

第二章以降は彼女のオーディションに参加する子たちや楓へと視点が変わり、それぞれの物語が展開する。

「グループというと4〜5人いるので、そこから一人一人の個性を考えていきました。地下アイドルというと悪徳プロデューサーがいたりとネガティブな話も聞きますが、今回はポジティブな面を書きたかったんです。家にも学校にも居場所がなくても、地下アイドルを目指すことが救いになる子もいるだろうし、容姿に自信はないけどアイドル活動が好きでやりたい、という子にしっかりファンがついたりもしますし」

女装した男子高校生の応募者もいて、個性豊かな面々が登場。みな何に悩みつつアイドルを目指すが、「仙台にいると、芸能人になるルートなんてなかなかない。そんななかで10代のうちにアイドルになろうと決断するのは大変。かといって20代からアイドルを目指すのはちょっと遅いですよね。地方で自分のやりたいことをやる、という側面も書きたくて、舞台を仙台にしたというのもありますね」

意外な方向へ進んだ末の結末にも、納得するものがある。自分も自分の「好き」を追求したくなってくる、そんな一冊だ。

わたなべ・ゆう 作家。1987年、仙台市生まれ。2015年「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。他の著作に’17年に出た『自由なサメと人間たちの夢』がある。

『地下にうごめく星』仙台の会社員・夏美は同僚に誘われ、40代にしてはじめて地下アイドルのライブに行く。そこには彼女の人生を変える出会いがあった……。集英社 1400円

※『anan』2018年5月30日号より。写真・土佐麻理子(渡辺さん) 大嶋千尋(本) インタビュー、文・瀧井朝世