子持ち男性の約半数は、育休の取得を諦めているという(写真:xiangtao/PIXTA)

少子化が止まらない。

5月4日に発表された総務省の推計によると、14歳以下の人口は前年比17万人減の1553万人となり、過去最低を更新した。

少子化は数十年前から始まっているが、この間まともに対策がとられてこなかった。政府は少子化をほったらかしにしてきたといっても過言ではない。

少子化対策には、子供を持つ機会に恵まれるように制度を変更したり、新たに法律を整備したりする必要がある。

その際、育児休業の制度をうまく運用すれば男性の育休取得と意識改革が進み、少しは現状を改善できるのではないか。筆者はそう踏んでいる。

経済的な理由が「夫婦の理想」を妨げている

少子化に歯止めがかからない大きな要因に経済的な理由がある。

国立社会保障・人口問題研究所の調査(2015年)で、夫婦に理想的な子供の数を聞いたところ、平均2.32人だったのに対し、予定している子供の数は平均2.01人だった。他方、夫婦に理想とする子供数を持たない理由を複数回答で聞いたところ、妻の年齢が30歳未満だと76.5%、30〜34歳だと81.2%が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と回答した。

このほか、雇用や所得が不安定であることから、そもそも結婚や出産を選択肢として考えられない若者も増えているとされている。

さらに、子供を持つことは苦労ばかりで、利点を感じられないことなどを理由に、理想とする子供数を持たない夫婦も一定数いる。前出の調査では、「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」と回答した人が17.6%、「夫の家事・育児への協力が得られないから」と回答した人も10.0%いた。

その一方で、厚生労働省の第12回21世紀成年者縦断調査(2015年)によると、子供がいる夫婦は、夫の休日の家事・育児時間が長くなれば長くなるほど、第2子以降の生まれる割合が高くなる傾向があるという。言い換えれば、夫が家事・育児に関わると第2子以降が生まれやすくなる。

ここで育休制度の出番である。男性が育休を取得して家事・育児に関わる時間が長くなれば、現状を少しでも改善へと導けると仮説できる。

だが、現状は寂しい限りである。

2016年度雇用均等基本調査によると、男性の育休取得率は3.16%となり、2015年度の同調査では育休を取得した男性の半数以上が5日間未満だったことも分かった。5日間未満となると、本人が本気で育児と向き合う期間としては短く、「ワンオペ育児」や健診、病気、予防接種などの経験を積めないだろう。

また、日本労働組合総連合会(連合)が行った「パタニティ・ハラスメントに関する意識調査(2014年)」によると、子供がいる男性の45.5%が育休を「取得したことはないが、取得したかった」と回答した。世代別にみると、20代で58.3%、30代で49.2%、40代で50.3%となり、取得を諦めている現状が浮き彫りとなっている。

「3つの壁」が育休を取得しにくくしている

男性が育休を取得しにくい背景について、筆者は「3つの壁」があると考えている。

1つ目は「意識の壁」である。

前出の連合の調査結果によると、男性の約半数は「育休を取得したことはなく、取得したいと思わなかった」と回答している。要するに、本人の意識として自分が育休を取得する必要があると考えておらず、育休を取るという発想すらない。

2つ目は「雰囲気の壁」である。

このパータンは文字通り、職場の雰囲気に気圧され、育休の取得を躊躇してしまう。育休取得を希望または取得済みの男性に筆者がヒアリングすると、よくそんな悩みを聞く。

そして、3つ目は「収入の壁」である。

育休中の給与は企業によって異なるが、一般的に無給のケースが多いとされている。2017年就労条件総合調査の概況によると、男性会社員の有給取得率は46.8%となり、未消化の有給休暇が半分以上も余っている状態となる。つまり、男性には無給の育休を取得するメリットはない。

そこで提案したいのが、男性も育休を取ったほうが「お得」になる「韓国式」である。

筑紫女学園大学・蠔海善教授が育休制度を国際比較した論文によると、韓国では、子供が8歳以下または小学校2年までなら、夫婦ともにそれぞれ1年以内の育休を取得できる。

ただし、給付金は同一の子供に対して夫婦が同時に受給できない仕組みとなっている。給付金は、最初の3カ月で賃金の80%(上限額あり)、4カ月目以降でも40%(上限額あり)に相当する金額が支給される。

これに加え、男女が順次に育休をとった場合、2番目に育休をとる親を支援する制度もあり、最初の3カ月で賃金の100%(上限額あり)に相当する給付金が支給される。

この制度が2014年に導入されると、約10年間大きな変化が見られなかった男性の育休取得率が少しずつ改善した。制度導入前の2013年は3.3%だったにもかかわらず、2016年には8.5%まで伸びている。

「韓国式」により夫が育休をしっかり取得して「ワンオペ育児」を体験すれば、夫に育児の当事者意識が生まれ、妻に任せきりだった家事・育児が自分事になるかもしれない。

あくまで希望的な観測になるが、男性が仕事を早く切り上げて帰宅したり、復職後に育児と両立している女性に理解を示したりする可能性もあるのではないか。

「育児休業」という呼称だと「休暇」と思われる

育休取得を阻む「3つの壁」を乗り越えるためには、政府の努力だけでなく、男性たちの協力が欠かせない。その際、男性を取り巻く環境も変えていく必要があるだろう。そこで提案したいのが、「育児休業」という呼び方をやめることだ。

事実、「休業のことを『休暇』だと周囲に思われている」「名称が育休を取りにくくさせている」といった男性たちの声を筆者もよく耳にしてきた。

男性が育休後に職場復帰すると「休みは楽しかった?」などと言われるなど、育休とは無縁の人には「育休=バケーション」と思われているようなのである。それに、いまだに「育児休業」ではなく「育児休暇」という呼ぶ会社すらある。

こうした誤解もしくは誤認をなくすため、「育児休業」を「育児専念期間」と呼ぶことにしてはどうか。野田聖子総務相を会長に設立されたばかりの「超党派ママパパ議員連盟」にも、機会を見てこれを提案したいと、筆者は考えている。

些細なことかもしれないが、こうした取り組みが「3つの壁」を乗り越えるための小さな一歩となるかもしれない。その小さな一歩の積み重ねが実を結べば、少子化に歯止めをかけるトリガーになっていくだろう。