地球上に男と女がいる限り、事件は起きる。

それはLINE上やデートのときだけでなく、男女の出会いの場である“お食事会”でも多発しているのだ。

五十嵐ルナ、35歳。

彼女は数々の食事会をセッティングし、男女の縁をつなぎ、夜の社交界での人脈形成も怠らない。

食事会の“手配師”として名を馳せている人物だ。

これまでに、 自分より可愛くない子を連れていく計算高い女や1軒目で早々に帰っていく女たち、結婚指輪を外して食事会に参加する既婚者の男と遭遇した。

そんな彼女が、今週目撃した食事会での事件とは・・・?




「ルナさん、今日のお相手って“あの”武田さんですか?」

店前で待ち合わせをしていた麻衣が、嬉しそうにルナの元に駆け寄ってきた。

今日の食事会は麻衣と桜子。そして相手は投資家として成功を収めている武田と、その友人だった。

男性陣の総資産額はかなりのものになるだろう。

ルナはこの手の人たちとの繋がりが深く、結婚したいと願う女子たちはその人脈に群がってくる。

男性陣もルナの周囲には可愛い女性陣が多くいることを知っており、双方Win-winなのだ。

「そうそう、あの武田さんよ」

武田とは、最近ワイン会で知り合った。そのときは美食とワインをただ楽しむ会だったので、女性を紹介するのは初めてである。

武田が予約してくれたのは『田中田』の個室。

だが、ここで想像していなかった“微額徴収”という結末を迎えることになってしまう。

そして後日行われた別の男性との食事会でも、それは起きた。

しかし二件立て続けに起きたこの事例に対して、女性陣たちは全く違う反応を見せたのである。


2回の食事会で異なった女性陣の態度。その理由とは!?


1回目の食事会:徴収額5,000円


「初めまして、麻衣です♡」

まずは簡単な自己紹介タイムから始まり、麻衣と桜子はとびっきりの可愛い笑顔を武田たちに向けている。

武田も楽しそうに“今日は飲もうよ”と言い始め、最初はビールだったのにいつの間にかシャンパンをポンポンと開け始めた。

「武田さんってお酒がお好きなんですか?」

「うん、酒と車は大好きなんだ。自宅のセラーには、世界中のコレクターから集めた貴重なワインとシャンパンを置いているんだよ。車も、イタリアのヴィンテージ車が好きでさぁ。自宅のガレージにはこんな車があるんだけど...」

そう言いながら、武田はおもむろに自宅のガレージにある数台の高級車の写真を見せ始めた。麻衣も桜子も、すっかり心酔している。

「ルナちゃんも、ワイン好きだったよね?」

そう言いながら、武田はシャンパンの次に早速ワインのオーダーを始める。

「さすが武田さん、良いヴィンテージのものを...」

ルナが感心してワインのラベルを眺めていると、武田は嬉しそうに微笑んだ。

「せっかく楽しいメンバーだし、良いお酒がないとね」

そう言いながら、皆楽しそうに思う存分ワインを飲み、食事を楽しんだ。

しかし最後のお会計になった時、武田から思わぬ一言が飛び出したのだ。

「じゃあ、女性陣は一人5,000円でいいかな?」

麻衣と桜子はあんぐりと口を開けた後、段々と怒り心頭の様子だ。ルナは申し訳ない気持ちで一杯になり、小声でそっと謝る。

「ごめんね、まさか5,000円も払うなんて...」

しかし女性陣二人の武田に対する絶望感と怒りは想像以上に深く、二人とも1軒目で早々に帰ってしまった。

だが、この後全く同じように微妙な金額を徴収された食事会があった際に、二人は喜んで支払ったのである。




2回目の食事会:徴収額3,000円


そんな麻衣と桜子だが、翌週にはすっかり機嫌をなおし、ルナにまた新たな食事会のセッティングを頼んできた。

二人が指定してきたのは若手の商社マンで、“海外赴任の可能性がこれからある男性”だった。

前回の武田のように桁外れのリッチな男性でなくとも、そこそこの給料があり、楽して生活できそうな“駐妻”になれればそれで良いという。

ルナは若手商社マンである裕太と駿に連絡し、食事会を開催する運びとなった。

「お二人とも、相当可愛いですね」

開始早々、裕太と駿は二人の美貌を褒め称えている。それもそのはずだろう。この二人の顔面偏差値はかなり高い。

「そんなことないですよぉ」

そう言いながらも嬉しそうにしている女性陣二人。すっかり場は和み、前回のような高級ワインやシャンパンはないものの、二人とも楽しそうにしている。

そして、なんとこの後に控えていた会計時の微額徴収にも二人は笑顔で応じたのである。

決して、男性陣二人が女性たちを褒めたからではない。

そこには意外だけれども納得の理由があったのだ。


果たして、女性陣が笑顔で支払った理由とは?


策士を味方につけるか否か


すっかり盛り上がりを見せた頃、いよいよお会計となった。

そして、あまり聞きたくはないこの一言が裕太の口から飛び出した。

「ごめん。申し訳ないんだけれど、女性陣は一人3,000円でいいかな・・・?」

ルナは思わず身構えながら、その瞬間を固唾を呑んで見守った。しかし、麻衣も桜子も、笑顔で鞄の中から財布を出し、それに応じたのだ。

「はい、どうぞ」

そう言って3,000円を裕太に差し出す二人の様子を見て、ルナはホッと胸をなでおろした。

結局そのまま4人は(手配師のルナは紹介ができれば役目は御免なので、1軒目で撤収)夜の街へと消えていった。




女性陣の態度が違った理由とは


-ルナさん、昨日はありがとうございました♫


翌日、麻衣から届いたお礼のLINEに、ルナも返信を打つ。

-こちらこそ、ありがとう。大丈夫だった?
-もちろんです!今度は二人で食事へ行くことになりました^^


麻衣からの返信を見て、前回の武田と今回の裕太との差に改めてルナは驚かせられた。

しかし、理由は至って明白だった。

裕太の会の際に、ルナは事前に麻衣と桜子に伝えていたのだ。

“3,000円くらい、徴収されちゃうかも。でも二人とも将来性があるから、青田買いだと思ってね”、と。

男性から言われるよりも、幹事や手配師から先に徴収される旨を伝えておくと、女性陣の落胆は少なくなる。

もちろん全額払ってくれる男性の方がモテることは確かだが、“青田買い”と女性陣に思わせると、不思議なことに払っても良いかな、と思い始めるのだ。

-しかし前回の武田さん、あんな資産があるのに本当にケチでしたね。ワインだって、自分が頼んだのに


麻衣から追加できたLINEに、ルナは大きく頷いた。

武田の場合、自分がいかにリッチなのか散々自慢をしていたのにも関わらず最後に5,000円という微妙な額を徴収することで、その器の小ささと女性に対する厳しさを露呈してしまったのだ。

一方で、まだまだこれからの裕太達は彼らなりに精一杯の金額を払ってくれたことを、女性陣も理解していた。

全額奢りが良いことに、疑いの余地はない。

しかし微妙に徴収するならば、それなりに女性陣が納得する理由が必要である。

▶NEXT:5月29日火曜更新予定
食事会後のLINE。ちゃんと繋がってる?