著者 永井文治朗

 何事にもどこかで誰かが歯止めをかけなければならないことがある。日大アメリカンフットボール部の「悪質タックル」問題は、まさにこう言えるケースではないだろうか。

 アメフトは、野球やサッカーなどと比べ、マイナースポーツといえる。それだけに妥当性がわかりにくいが、関西学院大のクオーターバック(QB)に対する日大選手の悪質なタックルは、野球ならマウンドに立つピッチャーにわざとバットを投げつける行為で、サッカーならフリーキックを終えた選手にスライディングすることと同様の危険行為である。他の競技であってもほぼ間違いなく一発退場となり、国際試合なら資格停止処分となるだろう。

 そして、QBとは、選手の入れ替えが攻守ごとに異なるアメフトにおいて、唯一容易に替えが効かないポジションである。

 本場アメリカのNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)において伝説のQBといえば、1980年代に活躍したジョー・モンタナだ。現在61歳だが、アメフトに詳しくない人でも一度くらいは耳にしたことがあるだろう。「伝説のQB」で検索すると現役のトム・ブレイディか、モンタナの名前が間違いなく上位にあがる。

 この二人のように、QBは攻撃の司令塔でありアメフトの花形ポジションだ。味方の選手のフォーメーションや守備側選手の位置を瞬時に把握してパスを通すのが仕事である。パスを通し続けることで味方の攻撃は続き、相手陣地により深く攻め込むことになる。このため他の選手たちに比べて比重が桁違いに大きい。野球の投手、サッカーのトップ下どころではない。

 そもそもQBがパスを出す前なら、「タックルしてパスを投げさせない」というのはルール通りの行為で、QBの才能のうち「相手選手のタックルを避ける」というのもテクニックの一つだ。

 だが、パスが通るなり、失敗するなどして力を抜いた後にタックルするのは明らかな反則(レイトタックル)である。選手生命にかかわるだけでなく、命すら奪いかねない危険極まる行為だ。

 報道にある「殺人タックル」という表現は過言でもなんでもない。アメフトが「スタジアム内で行われる暴力」でなく「スポーツ」である証だとも言える。

 これを選手個人が意図的に行ったとしたら、たとえ日本代表に選出されるほどの才能を持った選手だとしても、協会から「永久追放処分」されても仕方がない。国際試合で行ったら外交問題にまでなるだろう。

第69回甲子園ボウルの関学大ー日大=2017年12月、甲子園球場

 ただ、重要なのは実際にタックルをした選手がなぜこうした行為をしたかということだ。この選手は成人年齢だが、学生であることなどを考慮し個人名までは報道されない。だが、ネットで検索すれば容易に判明する。実際に日本代表チームに招聘された名選手だ。しかし、それほどの選手が「過失」でそんな大きなミスを犯すだろうか。

 そこで問題なのが、日大アメフト部の内田正人監督の「指示」の有無だ。「QBを殺し(実際の殺人でなく『潰す』という意味)に行け」という指示の内容自体は、アメフトという競技を考えれば防御側の監督やコーチから指示されてもおかしくない。

 だが、普通のチームならば「あくまでルールの範疇内で」という意味だと受け取られる。つまり、パスを投げる前のタックルなら、問題ない正当なプレーであることは先に説明した通りで、投げ終わった直後などの微妙なタイミングならば論議にはなるが社会問題化するまでにならない。

 それにタックルをされるQB自身も力を抜くこともなく、頭部や背部、腰部といった致命傷を避ける受け身姿勢をとる。そのための防具であり、そうした自己防衛についても選手指導と育成の対象だ。

 しかし、日大の選手は、明らかに投げ終わった選手が力を抜いてプレーも止まり、グラウンド外に出ようとしている所に背後からタックルしたのだ。そうした状況だとわかっていない程度の選手を協会が日本代表チームに選ぶだろうか。

 当時の試合を映像で見る限り、「選手生命を絶ちに行った。結果的に文字通り殺してもおかしくない勢いでぶつかりに行った」と判断されてもおかしくない。ちなみにレイトタックル自体は選手個人に科されるファウルであり、チームファウルではない。

 また、報道などによると、タックルした日大選手は、なかなか試合に出してもらえなかったようだ。何が原因かは定かではないが、「監督、コーチからの理不尽な内容の指示に従わない」ことが理由だった可能性もある。

 そもそも今回の問題は、日大と関学大という東西の横綱チーム同士の定期戦で起きた。公式戦なら、問題はもっと大きくなり、没収試合になりかねない。加害チームは即敗退となる。

 そうなれば加害側の日大の損失の方がはるかに大きくなる。だが、練習試合ということであれば話は別で、別だからこその行為だったとすれば、悪質さは極まりない。

 当然、練習試合といえど、真剣勝負ならば事故やけがはつきものである。根底にあるのはそうしたリスクを犯してでもチームの強化を図りたいからであり、学校間の信頼関係だ。要は、日大と関学大は日本一を競い合うライバルという信頼関係にあったからこそ51回もの定期戦を行ってきた。そうした過去の伝統に裏打ちされた特別な試合だったはずだ。

 日大の内田監督は「弱いチームだから」と前置きして何でもアグレッシブに行く旨を公言しているが、昨年の大学選手権覇者が「弱いチーム」なら全大学のアメフト部が弱いチームだということになり、何でもアグレッシブにやっていいということになる。

 つまり、大学日本一の日大アメフト部相手なら凶器を隠し持っていようが、プロテクターの下に何か仕込んでいようが、審判の目につかない所で相手選手を殴ろうが、なんでも許されてしまうということになる。「スポーツの名を借りた暴力」以外の何物でもなくなる。ただでさえ、少子化でスポーツ部の部員確保が難しくなっている中で、そんな事が起きれば部活動自体、競技自体が消滅しかねない。

甲子園ボウルで優勝し、選手らと喜ぶ日大フェニックスの内田正人監督=2017年12月

 まだ真相はわからないが、監督、コーチ陣の指導方針に問題の原因があるとすれば、名門チームであっても消えてなくなるべきだろう。まして他のチームの模範となるべき横綱だというなら、なおさらである。角界が土俵外の暴力で、レスリング界がパワハラ問題で揺れている昨今だからこそ、他の競技の指導者に向けても強くアピールするという意味で厳重な処罰が必要だ。

 だが、内田監督は日大の常務理事でもあるため、監督を辞任してもそのまま「院政」に移行すると考えられている。ならば、日大アメフト部は即廃部するべきだ。現役選手たちについては、希望するなら他の大学チームへの移籍と出場とを認め、原因となった悪質タックルをした選手については、1年間の謹慎処分と他の日大選手と同じ扱いを適用するということでどうだろうか。

 この処分案ならば将来ある選手たちに重荷を負わせることなく、悪質タックルをした選手も救済できる。才能ある選手だけに、再起のチャンスを与えてもいいだろう。

 いずれにせよ、内田監督は62歳。先に紹介したジョー・モンタナと同世代だ。海の向こうにいる伝説のQBが日本のこの騒動を聞いたらどう思うだろうか。