<16億人のイスラム教徒を呼び込めと日本の官民挙げてブームとなったハラール認証ビジネス――その過熱化は当事者のムスリムたちを苦しめかねない>

最近、「ハラールビジネス」が話題になっている。ハラールとは「合法な」「許された」という意味のアラビア語。ハラールビジネスとは、イスラム教徒にとって宗教的に「許された」商品やサービスを扱うビジネスのことだ。

まず企業は商品やサービスについて、ハラールかどうかの認証を行う団体や機関に審査を依頼する。こうした認証団体や機関は、原材料や製造・流通過程、広告やサービスの内容など詳細な書類審査と実地検査を行う。

そこで全ての点においてハラールと認められれば証明書が発行され、認証マークの使用が認められる。企業がハラール認証を受けるには結構な時間と費用がかかる上、せっかく取得した認証も1、2年ごとに更新が必要となる。

世界に16億人いるといわれるイスラム教徒の市場開拓を求めて、「ハラール食品」「ハラール化粧品」「ハラール医薬品」など、さまざまな分野のビジネスが注目されている。海外に展開する日本企業もその例外ではない。

またイスラム圏からの観光客誘致や、20年の東京オリンピック開催に伴う訪問者の増加に備えて、ハラール認証を取り入れ、日本的「おもてなし」を提供しよう、その上商機を得ようという声が官民を挙げて大きくなっている。

さらには、ハラールビジネスのマニュアル本や攻略本が次々と出版され、その成功例や失敗例が新聞や雑誌をにぎわせるなど、まさにハラールブームといっていい状況だ。

ただ、日本企業が必死に取り入れようとしているハラール認証の歴史が実はごく浅いことや、専門家の間でハラールビジネスに否定的な意見が少なくないことはあまり知られていない。

ハラールという考え方自体は、7世紀にイスラム教が始まった当初からあったと言われる。イスラム教の聖典コーランには、豚肉や酒などの飲食を禁じたり制限したりする教えがある。その他、服装や振る舞い、物の使用についての教えも含め、「何がハラールなのか」という点は常に議論されてきた。

イスラム教徒同士でさえその答えは、社会や文化、あるいは個人によっても異なる場合があった。そうした理解や実践の違いは決して忌み嫌われるものではなく、長らく許容されてきた。

後藤絵美(東京大学准教授)