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 巷にあふれ返った“健康常識”はウソ? ホント? 高齢化社会と言われて久しい日本において決して無視できない、「老化と認知症」にまつわる都市伝説を、医学ジャーナリストの植田美津恵先生がQ&A形式でわかりやすく解説します。

高血圧でなければ減塩しなくてもかまわない?

「塩分のとりすぎによる悪影響は、高血圧だけに限りません。ですから、これはウソ」

 と植田先生。高濃度の塩分をとると、腸の免疫系が変化することが米コーネル大学の研究で明らかに。そのメカニズムはまだわかっていないが、マウスの実験では脳の血流障害が確認され、認知症によく似た症状もみられた。

 通常のえさに戻すと改善されたものの、とり続けていたら、最終的に認知症となるおそれもあると指摘している。

「ナトリウムのとりすぎが脳の血流にリスクとなるのは確か。また塩分は、胃がんの発症リスクを高めるともいわれています。胃にピロリ菌がいる人は、特に注意したほうがいいでしょう。ピロリ菌は長期感染することで胃がんの原因になると言われていて、よりリスクを高めてしまいます」

高齢者ほど夜ふかししたほうがいい?

 これはホント。複数の研究によると、年齢が進むにつれて体内時計は乱れやすくなり、健康な70代でも、若者と比べて約1時間は進んでいるとか。睡眠時間も短くなり、60代や70代では、せいぜい6時間ほど。

 なのに早い時間帯から寝てしまうと、睡眠の質が低下してやたら早くに目が覚めてしまったり、夜中に何度も起きたりする羽目に。

「運動量が絶対的に足りません。国が推奨する1日あたりの歩数は高齢者の場合、男性6700歩、女性5900歩。これをクリアしていない人は多く、仕事をリタイアしていれば日中の活動量も少ないのだから、そんなに眠れませんよ。

 今日も眠れないと1日単位で考えるのではなく、睡眠時間を週単位で見る癖をつけておおらかな気持ちでいたほうがいいです」(植田先生)

自分の年齢を受け入れられないと認知症になりやすい?

「年齢なんてただの数字よ」とは女優・萬田久子の言葉だけど、たとえ美魔女じゃなくても、年を重ねることをポジティブに受け入れられたほうがいい。認知症のリスクにも影響するからだ。

 米イェール大学の研究によると、加齢について肯定的にとらえられている人ほど、認知症を発症する可能性が低かった。認知症にかかるリスクが高い遺伝子を持っていたとしても、やはり同じ結果が出たという。

「認知症のケアで、暴言を吐いていた高齢者でさえ穏やかに変わるという技法『ユマニチュード』が注目を集めています。目を見て話して、触れて、あなたは大切な人と肯定的に伝えるのがポイント。

 ポジティブな考えや感情は、認知症を防ぐにもケアをするにも、よりよい効果を生むのです」(植田先生)

歩く速さが遅いと認知症のリスクが高くなる?

 ホント。英ロンドン大学の研究では、歩行速度が遅い人や低下した人ほど認知機能も悪化していたことが明らかに。

 また、フランスの研究施設の調査によると、歩くのが遅い高齢者に、アルツハイマー型認知症の発生要因と考えられている脳内のタンパク物質・アミロイドβが多かったという。

「早歩きをすると認知症や転倒のリスクを減らすというデータもあり、推奨されています。ただ、認知症の人の歩行速度が遅いのは、平衡感覚がわからなくなって怖いから。

 そうした高齢者にまで無理に早く歩かせようとするのではなく、健康な人に向けた提案としてとらえたほうがいいです」(植田先生)

アルツハイマーは食事で防げる?しかもやせる?

 これはホント。米シカゴ・ラッシュ大学の研究によれば、独自に考案した『MINDダイエット』を実行した人の53%でアルツハイマー型認知症の発症リスクが低下、認知機能は7・5年も若返ったという。

 気になる中身は、全粒穀物を少なくとも1日3回、緑色野菜とそれ以外の野菜を1日1回は食べる。間食にナッツをほぼ毎日取り入れるなど。これなら簡単!?

「認知機能を改善させるには、運動と頭の体操を組み合わせるのがベスト。例えば、歩きながら頭のなかで計算をする。認知症予備軍と言われる人たちの半数近くで認知機能が回復したというデータもあるほどです。

 それにプラスして、MINDダイエットのような食事を取り入れると、相乗効果が期待できるのではないかと思います」(植田先生)

長生きしたい?それなら粗食がいちばん!

 これはウソ。一般的に、肉を食べることで心配されるのはコレステロールの増加。ところが、血中のコレステロール値が高いほうが肺炎やがんになりにくく、死亡率も低いことが明らかに。日本やフィンランドの研究調査で報告されている。

「100歳以上のお年寄りを意味する“百寿者”の研究でも、長生きしている高齢者ほど肉などのタンパク質をしっかり食べて、量も十分にとっていることがわかっています。

 そこで、いま私が提唱しているのは、欧米風の和食。純和食では塩分が高めだったり、タンパク質が不足してしまったりするので、肉や分厚い魚を足すなど補うと◎。食事量も増えて、そこそこ脂肪分もとれます」(植田先生)

〈お話を伺ったのはこの方〉
植田美津恵先生
医学博士、医学ジャーナリスト。愛知医科大学客員教授、東京通信大学准教授。各大学にて教壇に立つほか、医学番組の監修、テレビコメンテーター、講演活動を行う。近著に『忍者ダイエット』(サンドランチ)