東京に“ネブミ男”と呼ばれる男がいる。

女性を見る目が厳しく、値踏みすることに長けた“ネブミ男”。

ハイスペックゆえに値踏みしすぎて婚期を逃したネブミ男・龍平は、恋愛相談の相手としてはもってこい。

相手を値踏みするのは女だけではない。男だって当然、女を値踏みしているのだ。

そこで値踏みのプロ・龍平に、男の値踏みポイントを解説してもらおう。

これまでに、姫気質な「ワタシ姫」春菜や、自称サバサバ系の鯖女子・麻里子や、円満大王の由香子、自虐ネタを連発するカサカサお化けの洋子を見てきた。

今週、彼の元にやってきたのは...?




今日は、龍平が会社員時代からお世話になっている陽介に呼び出され、帝国ホテルの『ラ ブラスリー』へやって来た。

ここのワゴンで運んで来るローストビーフは絶品で、龍平は久しぶりに食べるその味に思いを馳せながら先輩・陽介を待つ。

普段は男性の相談はあまり受けないが、今回は番外編と言ったところだろうか。

「龍平、久しぶりだなぁ。元気だったか?」
「はい、お陰様で何とか。陽介先輩もお元気そうですね。むしろ、若返りました!?」

陽介は会社でもかなり上の方の役職に就いている、仕事のできる男だ。

ストイックに身体を鍛えているためスタイルも良く、特別憧れている先輩なのだ。年齢を感じさせないそのオーラと若々しさに、龍平は毎回素直に感心するのだ。

「独身生活が最高に楽しいからなぁ。龍平は、彼女できたのか?」

「いや、それがまぁ絶賛こじらせ中で...」

「龍平はまだ若いから、引く手あまただろ?」

龍平の知っている陽介は、無敵だった。バツイチではあるが、食事会に行けば女性ならば誰もが目をハートマークにしてしまうほど、とにかくモテていた記憶がある。

しかしこの後、時間の経過と共にそれは過去の栄光であり、現在の陽介がモテなくなってしまった現実を、龍平ははっきりと悟ることになる。


経済力があってもダメな男。陽介の決定的な欠点とは


「またまたぁ。何をおっしゃいますか。僕の知っている男性の中で、陽介先輩以上にモテる人には、未だに会ったことがありませんよ」

容姿端麗、高収入。そして性格も良い。

昔はかなり派手に遊んでいた印象があるが、それはもう過去のこと。年齢が良い味になっており、龍平からすると陽介が口説いて説き伏せられない女性なんていないイメージがある。

「龍平は、口が上手いな」

そう言いながらもふっとニヒルに笑う陽介は、やはり男から見てもカッコよかった。

「せっかくだし、もう一軒行かないか?」

食事を済ませ、時計を見るとまだ23時である。

せっかくの憧れの先輩との飲みである。断る理由なんて何もなく、二人はザ・ペニンシュラ東京の24階にある『ピーター バー』へと向かった。

しかしこの2軒目で、陽介は想定外の妖怪に変身したのである。




過去の美談に酔いしれる男


仕事の話を済ませ、あとは砕けた会話を楽しもうとしている時だった。

「龍平は、どんなタイプの女性がいいんだ?」

段々酔っ払ってきた陽介を見ながら、龍平はなるべく当たり障りのない答えを用意する。

「えっとそうですね...明るくて優しい子、ですかね」

「あと可愛いのも絶対条件だろ?でも可愛い子に限って裏の顔があったりするから、本当に気をつけろよ。昔20代の頃に付き合っていたモデルがさぁ...」

その時、龍平は思い出した。まだ龍平が新人だった頃、陽介は有名なモデルと交際しており、それは社内では有名な話だった。

そんな陽介を見て、まだ青二才だった龍平は純粋に“羨ましい”なんて思っていたものだ。

とは言え、もう10年以上前のこと。そのモデルも結婚し、幸せな家庭を築いていることだろう。

「ありましたね、そんな話。当時、僕の中で陽介先輩さすがだなぁって思ってましたもん」

そう相槌を打ったのが、今夜龍平が犯した最大のミスかもしれない。

「そうそう。顔とスタイルは抜群だったんだけど、とにかく束縛がきつくて...でもあの当時、彼女は本当に売れっ子だったからなぁ」

そこから、陽介は過去の美談を語り出し、しまいには陽介の“人生談義”が始まってしまった。

人生談義だけならばいい。夜がふけるにつれ、陽介は徐々に面倒臭い男に変わっていったのだ。


先輩の皆様、ご注意を。自分の“美談”を語りだし、哀愁に浸る男


「お前まだ独身だろ?楽しいか?寂しくなる時が絶対に来るぞ」

“はい”とか“まぁ”、とか相槌を打ちながら、龍平は静かに陽介の話を聞いていた。しかしとどめは、前妻との離婚話になった時だった。

「龍平は今30代前半だっけ?俺がお前くらいの時は楽しかったなぁ。とは言えその時はまだ結婚してたから、今より真面目な生活を送ってたけど」

陽介の前の奥さんには、二人の結婚式で一度だけ会ったことがある(あまりよく覚えてはいないが、綺麗な女性だったと記憶している)。

「そっか。その時はまだ結婚していたんですね。僕なんてこの歳になってもまだ結婚していませんし、やっぱり先輩は違いますね〜」

そう言って、会話を弾ませようとしていた時だった。

「まぁ、お前も結婚したら分かるよ。良いこともあるけど、その分悪いこともあるって。前の嫁だって、結婚する前までは天使のように可愛くて優しかったのに、結婚した途端に態度が豹変して...。変な女に引っかかるなよ」

だんだん声のトーンを落としてきた陽介は、さらに続けた。

「あの時は、俺も調子に乗っていた時期だったんだよ。老後とか考えると、そろそろ再婚しないといけないんだけど、昔より出会いもないし、周りは皆既婚者で子供もいて幸せそうだし。だから龍平も、早めに結婚して幸せな家庭を築いた方がいいぞ」

そう言いながら、陽介はうっすら泣き始めたのだ。

-で、出た...妖怪・夜泣き爺!!

龍平は思わず(あくまでも自分の心の中で)大声を出してしまった。




何がキッカケでスイッチが入ったのか龍平には分からないが、たまにこういった酒の席で熱く語り始める人は多い。

こちらも同じテンションで同じ思い出話を共有できていれば良いのだが、正直前妻の話をされても龍平にはよく分からない事情である。

時計を見ると、深夜0時を越えている。

夜が更け、酒が進むと共に過去の栄光を思い出し、そして突然泣き始める。

しかし、良い年をしたオッさんが管を巻いているのを見ていると、まるで夜泣き爺にしか見えない。

人は、大人になるにつれて純粋さを増していくのだろうか。だから素直に感情表現をし、お酒が入ると泣くようになるのだろうか。

そんなことを考えながら、龍平は心に留めた一言がある。

年齢と共に緩くなる涙腺。
だからこそ、気をつけよう。

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妖怪女“一旦タンマ”登場!!