映画『恋は雨上がりのように』が5月25日(金)に公開されました。眉月じゅんによる原作漫画を、『世界から猫が消えたなら』『帝一の國』の永井聡監督が実写映画化した爽やかな余韻を残すラブストーリーです。夢を見失った一見クールな17歳のあきらを小松菜奈が、遠い昔に夢を封印してファミレスの店長としてあくせくと生きる45歳の近藤を大泉洋がそれぞれ演じています。そこに起きた化学反応は、どのようなものだったのでしょうか?

(c)2018映画『恋は雨上がりのように』製作委員会 (c)2014眉月じゅん/小学館

『恋は雨上がりのように』
(配給:東宝)●監督:永井聡 ●脚本:坂口理子 ●出演:小松菜奈 大泉洋 清野菜名 磯村勇斗 葉山奨之 松本穂香 山本舞香 濱田マリ 戸次重幸 吉田羊 ほか 5月25日(金)全国ロードショー

【あらすじ】
陸上に打ち込んできた高校2年生の橘あきら(小松菜奈)。アキレス腱のケガで夢を絶たれた日、偶然入ったファミレス「ガーデン」で、事情を知らないままに優しくコーヒーをサービスしてくれた店長の近藤(大泉洋)と出会う。近藤へ密かな恋心を抱き、「ガーデン」でバイトを始めるあきら。クラスメイトでバイト先も同じ吉澤タカシ(葉山奨之)から想いを寄せられている事にも気づかない。同じ陸上部で親友の喜屋武はるか(清野菜名)はそんなあきらを心配するが、募る恋心を控えられないあきらは近藤へ告白する……。

恐るべし!の女優力を見せつける小松菜奈

人生に倦んだバツイチ子持ちの45歳、さえないファミレス店長の近藤と、夢を見失った17歳の一見クールな美少女、橘あきら。そんな二人の純愛を描くって、おじさんの願望がつまったちょっと気持ち悪い話? と早合点する人がいるかもしれません。しかも近藤を演じるのは大泉洋で、あきらは小松菜奈。この二人のラブシーンって……って、それ全然違いますから!確かに純な恋を描いてはいるけれど、見終えたあとに予想もしていなかった類の爽やかな余韻に浸れる素敵な映画なのです。

映画の冒頭、小松菜奈演じるヒロインの橘あきらが朝、学校へ登校するシーン。学生鞄を持ってたたた……っと走ってきたらしいあきらが画面の外から横移動し、ざざ〜っと滑りこんできます。前かがみになって右手右足を横に伸ばてキメポーズをしたかと思うと、画面の中央でぴたりと止まります。クッと顔を上げて前を見据え、画面が切り替わると、全力疾走で走るあきらの姿。格好いい――背筋をピンと伸ばして走る小松菜奈がまぶしくて、走る走る青春映画がこれから始まるんだ! という期待感が高まります。

原作者の眉月じゅんさんによると、連載中から「橘あきらは小松菜奈に似てる!」という声が多数あったらしいです。確かに小松菜奈は少女漫画に出てくるヒロインみたいな顔ですが、意外とこの原作のあきらの絵とは似ていません。でもその中身というのか、「顔が整い過ぎていて目力が強く、黙っていると怒っているみたいに見える」、というあきらという女の子にまさにピッタリ!それでいて純粋でまっすぐなあきらそのもののようでもあって、もうそういう女の子にしか見えません。でもそれはただナチュラルにカメラ前にいるからではないのが明らかで、確実にツボを突きながらとても繊細に演じています。細かいところをよ〜く見るとそここで、シーンを成立させるための細かい演技をしているのがわかり、小松菜奈恐るべし!という気分になるはず。しかも当然といえば当然ですが極上にかわいらしくもあって、彼女がいま、多くのつくり手から求められるのも納得してしまうはずです。

近藤が脱いだシャツの匂いをそっとかぐあきら……小松菜奈がそんなことを!?

さすがの大泉洋、コミカルなシーンはスベり知らず!

そんな最強な女子高生のあきらが恋をするファミレス店長の近藤。この役もまた、大泉洋にしか出せない味わいがあります。彼もまた、いえ小松菜奈よりもよりはっきりと原作の近藤と似ていない!でもそこは大泉、キャラを自身にグッと引き寄せてみせます。まず小松菜奈みたいな極上の美少女からまっすぐに告白され、ことあるごとにぐいぐい押されるのに、いやいやいや、ちょっとちょっとちょっと……待って!みたいな感じでほとんど動じません。いえ内心は動じているのかもしれませんが、その姿に中年男のイヤらしさが微塵もにじまないのがスゴイのです。それでいて真面目さや誠実さが、あくまでさりげなく近藤という役柄へにじんでいます。

それでいて、ここがまさに大泉洋にしかできない!と思わせるところなのですが、ちょっとしたコミカルなシーンが確実に笑えるのです。それがちょっとしたセリフのトーンだったり、ふと振り返るときのタイミングだったり、カメラがさっと動いたときにただ立っていて微妙な表情をしているだけだったりするのに、とにかくスベらない。本気で笑えます。この手の映画で、そういうことって滅多にないです。さすが大泉洋!

この映画では彼だけでなく、吉澤タカシ役の 葉山奨之もかなり笑いに貢献しています。あきらに思いを寄せるクラスメイトなのですが、1ミリも相手にされていないのにその恋心は微塵も揺らぎません。「ガーデン」ではあまりに料理がヘタなので皿洗い担当になっていて、隙あらばあきらにアプローチ!でも全然まったく相手にしないあきら――そんな場面での、吉澤の短いリアクションが素晴らしい。アホっぽくて、とてもカワイイのです。実はそんな吉澤を主人公にして、彼に片想いをする「ガーデン」のバイト、西田ユイとの恋の行方を描くオリジナルドラマ(『恋は雨上がりのように〜ポケットの中の願いごと〜』GYAO!にて配信)にまで発展します。まさに愛されキャラなのです。

「ガーデン」のキッチンスタッフである吉澤(右、葉山奨之)と加瀬(左、磯村勇斗)。吉澤の髪型にも注目。

話を大泉に戻すと、近藤の学生時代からの親友、九条ちひろ役で戸次重幸が登場します。ご存知でしょうが大泉と戸次は実際に学生時代からの友人で、二人は演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバー。劇中、その共演シーンは決して多くありませんが、さすがの空気感を醸します。ちひろは売れっ子小説家なのですが、小説家になることは近藤にとって諦めた夢でもありました。片や夢を実現した勝者、片や学生時代の夢を諦め、しがないファミレス店長として客にも従業員にも頭を下げるばかりの日々を送る敗者。二人がなんとなく疎遠になっていたのもわかります。そんな彼らが久々に再会して、安〜い居酒屋で一杯やるシーンはとても好ましい味わいがあります。それは演技の底の底に、二人が持つ本物の歴史があるからこその“味”に思えました。

近藤役の大泉洋と、九条ちひろ役の戸次重幸。この「学生時代からの付き合いがあるおっさん二人」感は本物!

女同士の友情は、限りなく恋愛に近い!?

原作者によるとこの物語は恋愛漫画ではなく、17歳の女の子の生活を描こうと思ったらしいです。17歳女子の生活、それは部活とバイトと恋愛だと。かつて17歳だったアラサー女子にとっては、確かに! というところでしょうか?なかでも個人的にとても膝を打ったのは、あきらと清野菜名演じる喜屋武はるかの関係性です。二人は同じ陸上部に所属し、中学時代から付き合いのあるまさに親友同士。でもあきらがケガで陸上部を離れてから、そこには微妙な距離が生れます。いままではず〜っと一緒にいて、大切なことは必ず最初に教え合って秘密を共有していたのに。とにかく自分にとってはもちろん、相手にとっても一番大事な子なの!みたいな仲だったのに。

ところがバイトを始めたあきらには新しい友達との付き合いが生れ、どうやら好きな人もできたらしい。あきらが私の知らない世界へ足を踏み出し、どこか遠いところへ行ってしまいそう……言い知れぬ不安が募ります。その不安がどんどん大きくなった挙句、あきらの片想いの相手である近藤に嫉妬をしはじめる。そんなはるかを演じる清野菜名を見ていて、ああそうだった、高校生くらいの女友達との関係って、限りなく恋愛に近いものだった気がする――と振り返って改めて思いました。はるかのあきらへの想いが切実であるのが伝わり、いつでも危ういバランスを保っていた女友達との関係を懐かしく思い出しました。

それ以外にもあきらとその母親との関係性、あきらを目標にしてきた他校の陸上部員である倉田みずきのエピソードなど、この映画では主人公たちを取り巻くキャラのドラマがセンスよく丁寧に描きこまれていて、思いのほかその奥行が深いのです。だからこそ、あきらと近藤の結末がグッと心に迫ります。見終えたあとの爽快さは、まさに雨上がりのよう。汚れきった自分が浄化されたような錯覚に陥ることでしょう。

喜屋武はるかを演じる清野菜名を見ながら、学生時代にず〜っと一緒にいた女友達のことを思い出すかも。

文・浅見祥子