ぺ・ヒギョンがツアー初勝利、覚醒なるか!(撮影:米山聡明)

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国内女子ツアー「中京テレビ・ブリヂストンレディス」最終日は、ぺ・ヒギョン(韓国)が「65」を叩き出し、逆転でツアー初優勝。日本ツアー参戦4年目。いつ勝ってもおかしくない選手と言われてきたが、ようやく1勝目を手に入れた。ヒギョンの強さと勝利の要因をツアープロコーチの辻村明志氏に聞いた。
「中京テレビ・ブリヂストンレディス」熱戦を振り返る〜大会3日間LIVEPHOTO
■ バランスの良いスイングをする選手が多い韓国勢のなかで「100%フルスイング」は珍しい
初日は蒸し暑い気候、2日目は強い風が選手たちを苦しめたが、最終日は気温も風も比較的弱まり、伸ばしあいの展開に。春先の固く締まったグリーンから、徐々にコンパクション(グリーンやフェアウェイの硬さを示す尺度)の数字が落ちてくる5月末は、バーディ合戦が増えていく時期で…
「5〜6打差でも十分にチャンスはあった。勝利に手が届く位置にいた選手たちは、”トータル12アンダー”を優勝ラインを設定していましたが、ヒギョンさんはトータル13アンダーと”想定”よりも1つ抜け出したので、誰もが納得の勝利だと思います」
最終日の優勝争いは、アン・ソンジュ(韓国)が前半から猛チャージをかけ、テレサ・ルー(台湾)、上田桃子、そして地元愛知の穴井詩ら役者が揃った。これまでのヒギョンなら押し切られる形で崩れるパターンになっていたかも知れないが、パッティングの成長と、雰囲気作りが上手い先輩とのペアリングが勝利の要因だと、辻村氏は分析。
「韓国勢はバランスの良いスイングをするタイプが多く、”中距離ヒッターであり、安定性も備える”という印象。8割程度で振る選手が多いなか、ヒギョンさんの強みは”ディスタンス力”。100%の”フルスイングタイプ”で、上半身の回転速度はツアーNO.1。一見すると大味なプレーヤーに見えますが、パッティングが年々上手くなっている。2015年は平均パット(パーオンホール)30位、2016年・20位、2017年・16位、そして今季は現在までで2位。今大会のようにグリーンが止まりやすくなる時期は、ショットでねじ伏せることができる。そして、決めるべきときに決められるパット力が高まったことが、優勝を呼び込みました」
本来は、年間1勝では足りない選手と誰もが認めるところ。だがスイングの豪快さに比べ、優勝争いの最中では内気さが垣間見れる場面も多かった。メンタル面では、先輩のアン・ソンジュと同組だったことが大きかったという。
「アンさんは”ラウンド中に話しながらプレーするタイプ”。選手はコースのなかを5〜6時間歩きますが、ショットに集中する時間は合計しても10分くらい。アンさんは、ショット間の移動は笑顔でいても、いざ打つとなるとグッと集中力を高めるタイプで、調子がいいときほど会話をしています。今回は後輩のヒギョンさんですから、なおさらですね。アンさんは熾烈な優勝争いのなかでも、同伴者が良いショットを打てば、『ナイス!いまの良かったね〜』と声をかけるなど、相手を称える。アンさん自身も良いラウンドになったと思いますが、ヒギョンさんのほうがリラックス効果は大きかったのではないでしょうか」
ヒギョンは「楽しいことしか覚えていない」と試合後に語ったが、”巡りあわせ”も勝利の要因だ。
■小祝さくらの一番の持ち味は「小さな努力を積み重ねていけること」
今大会3日間で大会を引っ張ったのは、小祝さくら。2打差・2位と惜しくもルーキーイヤーでの初優勝は逃したものの、初日から2日目まで単独首位を守る活躍を見せた。
今季のスタッツを見ると、ショット力を示す数値では、並み居るプロが揃うなかで上位に位置するが、アマチュア時代から指導する辻村氏は「小さな努力を積み重ねていけること」が彼女の強みだと語る。
「”これを続けなさい”と伝えたことはやりとおす。2016年末、まだ高校3年生の彼女と今後の方針について話したときに、”この体で、こんな軽い球を打っていたらプロになれないよ。とにかく振ること、そして走ること。いまのあなたのヘッドスピードでは、いくら真っすぐ飛んでもプロでは通用しないよ”と伝えました。以後、彼女は自分の意思で欠かすことなく、振りこみとランニングを続けています。
プロテスト合格当日に電話報告を受けた際に、夜に走るか?走らないか?については、私からは”あえて”何も言いませんでした。目標が叶い、気が抜けてもおかしくない場面でしたが、彼女からは『(当日の夜も)走りました』と報告を受けました。プロテスト中も毎日走っていましたし、実家の北海道では吹雪のなか、ゴーグルをして長靴を履いて走っていた。今季の序盤は予選落ちが続きました。悔しさを持ってもらうために「予選落ちなら、走る距離は倍」というルールを設定しましたが、本人が一番悔しさを感じて、高知(PRGR)や宮崎(アクサレディス)の浜辺で日曜日に走っていました」
努力の成果もあり、ドライバーのヘッドスピードは2016年末には39m/s台だったが、今季「サロンパスカップ」では43m/s台にまで上昇している。ショット力の成長に加えて、プロとしての姿勢や技術は、姉弟子の上田桃子、比嘉真美子、藤崎莉歩から学び、刺激を受ける。
「初めて合宿にいった頃に伝えたのは、”桃子の後ろの打席で球を打って、打音を聴きなさい”。練習打席でも、バンカーショットでも。スイングの型を教えるのは私の役目ですが、自分でも”盗もう”という意識は持ちなさい、と。試合中でも同じ。『ほけんの窓口レディース』では、アン・ソンジュさんと同組だったので、”アンさんの集中力の高め方を学びなさい”とテーマを決めました。今大会最終日の試合前、彼女は”テレサさんのいいところを1つでも盗めるように見てきます”と口に出して、試合に向かいました。これからまだまだ成長していくと思いますし、ハングリーさと芯の強さはプロ向きですね」
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、アジアツアーフル参戦経験を持つ。コーチ転身後は帯同コーチとして上田桃子、比嘉真美子、藤崎莉歩、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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