資生堂やコーセーといった化粧品メーカーが順調に業績を伸ばす中、苦戦が続く花王。足を引っ張るのが子会社のカネボウ化粧品だ(撮影:梅谷秀司)

「化粧品業界が活況の中、残念ながらわれわれは波に乗れていない」。花王傘下であるカネボウ化粧品の新社長、村上由泰氏は重々しく口にした。

5月18日、花王は化粧品成長戦略説明会を開催した。登壇したのは今年1月にカネボウ化粧品の社長に就任した村上氏。花王全体の化粧品事業の統括も兼任している。村上氏が大々的にマスコミの前に出て話すのは今回が初めてとなる。

苦戦の元凶であるカネボウ

2012年から約6年にわたり社長を務めた夏坂真澄氏からバトンを受け、社長の座に就いた村上氏。1986年に花王に入社以来、スキンケア事業に長く携わってきた。マレーシアと中国で駐在経験があり、アジア市場にも精通している。


カネボウの新社長に就任した村上由泰氏。スキンケア事業に長く携わり、海外経験も豊富だ(撮影:今井康一)

新たな船出となった花王の化粧品事業だが、新社長には重圧がずしりとのしかかる。資生堂やコーセー、ポーラといった同業他社がインバウンドを取り込み、高価格帯のスキンケアや美容液で伸び続ける中、花王は“一人負け”の状況が続いている。2018年度の第1四半期の実績を見ても、花王の国内化粧品の売上高は468億円と対前同期比で1.7%減だった。

日用品王者の花王が化粧品で苦戦を強いられている理由は、売り上げの過半を占めるカネボウ化粧品にある。花王はもともと自社化粧品「ソフィーナ」を持つが、首位の資生堂を追い抜くため、2006年に粉飾決算で窮地にあった業界2位のカネボウ化粧品の買収に踏み切った。

だが買収後には大きなシナジーを生み出せず、2013年の、カネボウの美白化粧品を使用した消費者の皮膚がまだらに白くなる「白斑事件」以降、現在に至るまで大きな持ち直しを図れていない。

選抜ブランドと価格別戦略で巻き返す

国内市場で苦戦が続く理由を「ブランドの育成をおろそかにしてきた」ことと語る村上氏。現在花王ではカネボウ化粧品と合わせると49のブランドがあるが、それぞれの役割がハッキリしなかったという。そこで49から11のブランドを選抜しマーケティング費用を集中投下。世界で戦えるブランドに育成することを宣言した。


欧州や中東を中心に販売する高級化粧品の「SENSAI」(右)。今後、日本や中国での販売を予定している(撮影:今井康一)

中でも強化を図ろうとしているのが「SENSAI(センサイ)」だ。SENSAIは欧州や中東を中心に、百貨店や高級化粧品店で販売している。スキンケア製品がメインで、日本古来の最高級シルク「小石丸シルク」を配合した日本らしさを前面に打ち出したブランドだ。

手入れ方法もSaho(作法)と名付け、丁寧に説明している。今後は2019年に日本市場に導入し、2020年には中国市場への投入を目指すという。またカネボウの子会社のエキップからも2020年に新ブランドを発売予定。競合他社に後れを取っていた高価格帯ブランドの拡充を図る。

さらに11の最重要ブランドに加え、これらに次ぐ「LUNASOL(ルナソル)」や「Primavista(プリマヴィスタ)」など主力の8ブランドも、日本やアジアを中心に強化していく構えだ。

マーケティング投資のみでなく、販売方法でも価格帯によりメリハリをつける。従来中価格帯は、美容部員などが対面で販売する「カウンセリング」と、が顧客自身が選んで買う「セルフ」の両パターンを取っていたが、今後中価格帯はセルフのみで販売する。伸び悩む中価格帯のコストを抑制し、高価格帯と低価格帯に経営資源を集中していく。

カネボウ化粧品の行く末

今回の説明会で村上氏がたびたび強調していたのは、「カネボウ花王の融合」だ。それを唱える大きな要因は花王カネボウの水と油ともいえる差にある。カネボウはエッジの利いた「感性」を特長としていたが、マーケティング分析などデータに強みを持つ花王とは、企業文化もブランド戦略も異なりうまくシナジーが図れずにいる。


カネボウ化粧品社長の村上由泰氏は会見中に「カネボウ花王の融合」という言葉を何度も強調していた(撮影:今井康一)

村上氏は、「花王の強みである技術と、カネボウが得意とする感性をうまく融合させることで、個性のあるブランドを作り上げていきたい」と意気込みを口にする。現在花王カネボウは研究開発体制と販社を統合しているが、今後はカネボウ花王との間で人的交流を行う構えだ。

カネボウとの融合をより進めていくことで、巻き返しを図ろうとする花王の化粧品事業。2020年度には売上高3000億円、営業利益率10%という目標も掲げた。だが昨年度の営業利益率が4.7%であったことを考えると、かなり強気な数値ともいえる。

2018年度の第1四半期を見ても、国内化粧品の売上高はいまだ減収で道のりはまだまだ険しい。直近1年は成長が期待できるアジアに投資の比重を置く方針で、国内市場での回復はまだまだ先になりそうだ。