現行の制度では、年金財政が健全化するまで、給付金額を段階的に下げていく仕組み。年金財政は破綻しないが、高齢者の生活は苦しくなる一方だ

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今年2月、政府が推進すべき基本的かつ総合的なガイドラインである「高齢社会対策大綱」が見直された。この中で制度変更の検討が明らかになったのが公的年金の「(個人が)70歳以降の受給開始を選択可能にする」というもの。年金の今後はどうなっていくのか。年金制度に精通する、ニッセイ基礎研究所研究員の中嶋邦夫氏に聞いた。(取材・文/末吉陽子 編集/清談社)

国民の4割が働かない国に!
制度変更の裏に政府の危機感

 高齢者の人口増加と働く世代の人口減少によって、公的年金の安定運用を不安視する声は絶えないが、政府が受給開始年齢の引き上げを示したのには、どのような狙いがあるのか。

 まず、受給開始年齢についてだが、現在は65歳を標準の開始年齢に定めた上で、本人が前倒しを望めば60歳から、後ろ倒しを望めば70歳まで、1ヵ月刻みで自由に受給を開始できるように設定されている。

 受給を遅らせれば、年金額は増額される。66歳0ヵ月から69歳11ヵ月まで、1ヵ月ごとに0.7%ずつ割り増しされる。たとえば、70歳0ヵ月からの受給を選択すれば、65歳で受給する人に比べて42%も増額となる。

 今回の大綱ではさらに繰り下げ時期を引き延ばし、70歳以降の受給開始も可能にしようというのだ。中嶋氏は次のように解説する。

「今回の大綱策定に当たっては、高齢者の雇用を促進したい政府の意図が背景にあります。このままいくと、国民の中で65歳以上の割合は現在の25%から38%まで増加するといわれています。“国民の4割が全く働かない国”が立ちゆかなくなることは目に見えています。高齢者雇用が進んできていることを踏まえれば、『フルタイムではないとしても、65歳以上でも働ける人は働いてほしい』というのが政府の本音でしょう。年金受給年齢を70歳以降も選べるようにすることで、働くきっかけになればという意向もあるのだろうと考察しています」

 ただ、現行制度では、受給の繰り下げを選択している人はごくわずかだ。

 平成28年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(厚労省)のデータを見ると、本来通り(65歳から)の受給率が88%なのに対し、繰り下げ(先送り)受給率は2.7%と少数派である。たとえ繰り下げ受給による増額制度があろうとも、「もらえるものは早くもらいたい」と考える人が圧倒的に多いのだろう。

 年金財政の行き詰まりを回避する上でも、政府は高齢者の就労促進に躍起なのだろうが、現状を見る限り、繰り下げを選ぶ人が増える可能性は低そうだ。

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