今や年間何十本もの映画やドラマが制作されるほどの人気者になったゾンビ。
ゾンビといえば、いくら攻撃しても倒れず、本能のままに人肉を求め、のろのろとさまよう姿を誰しもイメージすると思います。

しかし最近のゾンビたちは、そんな画一化したイメージをどんどん覆しています。

“走るゾンビ”はいくつかの作品でちらちら登場するようになりましたが、そんなのは序の口。
もっと個性に溢れたゾンビが次々と生まれているのです。

今回はそんな、愛すべき個性豊かなゾンビたちをご紹介します。

映画編

走るゾンビ

ゾンビの、のろまなイメージを一変させたのが、いわゆる“走るゾンビ”。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)で、現代まで通じる「ゾンビ」というモンスター像をこの世に生み出したジョージ・A・ロメロ監督以来ずっと、“のろまなのにいつの間にか群れに囲まれている恐怖”というのがゾンビ軍団の十八番だったはずが、走るゾンビであればたった一体だけでも怖いどころか勝ち目がありません。

彼らのやり口、もう反則としか言いようがありません。

28日後...』(2002)

凶暴性が剥き出しになるレイジウィルスの感染拡大から28日後、ゴーストタウンとなったロンドンで昏睡状態から目を覚ました青年のサバイバルを描いた作品。
世界で初めて“走るゾンビ”が登場した作品としてよく知られています。

ゆっくりとしたゾンビのイメージを一新するような、全速力で走るゾンビの姿に世界中が度肝を抜かれました。

実はこれには裏話があって、監督のダニー・ボイルは本作を「ゾンビ作品」として作り上げたつもりではなかったのだそうです。それが公開後、いつの間にか「新しいゾンビ像」として大ヒットし、2007年には続編となる『28週後...』が公開されました。

そしてゾンビの生みの親であるロメロ監督も、初監督作品『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を作り上げた当初はゾンビ映画を撮ったつもりはなかったと言いますから、不思議な共通点ですね。

『ワールド・ウォーZ』(2013)

ブラッド・ピット演じる元国連職員がゾンビウィルスの謎を追って各国を旅する超大作ゾンビ映画。

『28日後...』と同じく爆走するゾンビに「反則だろー!」と言いたくなりますが、本作のゾンビはさらにジャンプしてヘリコプターまで襲います。

特にエルサレムでの、空高く築き上げられた壁をゾンビの大群が互いの屍を足場にしてよじ登ってくるシーンは圧巻です。ビル数十階分はあろうかという高さから「降ってくる」ゾンビというのも目新しく、そのスピード感、絶望感にゾッとさせられます。

泳ぐゾンビ

ゾンビは水が苦手とされてきました。ロメロ作品などでは、ゾンビの群衆から逃れるために海や離島を目指すこともしばしば。

しかしそんな人間たちをあざ笑うかのように、ついに彼らが海を渡る日がきます。

『ハウス・オブ・ザ・デッド』(2003)

アーケードゲームを原作に作られたB級作品。迫力の銃撃シーンやアクションシーンが満載ですが、たまに挿入されるチープな「ゲーム画面風カット」にはちょっとゲンナリします。

ゾンビは水に弱く、海や川を渡ってしまえばこっちのものだったはずが、今作のゾンビは平気で水に入るし泳ぎます。そしてその泳ぎっぷりの上手いこと上手いこと……。
泳ぐこと自体は目新しいのですが、さっきまでノロノロしてたゾンビが普通の人間よりも上手にすいすい泳いでしまうシーンには、「おいおい!」とツッコミを入れたくなります。

意思疎通するゾンビ

長年ゾンビというものは意思や思考能力を持たず、人肉を貪りたいという本能だけで動くモンスターとして描かれてきました。
しかし遂に、共通の目的を持った仲間同志で協力し合うゾンビたちが現れます。

『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005)

ゾンビの生みの親であるロメロ監督が2005年に製作した作品。
ゾンビウィルス拡大後の荒廃したアメリカを舞台に、町を牛耳る一人の権力者VS離反する子分たちVSゾンビという構図で話は進んでいきます。

見た目は相変わらずのゆっくりとした動きのゾンビなのですが、言葉を話しこそしないものの、自我を持ち仲間意識がある、という特徴があります。

仲間を殺されたことに怒ったビッグ・ダディ(大柄のゾンビ)が仲間を率いて権力者に立ち向かう姿は、見ていて応援したくなります。
本来恐ろしいモンスターであるはずの彼らに愛着が湧くのは、群れの中でアイデンティティを失いウロウロするだけのゾンビ一体一体にも、ロメロ監督が個性を持たせて生き生きと(死んでるけど)描いているから。
個人的にビッグ・ダディは“ゾンビキャラ”として1、2を争うお気に入りです。

しゃべるゾンビ

さすがにしゃべりまではしなかった『ランド・オブ・ザ・デッド』から数年後、ついにしゃべるゾンビも登場します。

『ゾンビパーク』(2008)

恋人を殺されたことからトレーラーパーク(トラックの道中宿・貧民窟)の住人全員を殺して自殺した女性ノーマ。彼女を含めた住人たちがゾンビとして蘇り、時を経て村にやってきた若者達を惨殺していくというB級ホラー作品。

登場するゾンビたちは普通にしゃべるわ、メイクして誘惑するわ、ギター弾くわ、と実に個性的。

こんなことを言うと身も蓋もないのですが、そもそもこれ、ゾンビ映画ではありません。
『ゾンビパーク』というタイトルからしてゾンビがわんさか出てきそうですが、原題は『Trailer Park of Terror』でゾンビの匂いは全くしないですし、モンスターものというより死霊系映画です。
ですが、死んだものが蘇り人間を襲い食べるという特徴はゾンビそのもの。

ゾンビ側のヒロインであり主役であるノーマは、美貌を保つために皮膚を修復し胸を膨らませて男を誘惑する、まさしく美魔女。
ノーマに仕える元住人ゾンビたちも中々個性的で、個人的には常にギターを弾くロッカーゾンビが一押しキャラ。

B級らしからぬ、心地良いラストは実に秀逸なので、ぜひストーリーを楽しんでほしいですが、結構残酷なシーンが続くので苦手な方は要注意。

働くゾンビ

モンスターとしての存在が定着し、長年人を襲ってきたゾンビですが、時を経て様々な変遷をたどったのちに、ついに人間の支配下に置かれ、人間のために働くことになります。

『ゾンビーノ』(2006)

ゾンビと人間の戦争が勃発した後の世界で、凶暴性を沈静させる首輪により人間に仕えるようになったゾンビ、とある家族の交流を描いたカナダ産コメディ映画。1950年代のパラレルワールドを舞台としたカラフルな色彩とポップなノリが異彩を放つ、ブラックユーモア満載の不思議とハートフルな作品。

幸せな家庭で使用人として奴隷のように扱われるゾンビの“ファイド”ですが、少年との絆を深めることで本当の家族になっていく様が感動的です。

実はこれ、とても面白い事態なのです。

ロメロ監督がゾンビを人間を襲うモンスターとしてこの世に誕生させる前、ゾンビはブードゥー教における死者を蘇らせて永劫に使役するための「奴隷」でした。

製作者にそんな意図があったかはわかりませんが、新しい設定かと思ったら実はゾンビという存在の起源まで遡った「超オリジン」設定だったのです。

ま、そんなことを考えずとも、ほのぼのとしたブラックユーモアな世界観はB級&ゾンビ映画初心者におすすめです。

海外ドラマ編

事件を解決するゾンビ

意思を持ったゾンビはさきほどもご紹介しましたが、遂にここまできました。
なんとゾンビが事件を解決しちゃいます。

『iゾンビ』

ある事件をきっかけに半死半生のゾンビになってしまったリヴが、解剖した死体の脳みそを口にすることで死者の記憶を辿り事件を解決していく、という異色の海外ドラマ。
脳みその持ち主の記憶を手に入れるだけでなく性格まで移ってしまうので、毎回人格が変わるリヴのコミカルな演技もみどころ。

普通の食事も激辛ソースをかければ食べられたり、怒りでゾンビモードに突入すると目が赤くなり桁外れなパワーを発揮するなど、設定も面白いです。

まとめ

たくさんのゾンビ映画が作られていますが、「これってゾンビなの?」と言いたくなるほど個性溢れる新しいゾンビ像が毎年登場しています。

ドラキュラやキョンシーなどに比べ、実は「ゾンビ」の定義は曖昧で柔軟です。
「人を襲い、感染させる、人間性を欠いた人間の群れ」であればなんでもゾンビと呼べるのかもしれません。

時代の流れとともに走り出したり自分で考えたり、あるいはそもそも「ゾンビ」として作られたわけではなかった「凶暴なヤツら」までもいつの間にか「ゾンビ」とされていたり、実に多様な姿を見せてくれます。

そしてついには、人間を襲わなくなってしまいました。

ゾンビは一体どこまで進化するのでしょうか?
これからも我々の想像を超えて成長するゾンビに目が離せませんね!