さまざまなバリエーションを持ち、輸入車トップを快走するBMW「MINI」(写真:BMWグループプレスサイト)

2017年度(2017年4月〜2018年3月)の輸入車モデル別販売台数で2年連続のトップに立ったのは、BMW傘下の小型車「MINI(ミニ)」だった(日本自動車輸入組合調べ)。長らくトップだったフォルクスワーゲン(VW)の「ゴルフ」から初めて2016年度に王座を奪い取って快走するMINIの強みとは何か。BMWでMINI事業を統括するとともに、日本に27年在住する“日本通”のフランソワ・ロカMINI本部長を直撃した。

「競合ブランドがやることをいっさい見るな」

――ゴルフはどこでも強いブランドですが、日本以外にもゴルフとMINIがガチンコな戦いを繰り広げている国はあるのでしょうか?

どうでしょうか。わかりません(笑)。まずわれわれにはほかのブランドと戦っている意識がまったくありません。目的は販売台数ナンバー1ではないのです。長期的に見て伸びていれば2位でも3位でもかまいません。


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私が責任を持つマーケティング・ディビジョンにおいてはつねに「競合ブランドがやることをいっさい見るな」と言っています。見れば同じことをしたくなるものですから。一時的に販売台数が落ち込んだときには他社のように低金利キャンペーンを実施したくなりますが、そこは我慢です。短期的に売れるかもしれませんが、守ってきたブランドが壊れます。

――商品として優れているからこそ評価されているのでしょうが、ほかのブランドとはどこか違うポジションを獲得しているように見えます。その違いは何なのでしょうか?

われわれは「プロダクト」「ブランド」「人」の3つを大事にしています。クルマですからプロダクトが重要なのは当然ですね。次にブランド。われわれは自分たちについてクルマを売る会社ではなくブランドを売る会社だと考えています。体験を売っているつもりです。

実際、建築、デザイン、ファッションなど、クルマ以外も展開しています。といってもわれわれが実際に不動産や洋服を売るわけではありません。建築やファッションの分野に対し“最小限の外寸から最大限の空間をつくりだす”といったMINIの思想を広めることを目的としています。ここ数年はMINIとしてミラノサローネに出展していますが、クルマは一切展示せず、リビングなどを提案しています。要するにMINIというブランドがクルマを指すのではなく、思想とか手法のような意味合いでとらえてもらえるよう努めています。

――「人」については?

これはMINIチーム(インポーター)と国内の121のMINI販売店で働く皆さんのことでもありますが、お客様のことでもあります。われわれのお客様は、来店した段階でどのクルマにしようか迷っているわけではなくMINIを買いにきています。全員じゃありませんが、その率が高いブランドです。また購入される方の多くがスペックを気にしません。

私自身が良い例です。実はほかの会社に勤めている時期にMINI六本木でMINIを買いました。セールス担当がいろいろと説明をしてくれようとしましたが、それを断り、すぐに契約しました。契約した時点では馬力も知りませんでした。MINIであることを気に入って買ったのです。こうした特別なお客様の気持ちが離れないように、プロダクトとブランドを磨いているのです。

販売台数が目的ではないならば何が目的なのか

――日本での販売台数ナンバー1は目的ではないとおっしゃいましたが、では目的は?


フランソワ・ロカMINI本部長(筆者撮影)

日本の方々がMINIをどうとらえるかが重要です。少し前までわれわれはトレンドセッター(流行を仕掛ける人)でした。多くの派生モデルを展開したり、豊富なオプションパーツを用意したりといった手法は、日本でもここ数年で多くのブランドが追従するようになりました。クロスオーバー的なモデルを派生させる大掛かりなものから、ストライプのステッカーを設定するなど小さなものまで。多くのフォロワーを生み出したと自負しています。

そこでわれわれはまたひとつ先へ進もうとしています。それはコミュニケーションの変更です。最近はカタログでも店舗の装飾でも、バーチャルではなくリアルな見せ方をするように心掛けていることにお気づきでしょうか?

できるだけ加工しない。ありていに言えばフォトショップ(Photoshop)をなるべく使わないということです(笑)。そのために背景にも気を配らなくてはならず、ライティングにも気を遣いますが、リアルな見せ方をするように心掛けています。

新しいことに挑戦しているように聞こえるかもしれませんが、われわれこそ、ただ変わり続ける人々の嗜好をフォローしているだけなのです。われわれがリアルな見せ方を提案しているのではなく、世間の人々がそういうものを評価するようになってきたということです。そういうことに敏感であることが、MINIの魅力を保つのに重要なことだと考えています。目的は何か?という質問に対しては「トレンドセッターからクリエーティブクラスになること」とお答えします。

(※編集部註 クリエーティブクラスとはデザイン思考を身に付けて仕事に生かしている人材を指す言葉です)

――どのブランドも、特に輸入ブランドはどこもそういうビジネスをしたいと考えているけれども難しい。MINIはどうしてうまくいくのでしょうか?

やはり1959年に生まれたクラシックMINIがもつブランドの力が大きいでしょう。MINIを知らない人はいない。コンパクトカーとして最初に思いつくだけの知名度があります。BMWがゼロから新たなブランドを立ち上げていたならこのポジションを獲得できたかどうか。できたとしても、もっと時間がかかったでしょう。


新たなブランドポジションへ移行させようとしている(筆者撮影)

この昔のMINIが獲得したポジションは守るよう注意しています。そのうえで、約3年前からクラシックMINIがもつどこかやんちゃなイメージから脱却した「大人っぽさ」「本物らしさ」を現在のプロダクトに盛り込むよう努めています。

「ほかのクルマと同じになった」「面白くなくなった」と感じる人も一定数出てくるのは承知のうえで、その何倍もの人の満足度を高める「大人っぽさ」「本物らしさ」を盛り込むべきタイミングだと考えるようになったのです。クラシックMINIが築いた画期的なコンパクトカーとしてのブランドイメージを保ったまま、新たなブランドポジションへ移行させようとしています。

MINIのDNAは残すようにしている

――現在のMINIがかつてのクラシックMINIと技術的なつながりはなく別物で、時代も異なり、サイズを比較しても意味がないことはわかっています。しかし新世代となってからもモデルチェンジの度にサイズアップしています。クロスオーバーやクラブマンといった、より大きなプラットフォームを使ったモデルも追加されました。しかしそれでも販売台数を順調に伸ばしています。やる前からサイズアップはネガティブな要素にならないとわかっていたのですか?

ポルシェのファンには911しか認めない人もいるでしょうが、4ドアの「パナメーラ」や、SUV(スポーツ多目的車)の「カイエン」を追加して販売台数を大きく伸ばしているのを見ればわかるように、新たなポルシェファンを取り込んでいます。日本にも外国にも、3ドアしかMINIじゃないという人もいますが、5ドアやクラブマン、クロスオーバーなどを出したことによって新たなファンを獲得しました。

ポルシェもカイエンが出たことで911の販売台数が減っているわけではないのではないでしょうか。大きな派生モデルを出すことによるネガティブな要素はさほど感じません。それから3ドアハッチを中心に販売していた時代はセカンドカー、サードカーとしての役割を期待されていましたが、今ではMINIもファーストカーになりうるクルマのブランドとなりました。ただしどんなカタチであれサイズであれ“ゴーカートフィーリング”に代表されるMINIのDNAは残すようにしています。

――日本市場は海外市場とどう違いますか?

日本のお客様は本当にブランドが好きです。ただしそれはハイブランドに限ったことではなく、ずっとカジュアルなブランドに対しても、それが自分に合うかどうかを慎重に考えます。リピーターが多いのも日本のMINIユーザーの特徴です。一度好きになってもらえたらずっと好きでいてくださる印象が強いですね。その代わり、何かの理由、たとえば不祥事などによってブランドに傷をつけてしまうと、一気にそっぽを向かれてしまいます。一度気持ちが離れると挽回は難しい。非常に慎重にブランドをコントロールしなければなりません。

MINIのEVとの向き合い方

――今、自動車業界は電動化の話題で持ちきりです。MINIは次世代技術にはどう向き合いますか?

今後どのようなパワートレーンが主流になるのか誰にもわかりません。間違いないのはICE(内燃機関)のみで動くクルマが徐々に減っていくことのみ。パワートレーンについてはBMWグループ全体の戦略に組み込まれるので、私がMINIを代表して話すことはできませんが、私個人はMINIにはEV(電気自動車)がいちばん似合うと思っています。

われわれは2011年にMINIを使ったEVである「MINI E」を開発し、数百台を生産して世界中のユーザーに渡して実証実験までしたように、早くからEVに関心を寄せてきました。これは発進と同時に最大トルクに達するEVなら、自分たちが理想とする“ゴーカートフィーリン”をより強調することができるとエンジニアが考えているからだと思います。

――MINIのEVが本格的に発売されるのはいつごろでしょうか?

うーん、その時には招待します(笑)。

<取材を終えて>
MINIは万全のポジションにある。1959年から続く最強の愛されブランドであり、メカニズムの面はジャーマンプレミアムの一角を占め、それ自体も有数のブランドであるBMWが責任を持つのだから。どう復活させても「コレジャナイ」と言われるリスクのあったMINIを買収し、姿かたちだけそっくりのパイクカーではなく、勇気を持って自分たちが考える新世代MINIを世に送り出し、世界中を納得させるだけの商品性をもたせたBMWが収穫し続けている果実がMINIなのだ。
BMWは、長年、そこに需要があると、どのプレミアムブランドもわかっていながらチャレンジに二の足を踏んでいたコンパクト市場に、MINIの力を借りて参入、大成功した。BMWブランドのままFF(前輪駆動)車を造って参入していたらMINIほどの成功があっただろうか。ともあれ、その後、実に多くのプレミアムブランドがコンパクト市場に参入したが、MINIほどの成功を収めたブランドはない。
MINIが「大きくなった」と嘆くのはわれわれ自動車ジャーナリストばかりで、クロスオーバーやクラブマンは日本ではファミリーカー、ファーストカーとして絶妙なサイズ。人気が出る要素をすべて満たしている。加えて、ロカ本部長はブランドの重要性を強調していたが、ガソリン、ディーゼル、プラグイン・ハイブリッドとパワートレーンの選択肢も豊富で、まずプロダクトとして魅力的なのが大きい。
今後、クルマは都市部を中心に所有から利用へのシフトが進むと思われるが、MINIあたりが率先してメーカーとしてのシェアリングサービスを始めると面白いのではないだろうか。なぜなら確固たる人気があるブランドが始めないと、うまくいかない場合、シェアリング自体に人気がないのかそのブランドの人気がないのかわからないからだ。
MINIのさまざまなバリエーションを必要に応じて使い分けるというのは、ちょっとわくわくするカーライフではないだろうか。