孫正義は天才投資家か否か?

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M&Aにおいて買収交渉における主要なプレーヤーを「Deal Maker(ディールメーカー)」と呼びます。テクノロジー企業のM&Aで最高のディールメーカーとして知られるのは、ソフトバンクのトップの孫正義氏。稀代の天才投資家との呼び声もある孫氏が、いかにして世界最高のディールメーカーになったのかについて、Bloombergが解説しています。

How Masayoshi Son Became an Eccentric Dealmaker - YouTube

孫正義は、現代で最も影響力のあるディールメーカー(仕掛け人)の一人です。



ドナルド・トランプが大統領に当選するや、日本の政府関係者よりも早く面会に成功したのは記憶に新しいところ。



「Masa」の愛称で知られる孫は、大きなリスクをとる輝かしいベンチャーキャピタリストと言えます。



孫はARMに対して320億ドル(約3兆5000億円)、Uberに対して90億ドル(9900億円)、WeWorkに対して44億ドル(約4800億円)など、恐るべき巨額の投資を行っています。



そして、ハイテク投資のリストはまだまだ続いていきます。



ソフトバンクのCEOは最高益を更新しまくる「向こう見ず」な人物だと、孫について考える人もいます。



かつてドットコムバブルで孫は700億ドル(約7兆7000億円)という世界最大の損失を被りました。



好きか嫌いかにかかわらず、孫がシリコンバレーと世界への投資を揺さぶる存在であることに異を唱える人はいません。



「孫は単にラッキーだっただけ」なのでしょうか?それとも「テクノロジーの未来への投資に関する天才」なのでしょうか?



孫が天才投資家かどうかを解説するのはBloombergのテクノロジーリポーターのパベル・アルペイエフ。孫とソフトバンクについて10年間にわたって追跡調査してきた人物です。



孫の先見の明を物語る分かりやすい例が、「iPhone」です。



iPodでAppleを飛躍させたスティーブ・ジョブズを孫は訪ねました。



そして、iPodに携帯電話機能を持たせた端末のスケッチを見せました。Appleに「音楽機能付き携帯電話」を作ってほしいという提案です。



すでにiPhoneの開発に着手していたジョブズは孫の「案」を断りました。



しかし、このとき孫は日本でAppleの携帯電話の独占的販売権をもらう約束を取り付けることに成功。こうして、iPhoneは日本上陸から長い間、ソフトバンクの独占販売となり、携帯電話キャリアとしてのソフトバンクを大きく成長させることになりました。



しかし、これは孫にとって最初のビッグディール(大きな取引)だったわけではありません。



二十歳の頃にカリフォルニア大学バークレー校に入学した孫は、音声機能付きデジタル翻訳機を発明し、シャープに100万ドル(当時のレートで約2億円)で売却しました。



ここで得た資金を元手にして、孫はソフトバンクを設立。



今では「ソフトバンク」という名前は日本では携帯電話キャリアとして広く知られています。



ドットコムバブルのごくわずかな期間ですが、孫は世界で最も金持ちな男になりました。



しかし、ドットコムバブルがはじけると、孫はほぼすべての資産を失うことになりました。破産寸前だった孫でしたが、何とか大ピンチをしのぎきります。



孫の手腕を物語る、最も重要な取引の一つが2000年に行われました。



相手は当時全く無名の中国人青年。今や巨大なAlibabaグループを率いるジャック・マーです。若き日のマーに、孫は2000万ドル(約22億円)もの大金を投資しました。



「彼の話し方、身なりから、カリスマ性やリーダーシップを持っているのがわかったのです」と孫は当時について話しています。



ソフトバンクがAlibabaに投資したお金は、今や1380億ドル(約15兆円)の価値になりました。これは、歴史上で最大のリターンを生んだ投資と言えます。



1度の大当たりならラッキーと言えるかもしれませんが、孫は今なおテクノロジーにおける巨額の投資を積極的に行っています。2017年時点で投資しているスタートアップは100社を下りません。



その中には金の卵のUberとDidiが含まれています。



孫は独特の投資スタイルを持つことで知られています。それは「東京での公式イベントに創業者を招き」「ディナーを共にし」「大金を提示する」というもの。



こうして孫はスタートアップに次々と大金を注ぎ込みます。



原資は1000億ドル(約11兆円)規模の投資を行う予定の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」。テクノロジースタートアップへの投資ファンドとして歴史上最大の規模のSVFへは、AppleやQualcomm、Foxconnなどそうそうたる面々が出資に参加しています。



中でも最大の存在は「中東」



サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子率いる投資グループがSVF最大のバンカーで、なんと450億ドル(約4兆9000億円)もの出資を行います。



「サルマーン副皇太子との交渉時間は45分だった」という孫。



「つまり、1分あたり10億ドル(約1100億円)です」



ただし、ソフトバンクがAlibabaなど投資先企業を通じて保有する価値は19兆円で、ソフトバンク自身の時価総額の9兆8000億円を上回っているという事実があります。



これは、「投資家の多くはソフトバンクの将来性を買っているのではない」という証拠に他なりません。



「孫は次のAlibabaを手に入れられない」という意見だけでなく「これまで築き上げた富を垂れ流している」という批判もあります。



孫の戦略を信じるかどうかは別にして、孫の投資スタイルは1990年代のドットコムバブルのころと変わってきているのは事実です。投資先企業はベンチャーではなく、すでに生き残る能力を証明済みの企業です。



「孫が天才投資家というにふさわしいかどうかは、おそらく単に十分なリターンを提供できるかどうかではなく、社会に大きなインパクトを与えられるかどうかにかかっているでしょう」とアルペイエフは述べています。