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法医学といえば、遺体の解剖を行って死因を決定する学問だと思う人も多い。しかし実際には、法律に関しての医学的諸問題を広く扱うもので、医学的に公正に判断を行うための学問であり、対象には生きている人間も含まれる。臨床法医学の現状について取材してみた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

「死人に口無し」だが
話せないのは死人だけではない

 千葉大学附属法医学教育研究センターの医師、本村あゆみさんが診察するのは、ご遺体だ。警察や海上保安庁等から依頼を受け、異状死体(確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の、全ての死体)を解剖し、死因を究明する。

「もちろん、死因を明らかにしても、そのご本人に対して、してあげられることは何もありません。でも、原因を究明することで、次に似たような状況の人が救命救急に搬送されたとき、より適切な治療が行えて、命を救うことができるかもしれません。私は、亡くなられた方の死因を究明した結果を、生きている人や社会に還元していく医学だと思っています」

 本村さんには忘れられないご遺体がある。

「数年前になりますが、無理心中で、お母さんにマンションの高層階から突き落とされて亡くなったお子さんのご遺体を解剖したことがありました(医学的な死因とは別に)。『なぜ、この子たちは殺されなければならなかったのだろう。こうなる前に、できることがあるはずだ』と思いました。このような経験から、当教室では小児科の臨床医などと協力して、心中や虐待死が起きる前に察知して、保護するような活動をしています」

 昔から「死人に口無し」というが、世間には死者以外にも、自分の身に起きたことを訴えられない人がいる。幼子や認知症を患った高齢者などだ。法医なら、そういう人たちの言葉にできないピンチを察知し、手を差し伸べることができる。

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