人口減少があったとしても、今後、市場が伸びていくようなビジネスとしてコインランドリーに目をつけた、WASHハウスの児玉康孝代表取締役社長にお話を伺う(写真:Signifiant Style)

国内では人口減少という逆風が吹く中、コインランドリーのイメージを刷新し、利用率を高めることでパイを拡大する戦略を掲げる、WASHハウス株式会社。国内での新規出店だけではなく、フランチャイズ事業のビジネスモデルを刷新することで、海外へ打って出る事業構想について、児玉康孝代表取締役社長にお話を伺います。


当記事はシニフィアンスタイル(Signifiant Style)の提供記事です

2001年創業のWASHハウスは、アレルギー疾患の増加する現代において、九州を起点にして全国で精力的にコインランドリーを出店。初期投資額が大きい装置産業において、不動産業の特徴を取り入れた革新的なフランチャイズ事業のビジネスモデルを掲げている。2016年に東京証券取引所マザーズ市場及び福岡証券取引所Q-Board市場に新規上場。証券コードは6537。

コインランドリーには大きな伸びしろがある

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):まず、御社のビジネスの概要を伺いたいです。沿革を拝見すると、不動産仲介業として起業されていますね。コインランドリー事業に至った経緯を、お聞かせ頂けますでしょうか。

児玉康孝(WASHハウス社長。以下、児玉):確かに気になるところかもしれませんね。最初からお話しいたします。まず、私は大学を出た後、証券会社に入りました。証券会社時代は「投資」というものを勉強することができました。その後、大手ファストフードの会社に入社し「フランチャイズビジネス」や「マーケティング」というものを勉強することができました。その時、資本主義社会の根幹は株と不動産であると考えるようになり、不動産を勉強したいと思うようになりました。そして30歳で地元の宮崎へと戻り、不動産業に携わりました。

その会社は社員100人程度の会社ですが、2年で私は取締役になりました。経営に携わるようになってぶつかったのが、人口減少というテーマです。厚生労働省の資料では、日本の適正人口を6000万人としている資料もありますが、もし人口が半分になったとしたら、現行の多くのビジネスは継続できなくなります。不動産業はもちろん、飲食、小売なども同様です。

当時、取締役を務めながら、いずれは自分で起業したいと考えてはいたのですが、この、人口減少の影響を強く受けるビジネスには限界があると感じました。

児玉:そこで、まずは仲介業で起業すると同時に、人口減少があったとしても、今後、市場が伸びていくようなビジネスを探していました。

小林:なるほど。ある意味、見切り発車のような形で不動産仲介業で起業し、後から将来性のある事業を探したわけですね。


児玉 康孝(こだま やすたか)/WASHハウス株式会社代表取締役社長。1965年生まれ。宮崎県宮崎市出身。大学卒業後、東京の証券会社に入社。大手ファーストフード店を経て、30歳で宮崎に帰郷する。地元の不動産会社に勤務したのち、2001年に株式会社ケーディーエムを設立。2005年に社名をWASHハウスに変更。以降、現職(写真:Signifiant Style)

児玉:そのとおりです。11月28日に会社を作り、翌年の5月までは不動産業一本でした。5月に、取引先のお客様からコインランドリーをやってみたいと言われたことをきっかけに、詳しく調べてみた結果、この業種の面白さに気づいたのです。

どこに面白さを感じたかというと、現在の市場規模でもコインランドリー業界は成立はしているが、人口に対して、コインランドリーを利用していない人の比率が高いというところです。具体的には、コインランドリーの利用率というのは当時3%しかなかったんです。ですので、利用率を伸ばすことができれば、人口減少が進んだとしても十分な伸びしろがあると考えました。

小林:人口が半分になったとしても、利用率を2倍以上にすれば、市場は縮小しない、という発想ですね。利用率が伸ばせると考えられた理由は何だったのでしょうか。

今までのコインランドリーはサービスが不十分だった

児玉:今までのコインランドリーの利用率が低い理由は、サービスが不十分だからです。当時のコインランドリーと言えば、暗くて汚くて怖いお店ばかりでした。写真を見てみましょうか。


「暗くて汚くて怖いお店ばかり」だった当時のコインランドリー(写真:Signifiant Style)

小林:なるほど。確かに清潔感に欠けますね。

児玉:ここで洗濯しても、衣服や布団が綺麗になるとは思えませんよね。不審者がいるという警告の張り紙も見かけました。そんな場所で女性が洗濯したいとは思わないわけです。一方で、こちらがうちのお店です。ご覧下さい。コンセプトは、明るく、誰でも使えるようなお店です。


コンセプトは、明るく、誰でも使えるようなお店(写真:Signifiant Style)

小林:確かに、当時のコインランドリーと比較すると、整然としていて清潔感や安心感があるように見えますね。

児玉:ありがとうございます。それに、当時のコインランドリーは、顧客サービスも不十分でした。お店には投書箱が置いてあって、トラブルがあったらここに入れて下さい、と書いてあるのですが、たとえば洗濯機が動かない時には、投書箱に入れてもすぐに対応がなされることはないわけです。電話番号が載っていることもありますが、繋がらないケースも多くあります。

どうしてこのように顧客サービスが不十分なのかというと、全国どこを見ても、大手法人が運営しているコインランドリーがほとんどなかったからなんです。

小林:なるほど。つまり、質の良い顧客サービスを提供できるプレイヤーがいなかったということですね。そこに御社が入り、コインランドリー店の質を良くしていけば、利用率を高めていくことが出来るという見通しを持たれたわけですね。結果、不動産業から洗濯業へと転換されたと。

事業モデルは洗濯屋ではなくサービス業

児玉:はい。ただ、我々は洗濯業を始めたつもりはありません。クリーニング業と違い、洗濯というサービスを提供する事業者ではないからです。我々は、場所を提供し、機器の設置をサポートし、何か問題があった時に対応する、ある種のサービス業です。しかし、サービス業といっても、常にお店に人がいる状態には出来ないというのがポイントです。ですので、まず、遠隔で店舗を管理できる出来るシステムを作るところから始めました。


全店に設置されたタッチパネル(写真:Signifiant Style)

始めた当初は、FAX通信の仕組みを使って洗濯機や乾燥機の電源オンオフやリセットをしていました。そのうち、洗濯機に指令を送って脱水だけをやり直させるというような細かいことも出来るようになりました。今では、それ以外にもいくつもシステムがあるのですが、特徴的なものは全店に設置されたタッチパネルです。

イタリアの植木鉢をモチーフにデザインしたもので、来店されたお客様向けのサービスを提供する端末です。そして実は、従業員向けの管理端末としても機能するんです。

児玉:我々は、すべての店舗で、近所に住んでいる主婦をはじめとしたパートスタッフを2人程度採用し、5時〜22時のうち、好きな時間を選んで、1時間だけ店舗で勤務してもらうというオペレーションを敷いています。この勤務形態を実現しようとすると、労務管理と業務報告が問題になるわけですが、この来店客向けのタッチパネルを従業員向けにも使えるようにすることでその問題をクリアしました。スタッフはお店に行き、タイムカードを押す代わりにこの端末にログインすればいいわけです。他にも、従業員への情報伝達ツールとしても機能しており、たとえば翌日からセールを出す店舗では、セール用のポップを出すという指示がタッチパネル上に表示されるといった使い方をしています。

小林:この管理システムは自社で開発されたのですか?

児玉:いえ、自社開発ではなく地元の開発会社に依頼しました。無人の店舗ながらも、有人の店舗と同様のサービスレベルで対応するという発想の下、こういったシステムを開発しています。

合わせて、本社にはインハウスでコールセンターも抱えています。365日24時間、店舗でトラブルがあれば遠隔で即時に対応できる体制を取っているのです。


本社にはインハウスでコールセンターも抱えている(写真:Signifiant Style)

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉:コールセンター業務はアウトソーシングの対象となりやすい業務ですが、御社の場合はサービスのコアとなる機能として重視されているということでしょうか?

児玉:その通りです。我々は、遠隔操作が可能なシステム・オペレーションとリアルな店舗を結び付けることで、顧客によりよいサービスを提供する会社だと自負しています。したがって、コールセンター業務はエンドユーザーへのサービスレベルを決めるコアとなる業務だととらえています。

家族経営ビジネスを仕組み化で変革

朝倉:御社がコインランドリー事業に目をつけられ、このビジネスに伸びしろを見出した着想についてはよく理解できました。他に、このビジネスに参入する際に検討された観点はどんなものがあったのでしょうか。

児玉:大きくは先行事業者がいないかということと、少子高齢化に対応できるかということを考えていましたね。

先行事業者がいるかどうかという観点については、地元の不動産会社に務めていた時の出来事が原体験になっています。当時、その不動産会社で別会社を作らせてもらい、賃貸手数料の無料を軸にした会社を立ち上げたことがあります。全国で初めてのケースで、日経新聞にも取り上げてもらいました。しかし、同業他社からものすごく批判されました。先行事業者の反発にあってしまったわけですね。結局、私が狙ったスタイルは、実現出来ませんでした。先行事業者がいる世界は何かと業界的な制約が多く、自由にビジネスが展開しにくいということを痛感したのです。

児玉:その点、コインランドリー事業は、世界で約20万店舗、約3兆円の市場規模(WASHハウス推定)でありながら、日本には上場しているコインランドリー事業者が1社もない状況でした。誰もこのマーケットの大きさに気付いていなかったのです。

また、私はかつて証券業界で営業として働いており、毎月売上がゼロにリセットされる世界にいました。そうした経験もあり、何とかストック型のビジネスにしたいという思いがありました。事業の核があり、ネットワーク化していくことで、付帯収益を生み出し、ある時一気に事業を拡大できる仕掛けです。加えて、最低でも1兆円以上の市場があるものをやりたいと思っていました。上場を目指すにはそのくらいの規模感が必要だからです。

その結果が、コインランドリー事業です。世界中を調べた時、コインランドリーは約20万店舗もありました。約3兆円の市場です(WASHハウス推定)。日本では、誰も気づいていなかったわけです。コインランドリー業界には上場企業が1社もありませんからね。

朝倉:言われてみると確かに、コインランドリー大手、という会社は世の中にありませんね。

児玉:可能性を強く感じました。たとえばアメリカには、7000億くらいの市場があります。日本の5〜7倍くらいの規模ですね。ニューヨークには、1店舗に洗濯機・乾燥機が120台もある大規模なコインランドリー店もあるのです。日本には、そんな店舗を展開しているプレイヤーは、誰もいませんよね。

そもそも洗濯という業態は、社会的地位が低いと見られがちな傾向にあります。歴史的には、多くの国で、移民が、資本がない中、手作業で洗濯をして日銭を稼ぐところから発生した職業です。その中からある程度資本を蓄えた事業主が登場し、洗濯機を置いて貸しだすようになったのがコインランドリーの始まりです。

これが世界中に広まって、日本に入ってきたのは1970年代です。

朝倉:少し驚きましたが、70年代まで日本にはなかったんですね。

児玉:実はありませんでした。今でも監督官庁がないため、コインランドリーが全国に何店舗あるのか正確な数字は誰にもわからない状態です。

小林: 業界団体のようなものはないわけですね

児玉:洗濯機を売るメーカーやその販売業者の団体はありますが、コインランドリーについてはありません。

コインランドリーはこういった環境の中で増加していきました。つまり、遊休地、たとえばビルの1Fのテナントが空いていたりした場合に、洗濯機の販売業者がビルのオーナーに洗濯機を売り込みに行くといった発想で広がっていったんです。

ビルの経営は家族経営であることが多いため、結果としてコインランドリーも家族経営的な店舗が多く存在しています。こういった背景があるため、法人が運営して、大規模にチェーンを展開するという現象に発展しづらいわけです。だから先行事業者が存在しないままになっていた。ここに目をつけました。

大規模な全国チェーンがないので、たとえば、テレビコマーシャルもなかったわけです。

人口が減少してもコインランドリーは伸びる

朝倉:なるほど。業界が成立するプロセスで大手プレイヤーが生まれにくい環境にあったわけですね。少子高齢化に対応できるかという観点についても教えていただけますか?

児玉:少子高齢化に関して言うと、ポイントになるのはアレルギーの増加の問題です。現代では、3人に2人がアレルギーを持って生まれてくるというデータもあるくらいで、小学生のアレルギー疾患者も増加しています。子供は減りますが、アレルギーを持って生まれてくる子供は増えている。洗濯ニーズが増える萌芽がここに見て取れます。特に、布団などの大物洗濯ですね。

児玉:購入して一カ月しか経過していない布団でも約30万匹のダニが発生すると言われています。これを、綺麗にするためには、クリーニングに出すか、コインランドリーで洗うのが一番なのだそうです。クリーニングに出すと1枚3000円ちかくかかるところを、コインランドリーなら1000円で3枚洗えます。

小林:そうなんですか。それを伺うと、さっそく家の布団をコインランドリーで洗いたくなりますね(笑)。

布団専用掃除機のブームからもわかる需要

児玉:ですよね(笑)布団専用掃除機がブームになったことからもわかるように、アレルギーに悩む人が増えるなか、日本中が布団の洗濯を求めているのは明らかです。でも、近所にコインランドリーがないから、洗えない。これが我々のビジネスチャンスです。

朝倉:コインランドリーは、単身者や学生、自宅に洗濯機のない人が利用するサービスという印象があるのですが、これからはファミリーや中間層以上も使うようになっていくということでしょうか?


九州では「布団をコインランドリーで洗う」という文化が根付きつつある(写真:Signifiant Style)

児玉:既にそうなっています。今でも中間層以上が使っています。ただ、東京ではまだそうなっていなですね。九州での利用率は40%強に達していますが、東京では、8〜10%しかないからです。どうしてこれほど差が出るのかというと、九州では布団をコインランドリーで洗うという文化が根付きつつあるからです。東京もいずれそうなるはずです。

我々は九州から事業を始めましたが、東京の人たちも洗えたら洗いたいわけですよ。でも、家の近所にコインランドリーがありません。なので、コインランドリーを増やせばいいのですが、駐車場があるお店は都心には作りづらいです。そこで、新宿に30坪の駐車場がないお店を出しました。実はかなりの売上があがっています。都心では、これを参考に郊外型の店舗とは異なる都市型出店の戦略を考えています。

小林:うちは猫を飼っているので、近くにあったら間違いなく使います(笑)。洗濯機の性能は、家庭用のものとどの程度異なるのでしょうか。

児玉:布団を洗おうと思った場合、価格にすると200〜300万円、重さにすると1トンもの洗濯機が必要になります。なので、家庭で使うことはまずありえません。いずれにせよ、今後、日本の人口は減少しますが、アレルギー対策の市場は拡大すると確信しています。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):非常に面白いですね。普通、人口減少を見据えてビジネスモデルを考えた場合には、増加する高齢者や、観光客といった新しいマーケットにフォーカスすることが多いように思います。御社の場合、既存マーケットでありながら利用率が向上して成長することを目指していらっしゃるわけですね。

児玉:そうですね。さらに、コインランドリー事業は、ビジネスモデルとしても優れています。飲食業の経営のような仕入れもほとんどなく、人件費もかからず、ロスも出ない。場所さえ確保できてしまえば使った分だけ公共料金を払えばいいというモデルなんです。だからこそ、これまで利用率が低くてもビジネスとして成立してきてしまったわけですね。

私の分析上では、機器等の償却さえ終わっていれば、1日あたり3人のお客様が来店してくれれば、収支が合うと考えています。使う人が増えれば、当然コストは増えますが、価格設定を間違えなければ、決してお店は潰れません。


(資料:WASHハウス「成長可能性に関する説明資料」より)

村上:海外で移民の方が目をつける理由も分かりますね(笑)

拡大を支える「絶対に失敗しない」フランチャイズモデル

児玉:ただ、事業化する上では、問題もありました。それは、1店舗あたりの売上が小さいため、多店舗展開していく必要があることです。

我々が事業を始めた15〜16年前も現在も、1店舗あたりの月商が30万円、いいお店で50万円という規模感でした。そこで1店舗100万円のお店を作ろうということで事業を始めたのです。

一方で、コインランドリーは装置産業なので、多店舗展開が極めて難しい。どんな大資本でも、世界中にコインランドリーは作れません。なぜかというと投資額の6割が機器の購入に費やされるからです。1店舗あたり3000万円として、100店舗展開すると、30億円かかります。30億円のうち、18億円を機械に使っているわけです。

そして、来年はさらに150店舗を出すとなるとさらに45億円かかるため、赤字が拡大していくだけです。こういった理由で、直営店を一気に増やしていくことは出来ません。

小林:機械の償却期間の間は、PL上では酷い状態に見えてしまうわけですね。

児玉:その通りです。一度、福岡に直営店を30店舗持たざるを得なくなったときがありました。すると、財務バランスは一気に悪化しました。

小林:実際にはキャッシュフローは回っているわけですが、数値上は悪く見えてしまうわけですね。

児玉:はい。だから、フランチャイズ化が必要でした。ところが、フランチャイズ事業というのは、たくさんの問題点を抱えています。その一つが、本部と加盟店の対立です。何か問題が生じた際に、本部は加盟店のせいにして、加盟店は本部のせいにしがちです。同じ事業をやっているにも関わらず、対立関係になってしまうわけです。

こういった問題が発生しないビジネスモデルを作る必要がありました。我々の隠れた強みなのですが、16年間で売上不振によるフランチャイズの解約がゼロ件なんですよ。もちろん、オーナー訴訟もゼロ件です。


(資料:WASHハウス 平成29年12月期 決算説明補足資料より)

朝倉:ゼロ件というのはすごいですね。どういったアプローチをされているのですか?

児玉:フランチャイズのオーナーさんが「何もしなくても回る」仕組みを作りました。これは不動産屋の発想です。

不動産のオーナー業は、たとえば1億円のビルを買って、1000万円の家賃収入を得ます。ただ、オーナー業といっても投資しかしません。不動産屋が人の募集、案内、契約、家賃の案内、メンテナンス、入居者の対応、リフォームといった一連の工程を担うわけです。

この構図をコインランドリーに置き換えました。オーナーさんは何もする必要がありません。うちのFCオーナーさんは店舗の鍵さえ持っていないんですよ(笑)オンライン上で売上を見ればよいだけなのです。

小林:ということは、オーナーの感覚的には、運用不動産を購入した感覚に近いわけですね。

児玉:その通りです。

朝倉:不動産投資の仕組みを、コインランドリーの業界に持ち込むことで、御社にとっては初期投資を大幅に下げ、投資する側にとっては割のいい案件になるわけですね。

児玉:投資の世界の発想と、ファストフードのフランチャイズと、不動産の仕組みをうまくミックスしたわけです。

朝倉:まったく新しい試みといえるかもしれませんね。

児玉:同じ装置産業としてよくコインパーキングと比較されることも多いです。しかし、コインパーキング業界は、飽和したらそれ以上成長させられません。コインランドリーも、何も考えずにやっていたら、いつかは飽和することが目に見えています。なので、それを打ち破る仕組みも最初から織り込んで事業に取り組んでいます。

コインランドリーがコインランドリーを超える日

朝倉:これまで、コインランドリー市場の白地戦略や、売上拡大のためのフランチャイズ戦略について伺ってきました。続けてお聞きしたいのですが、顧客のコインランドリー利用率を上げるために、どういった試みをされましたか?

児玉:九州でも3%の利用率しかなかったコインランドリーですが、現在では広告代理店調べで宮崎県が46%、福岡県では42%まで伸ばしました。どうやって伸ばしたのかというと、広告です。

直営ビジネスであれば、広告費は会社の年商の3%程度に抑えるのが相場かと思います。ですが、我々は、フランチャイズ契約に広告費を織り込むことで、当社の年商の10%以上使える仕組みにしました。

児玉:これによって、1店舗目を出すときから広告を打つことができるようになりました。たとえば10店舗、オーナーが10人いる状態でゼロから広告を始めようとした場合、反対するオーナーが出る可能性があります。100店舗あればなおさらです。1人がやりたくないと言った瞬間に、全店舗で統一した戦略がとれなくなってしまいます。


(資料:WASHハウス 平成29年12月期 決算説明補足資料より。広告分担金が収支モデルの支出に含まれている点に注目)

村上:反対が出ることを織り込んで、最初から契約に盛り込んでおくわけですね。多店舗展開で売上のグロスを増やしながら、最初から攻めの広告戦略で顧客の利用率をあげていく。非常に優れた立ち上がりですね。

一方で、この先の展望についてお聞きします。店舗が増え続けた先には、飽和して伸びが止まる危険性もあるのではないでしょうか。

価格競争に勝つために、価格をゼロにすることを想定

児玉:はい。いつか価格競争になることはわかりきっていました。想定した市場規模では、日本国内に20万店まで増えますが、そこまで行くと価格競争になります。その時、確実に競争に勝つために、価格をゼロにすることを想定しています。かつて携帯電話会社が携帯電話本体代金を実質無料で購入することができるような戦略ですね。

村上:価格をゼロにする場合にはどこで売上を取ることになるのでしょうか?

児玉:このあたりはあまり公にはしたくないのですが、価格をゼロにした際に重要になってくるのはタッチパネルです。「井戸端会議」という言葉があるように、洗濯の場は、昔から情報交換の場でした。店舗にあるタッチパネルが、地元の顧客にローカルな情報を発信できる媒体にするのです。

たとえば今日はシラスが安いとか、イワシが高いとか、その地域でしか活きない情報がありますが、こういった情報はコアすぎるので、当然ながら広域では意味のない情報です。ただ、これをうまく収集し、タッチパネルを活用して発信していくことが出来ると、我々は、日本で最大の情報網を持つことになります。

その結果我々は、広告媒体業としても存在感を示すことが出来ます たとえ店舗数が飽和していたとしても、広告料が取れるようになったとしたら、洗濯料金をゼロにしても成立します。

村上:まさにコンビニの戦略ですね。最終的には洗濯だけではなく、広告をはじめとして色々なものを売ることができるわけですね。地域に適したビジネス展開もしやすい、と。

児玉:2万店舗以上にするという目標は、上場の時から掲げています。そして、飽和した際にも売上が伸ばせるような仕掛けをいくつも仕込んでいます。

たとえば、現在は洗剤工場を立ち上げることを計画しています。宮崎県のバックアップもあり、順調に進んでいます。今は他社から洗剤を購入している状態ですが、自社で作るとなると、新たな売上が生まれます。あとは建物をユニット化することですね。これによって建物が移動できるようになるため、投資リスクを軽減させることが出来ます。

村上:もしうまくいかなかった時は、店舗ごと移動させられるわけですね。何割くらい使い回しできるのでしょうか? 建屋自体は無理にしても……。

児玉:いやいや、建屋自体も全部です。コンテナの大きい版ですね。

村上:ということは、ほぼ100%ですか。それは凄いですね。

児玉:ここにも1つ仕掛けがあります。去年は109店舗を作っていますが、建設は自社で行っていないため、売上はなく、利益も取っていません。しかし、これを自社で出来るようにした瞬間に、新しい売上が生まれます。

ガスも同様です。今は業者に委託していますが、どこかのタイミングで、自社で扱うようになると、ここでも利益が生まれます。こういう仕掛けを最初からいくつも仕組んでいます。

村上:店舗数が飽和することを見込んで先回りしているわけですね。

コインランドリーから新しいファイナンス事業へ

児玉:その他の事業展開として、ファイナンス会社の設立が挙げられます。これも創業時からの目的の一つです。今世の中でうまくいっているビジネスモデルの大多数は、ファイナンスを組み込んでいると考えています。我々は、FCオーナー向けにまだ存在していない新しいファイナンスのモデルを作ろうと思っています。

村上:なるほど。起こりうる問題に対して常に先手で解決策を持たれているわけですね。フランチャイズと不動産を知り尽くしていらっしゃるからこそですね。

小林:とすると、オーナーは手を挙げさえすればいいわけですね。

児玉:そうです。その結果、これまで16年間、1店舗も売上不振でお店を閉めていないわけです。この結果は、真の意味での地方創生だと考えています。真の意味で地方創生を実現するためには、地方に雇用を生み出す必要があります。豊田市が好例ですが、工場を作り、周囲に「村」が出来ていって、そこで子供を育てることが出来ます。


(資料:WASHハウス 平成28年12月期 決算短信補足資料、 平成29年12月期 決算説明補足資料より。2016年の退店はゼロ、2017年の退店は契約期間満了による1店のみ)

児玉:地元で生産活動を行い、雇用を創出することで、地元の経済圏を成立させないと、地方創生は成り立ちません。日本のいちばんの問題は、工場などの生産する力を、海外にアウトソースしてしまったことです。

小林:御社が地元の宮崎に本部を置いたり、洗剤工場を造ったりされている活動も、すべてそこに繋がっているわけですね。 1つ疑問なのですが、御社の本部側が、店舗を遠隔で管理していて、何かあったら駆けつけなければならないわけですよね。そうすると、一定の密度を持たせたドミナント戦略でいったほうがいいのかなという気がします。その点についてはいかがでしょうか?

児玉:はい、その通りです。ただ、一点だけ他社と違うのは、マーケティング戦略を非常に重視していることです。我々は、放送網の単位で地域展開をしています。たとえば福岡でテレビCMを流せば、山口や長崎にも放送されます。その単位での出店計画を組んでいるのです。

コインランドリー事業を世界へ

村上:最後に、海外展開の展望についてお聞かせください。

児玉:国内で築いたビジネスモデルが、海外にもそのまま横展開できると考えています。遠隔操作システムがクラウド型なので、たとえばタイにいくのであれば、タイ語をインストールするだけで展開可能です。海外展開でネックになるのは、実はビジネスモデルではなく、通貨なんです。しかしその問題も解決の見通しが立っています。国内でも携帯電話決済を導入しようとしておりますが、中国では日本以上に電子決済が定着しています。携帯電話決済が出来るようになれば、通貨すらも問題となりません。

村上:なるほど。携帯決済が可能になれば、日本国内と同様に海外進出できるわけですね。フランチャイズモデルも海外で横展開ができるのですか?

児玉:はい、そちらも準備は終わっています。海外展開時も国内同様、日本にいる我々がオーナーの資金調達を支援することで、日本と同じようにオーナー獲得・経営支援が可能だと考えています。

村上:なるほど。そこまで織り込み済みなわけですね。国内・海外ともに力強い成長が見込めそうですね。本日は、お話ありがとうござました。

(ライター:中村慎太郎)