知ってる?シンデレラって策士なんだよ

ガラスの靴をわざと落としていったのだから。

夢は願っているだけでは叶わない。
運命なんてない、全ては戦略なの。
幸せは自分の手で掴み取るものよ。

お伽話には種も仕掛けもあるのです。

プロ彼女を目指し、無事慶應大学に入学した藤野沙織。憧れの“瀬戸涼”と近づくための、次なる一手は…?




芸能人に出会える街“西麻布”


芸能人のプライベート写真と共に週刊誌でよく見る“西麻布”という地名。電車も通っておらず駅もない、謎のベールに包まれた陸の孤島。

看板もない、扉もない。一見さんお断りを地でいくような閉鎖的な街だ。

認められた者にのみ扉は開かれ
一度足を踏み入れれば不思議な力で人を迷わせる…
享楽的で誘惑の多い魔都…




-何が楽しいんだろう…

渋谷の大衆居酒屋の座敷の隅で、“ウーロン茶”のロックを飲みながら、冷めた気持ちでサークルの人たちを見つめていた。

私は、ある目的を持ってこのサークルに入会した。

男女共に読者モデルが多数所属し、顔審査があると噂のキラキラサークル。先輩たちは読者モデルをする程には華やかで、OB達は皆一流企業に就職しているようだった。

しかし、サークル活動の実態は私が想像するキラキラしたものとはかけ離れていた。

ここでの公用語は“コール”というもので、中身のある会話など存在しない。彼らは怒涛のテンションで“コール”を大合唱してボルテージを高め、得体の知れない液体が並々と注がれたピッチャーにそのまま口をつけ、一気飲みをしていく。

その異様な熱気と一体感は祭りさながら。モラトリアムの最中にいることをいいことに、アルコールで思考を停止させ、単位の事も未来への不安も全て忘れて、今この瞬間をただ楽しみたいだけなのだろう。

頬を赤らめた女の子たちのスカートの中身が見えそうになる度に、私はそれとは逆に姿勢を正した。

何の生産性もないこの活動が、不毛に思えて仕方なかった。くだらない飲み会に1万円が飛ぶくらいなら、フレンチでランチをするか可愛いワンピースを買いたい。朝まで飲んで二日酔いに苦しむくらいなら、お肌のために早く寝たい。

新入生の女の子たちは、イケメンの先輩目当てでこのサークルに加入したようだが、私の目的は違う。


不毛な時間を過ごしている暇はない。沙織がサークルに入った真の目的とは?


私の目的はずばり、“ミーハー女子”の最高峰と仲良くなることだった。

“ミーハー女子”は、流行りのものに飛びつき、人気芸能人に熱中したりしやすい性質を持っている。そう、このサークルにはそんなミーハー女子がごまんと集まってくるのだ。

しかし無防備な新入生たちは、その中で光り輝くイケメンに吸い寄せられまんまと餌食になってしまう。まさに、飛んで火に入る夏の虫。

はっきり言って、キラキラサークルに所属する男子大学生に近づくのはナンセンスだ。お金もステータスもないのに“カッコイイ”だけで無双状態。彼らはありあまる性欲に加え、酒と自由と一人暮らしの部屋を手に入れ、鬼に金棒もいいところ。

私の目的は、まだまだ芋くさい男子大学生やヒヨっ子ミーハー女子ではなく、ギラギラに磨き抜かれたミーハー女子の最高峰に君臨する“4女”、お局様だ。

同級生の女の子たちがキャッキャと楽しんでいる間に、私は男には目もくれず、お局様たちに近づいた。




新入生の中で、唯一黒髪でキャピキャピしていない私は珍しかったのか、お局様に気に入られるのは簡単だった。

「同世代の男ってガキよね〜」

私と同じく冷ややかな目で“サークル活動”を見つめる彼女たちは、六本木や西麻布で外銀や経営者などの年上のハイスペック男性たちを相手に、甘い蜜を吸っているようだった。

「さ、そろそろ1次会も終わることですし、私たちは移動しましょ?」

上級生の中でも一段と華やかなリーダー格、真菜さんが目配せすると、ブランドバッグを片手にお局様たちが立ち上がった。

「ほら、沙織ちゃんも行くわよ。今日は外銀とお食事会よ」

こうして私はお局様たちが4年間かけて集めた人脈を、たった数ヶ月でショートカットして手に入れることに成功した。

港区のコミュニティに足を踏み入れる方法はたくさんある。クラブのVIPに潜入したり、夜の仕事をすれば、すぐに経営者や芸能人に出会えることだろう。

しかし、一度ついてしまったレッテルは二度と剥がせない。

せっかく手に入れた“慶應の女子大生”という肩書きを傷つけないよう、正攻法で足を踏み入れる必要があったのだ。

全員が慶應の女子大生という明鏡止水な私たちのグループは、食事会でも丁重に扱われ蝶よ華よともてはやされた。

一度港区のコミュニティに足を踏み入れてしまえば、そこからはあれよあれよと鼠算式に人脈が広がっていく。食事会の度に、わらしべ長者のようにステップアップしていくのだ。


港区わらしべ長者物語?!ベールに包まれた西麻布の謎が解き明かされる


例えば、外銀でも20代のアナリストたちは女収集係。しかし、下っ端だからといって無下に扱ってはいけない。彼らと繋がれば、あっという間にその会社の役員に出会える。

そして、そこで仲良くなるべきなのは黒光りしているお偉い様ではなく、その隣に座っている美しい女性。

美醜に厳しい外銀役員の会にいる女性たちは、選ばれし女戦士たちだ。近い将来確実にトロフィーワイフになるであろう港区女子の上澄みといえる。




その若さと華やかさと美しさを存分に活かし、西麻布を庭に20代を謳歌している。365日港区で生活している彼女たちの人脈は素晴らしく多岐にわたる。

「今日は経営者と食事会、サッカー選手と飲み会、俳優のバースデーがあるよ」
「私、港区おじさんに誘われてるから、経営者と俳優はしごして、最後に港区おじさんにタク代貰おう」

港区女子ともなれば1日に何件ものお誘いがある。お互いの手札を晒し、惜しげも無く人脈をトレードし、より良いカードを組み合わせて1日を最大限に楽しむ。港区女子同士が出会う度に、まるでアメーバのように細胞分裂を繰り返し、増殖していくのだ。

彼女たちと仲良くなれば、その圧倒的な情報網と人脈を一気に享受できるというわけだ。

彼女たちは、商社マンや外銀など世間一般ではハイスペックと持て囃されるエリートでも、サラリーマンという時点で見向きもしない。

会社の役員や社長レベルを前にしても怯むことなく、キラキラとした笑顔で魅了していく。

彼女たちはなんでも“一流”が好きで、一流企業の経営者に留まらず、プロ野球選手、Jリーガー、プロゴルファー、騎士、お相撲さん、オリンピック出場者などの一流スポーツ選手の相手もお手の物である。

そして、今を輝くアイドルグループ、イケメン俳優、歌手、芸人、大物司会者など、芸能界の一流どころももちろん抑えている。

人気絶頂の俳優である瀬戸涼との繋がりも当然あることだろう。

金と名声を手に入れた一流の男たちは、人目につかない隠れ家のような街・西麻布で、美しい女たちと夜な夜なお酒を飲んで愉しみたいのだ。

美しく華やかで、気立てもよくお酒も強い彼女たちが、西麻布では引っ張りだこになる。

そんな彼女たちを世間では“港区女子”と総称するが、港区に生きる女の種類は多岐にわたる。人気絶頂の現役アイドルや赤文字系雑誌のレギュラーモデルから、二流芸能人、そして普通よりもちょっと可愛く気の強い私のような女子大生やOLたち。

様々な女たちが一流の男めがけて、同じフィールドで活動している。

しかし、甘い蜜を吸い続けるために港区をグルグルと何周もしてしまうと、干からびた回転寿司も同然の残念な結果になってしまう。

顔が広すぎてもバツ、浮名が流れてもバツ、変な人と繋がってもバツ。レッテルがつかないうちにベルトコンベアから降りる必要があるのだ。

港区女子、港区女子を卒業し手配師として生きる港区お姉さん、港区男子、太鼓持ちを得意とするタンバリン男、謎の港区おじさん、広告代理店やテレビ局などの業界人、会員制バーのオーナー、一流芸能人、売れない俳優…

手札は揃った。あとはどのカードをどのタイミングでどうやって使うかだ。

瀬戸涼に出会うべく、私はこの中からある一枚のカードを引いて、港区を引退することにした。

策士たるもの、出会う場所も出会うタイミングもシナリオがあるのだ。

-さて、そろそろ“瀬戸涼”と出会うことにします。

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