3つの「混浴」でLGBTを知る? SNSで話題の「レインボー風呂ジェクト」

写真拡大 (全4枚)

先日、「レインボー風呂ジェクト」というイベントを、日本が誇る温泉街「別府温泉」で実施してきました。これが、めちゃくちゃカオスで面白かったんです。

ちょっと待って、そもそも「レインボー風呂ジェクト」って……? 一言で言うと、「LGBTと呼ばれる多様な性の人たちと一緒に温泉につかりながら、誰もが楽しめる温泉について考えちゃおう」というプロジェクトです。

イベントの翌日には新聞をはじめ、テレビやWebメディアなどで取り上げられ、NHKの番組でも紹介すると、またたく間にTwitterのトレンドワードにランクイン。さらに「前代未聞の温泉イベント」としてまとめ記事も作られるなど、SNSを中心にちょっとした話題になりました。

このプロジェクトの企画発案は、性社会文化史研究者の三橋順子さん。イベントの主催はNHKの「バリバラ」(24時間テレビの裏で”感動ポルノ”特集をぶつけてネットをざわつかせまくったりするアバンギャルド番組)制作班で、僕は全体のプロデュースをつとめます。そして、なんといっても別府市です。

「どんな人にも別府のお湯を存分に味わってもらいたい。そのためのきっかけになるのなら!」と言ってくれた懐深い別府市の協力を得て、市営温泉を特別に借りきって開催しました。

参加者は、別府の温泉旅館の女将さんや行政関係者、商店街の店主に大学生、温泉好きの別府のみなさん、さらにはプロジェクトの趣旨に賛同し、全国から集まったLGBTと呼ばれる、多様な性を生きる方々。総勢40人の中に、企画側のくせに好奇心が抑えきれず、僕も加わってきました。

ちなみに、最初に告白しておくと、僕はLGBTってなんなのか、よくわかっていません。もちろん言葉としては知っています。LGBTのそれぞれの意味するところ(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー)も答えられますし、「左利きの人と同じくらいの割合でいるんだよ」ということも聞いたことがあります(諸説あり)。

テレビをつければ、いわゆるオネエ系と呼ばれるタレントさんだってたくさん出ていらっしゃるわけで、情報としては一応頭には入っている。でも、本当に恥ずかしながら、僕の知識はそんなものです。つまり、本当のところは何もわかっていない”知ったかぶり”の状態でした。

で、そんな僕にもぴったりなのが、レインボー風呂ジェクトなわけです。このプロジェクトのコンセプトは、「難しい理屈はおいといて、まずはひとっ風呂」。

LGBTと呼ばれる人たちと一緒に、いくつかのテーマに分けられたお湯に入るのですが……あら不思議、なんだかいろいろなことがすとんと腹に落ちていくじゃありませんか。どんな様子だったかというと、まずはこちらの写真をご覧ください。


 
はい、僕もしっかり温泉に入っています(写真右端)。レインボー風呂ジェクトでは、「見た目の湯」「戸籍の湯」「自己申告の湯」の3つの湯を順番に体験していくのですが、この写真は「見た目の湯」の光景です。

温泉施設の受付のおばちゃんが、見た目だけで「はい、あんたは男湯、あんたは女湯」とふり分けた結果こうなりました。写真真ん中に写っているモヒカンの人は「心は男、体は女」のいわゆるトランスジェンダーと呼ばれる方です。お湯から上がると、おっぱいがぷるんと現れます。すごい違和感です。

続いて、「戸籍の湯」です。

こちらは戸籍などの公的な書類上の性別が男性の人だけが入っている男湯です。注目はバスタオルの位置ですね。なんで、バスタオルで胸隠している人がこんなにおんねんと。1、2、3、4、5人もいる。



そして、またややこしいのが、手前の金髪とその左隣に座るだいぶ男前な感じのお二人はもともとは女性なんですけど、手術で体は男性になっていて、戸籍も女性から男性に変更済みとのこと。えーと、だんだんよくわかんなくなってきたぞ。

最後は「自己申告の湯」です。他人の判断ではなく、自分自身が一番「しっくりくるお湯」を選んでもらう。すると、一人の男性が女湯に入りたいと言い出しました。えっ、ちょっと待って。さすがに会場がざわつきました。でも、彼の話を聞くとみんな納得。

「自分はゲイですけど、男性の裸がないところがいいなあと思って女湯を選びました。男湯にかっこいい男の人がいるとどうしても緊張してしまうんです。好きになるのが男だと気づいたのは小学校の高学年くらいだけど、かっこいい同級生の裸に目がいってしまう自分に嫌悪感を持ったこともあった。だから、温泉を思う存分満喫するには、恋愛対象となる同性がいないほうが落ち着くと思って」とのこと。

そんな男性と一緒に入った女性たちからは、たとえ男性であっても、性的な目で見られていないという安心感から、意外と平気だったという反応が返ってきました。

すごく考えさせられましたね。最初は「おいおいっ!」ってみんな突っ込んだんですよ。でも、それほど単純な話じゃないですよね。このイベントに参加した人たちはそれぞれに背負っている物語があって、いろいろな覚悟をもってこの場に来てくれているんだなぁって。当たり前のことなんですけど、僕は彼の話を聞いてはっと目が覚める思いでした。

さらに自己申告の湯では、男湯にも女湯にも「しっくりこない」という人もいました。Xジェンダーと呼ばれる、心が男でも女でもない方たちです。自分の中での性別が定まっていないから、男湯にいても、女湯にいても落ち着かないんだそうです。うーん、なるほどね。

ここまでの体験で、LGBTド素人の僕が素直に感じたことを一言でまとめると、「楽しいな〜」ということでした。一緒にお湯につかっていると、いろんな話が聞けるんですよね。例えば、心は男性、体は女性というトランスジェンダーの方は、「普段温泉に入るときは女湯に入らざるを得ないんだけど、顔の見た目が100%男なので、毎回びっくりされる」と。だから、のれんをくぐった瞬間から服を脱いで、胸を強調して女をアピールしてから入るんだとか。なんて涙ぐましい努力……。

ほかにも、「戸籍の性別を変えるときは家庭裁判所で審判を受けて変えるんだけど」とか。へぇ、へぇの連続。今まで全く知らなかった話をたくさん教えてもらいました。

この「同じ釜の飯を食う」ならぬ、「同じ釜の風呂に入る」というのは、なかなかすごいですよ。一体感が半端じゃない。普段だったら「こんなこと聞いてもいいんだろうか」と逡巡するようなことも、なんといっても裸の付き合いですからね(いちおうバスタオルはつけていますけど)、お互い心のハードルがぐーっと下がっているので、気軽にいろいろなことを話せます。だから、お風呂の中はずーっとみんなの笑い声であふれていました。

ここで、参加したみなさんの感想を紹介します。

「見た目の湯よりも、戸籍の湯の方が入りづらかった。頭では全員男だし、法律的にもなんの問題もないってわかっているのにね。いかに自分が見た目にとらわれているかがよく分かりました(笑)」

「(体女性、心男性の)トランスジェンダーの自分が男湯にはいっても『違和感ないよ』って言ってくれた。広いお風呂に入ったのは13年ぶり。すごく嬉しかった!」

「私はシングルマザーなんですけど、なんだか一緒だなって。”シングルマザー”だからとか”LGBT”だからとか周りの目を気にしながら生きているところがある。そういうレッテルが本当に邪魔で、一人の人として付き合いたいよなって思いました」

湯上りには、「誰もが楽しめる温泉や温泉街ってなんだろう?」というテーマでワークショップを行いました(もちろん片手にコーヒー牛乳をもって)。多様すぎる性に触れた直後だからなのか、議論は白熱、ユニークなアイデアが次々と飛び出します。

たとえば「血液型でわける温泉」というアイデア。会場が一瞬きょとんとしましたけど、実はこれは男湯と女湯にしかわかれていない現状の男女二分法への強烈なアンチテーゼだったんです。「男女で分けるから大変なことになるんだったら、血液型でわけちゃえばよくない?」というわけです。これを聞いた会場は拍手と歓声が起きました。

そのほかにも、自分の希望や思考、属性をもとにたどっていくと「LGBTの方OK」「ペット連れOK」「タトゥーOK」といった、自分の理想のお風呂にたどりつける「フロー(風呂)チャート」。さらに、LGBTの人たちの気持ちが一番わかって、かゆいところに手が届くサービスができるのは当事者じゃないかという意見をもとに、別府市内の旅館などの施設が積極的にLGBTの人たちを雇用できるようにする「雇用促進事業」などのアイデアも。
 


入浴体験とディスカッションをあわせて3時間半。あまりにも濃密で、刺激的な時間でした。僕は去年認知症の状態にある方がホールスタッフをつとめる「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトを立ち上げましたが、やっぱり「エンターテインメント」な仕掛けは大切だと改めて思いました。

こちらが「LGBTのことを考えることは大事なんです! さあ、ちゃんと考えましょう!」と気炎を吐けば吐くほど、人の気持ちは離れるもの。それよりも「難しい理屈はおいといて、まずはひとっ風呂」くらいのゆるい感じにしたのがちょうどよかったのかもしれません(これはバリバラ制作班、久保ディレクターの発案です)。なんというか、ちょうどいい湯加減というのは、ちょっといい加減なくらいがいいんでしょうね。

東京に帰ってから「レインボー風呂ジェクト」の話を、銭湯を経営している友人に話してみたんです。そうしたら「是非うちでもやりたい」と食いついてくれました。やっぱりLGBTの方の受け入れ方がわからなくて、すごく悩んでいたということでした。

僕は重ねて「”同じ釜の風呂に入る”ってすごいよかったよ」と伝えると、「それは同じ釜で”おなかま”、になるってことですね」と返してきたんですよ。くそっ、うまいこと言うじゃないか。ちょっと悔しいけど、ここで思いっきりパクらせてもらいます。同じ釜の風呂に入る”お仲間”の輪が広がっていけばいいなぁ。

番組を作らないNHKディレクターが「ひっそりやっている大きな話」
過去記事はこちら>>