ダイエットスムージーDAY+「女芸人100日のキセキ結果発表イベント」に登場した「安田大サーカス」のクロちゃん=2017年12月20日(写真:日刊スポーツ新聞社)

安田大サーカスのクロちゃんと言えば、スキンヘッドに髭面のいかつい外見とは裏腹の、甲高い声とナヨナヨした言動が印象的な芸人です。そんな彼が最近、バラエティ番組で新たに脚光を浴びています。自分を良く見せるためにその場しのぎのウソを連発して、人々を呆れさせる「ウソつき芸」で注目されているのです。

ウソつきで批判を気にしない性格

クロちゃんは『水曜日のダウンタウン』(TBS系)でたびたびドッキリ企画のターゲットになり、ウソで塗り固められたその本性を暴かれています。彼はツイッターで「健康に気を使うストイックな自分」をアピールしています。ところが、隠しカメラによる密着ロケで明らかになったのは、彼のツイートがウソまみれだったということでした。

「家まで歩いて帰る」とツイートしていたのに本当はタクシーを利用していた、などというのはほんの序の口。実際に食べたよりも少ない量の食事の写真をアップしたり、間食で大量にスイーツを食べていることをひた隠しにしたりしていたのです。

クロちゃんはウソつきであるだけでなく、得体の知れない不気味さも備えています。モデル美女と一対一でお店で食事をしたときには、カメラが回っているとも知らず、相手が席を外している間に彼女のグラスに口をつけて間接キスをしていました。泥酔状態で自宅に帰ってきたときには、奇声をあげながらベッドの下に潜り込むという想定外の行動で視聴者を驚かせました。

また、『名医のTHE太鼓判!』(TBS系)では、クロちゃんが2型糖尿病などの疾患を抱えていることが判明しました。医師たちは不摂生な食生活を改めるように忠告をしたのですが、クロちゃんは一切聞く耳を持ちません。それどころか、『水曜日のダウンタウン』のロケでこの件を問われると「アイツら、マジうるさいから」「泣きマネする女(番組で共演した丸田佳奈医師のこと)もいるから」などと信じられない暴言を吐く始末。

その後、番組の企画で「教育入院」を経験し、一時は反省したかに見えたクロちゃん。

しかし、実際にはその後も不摂生を続けていて、慢性腎臓病であると診断されていました。医師の忠告を無視し続けてどんなに批判されても、クロちゃんにはまったく悪びれる様子がありません。

ドッキリ企画で高い評価を得る

そんな彼が好かれているかどうかはともかく、これらの番組を見ている人にとって目が離せない存在になっているのは事実です。クロちゃんはなぜこれほど注目を集めているのでしょうか。

クロちゃんが『水曜日のダウンタウン』にたびたび出演するようになったきっかけは、2015年に放送された『チーム有吉』(TBS系)という特番にあります。この番組では、有吉弘行さんとおぎやはぎの2人が、芸人引退をかけてさまざまな企画に挑戦していました。深夜番組ということもあり、着地点が定まっていないように見える実験的な企画が多いのが印象的でした。

その中で、企画に関して何も聞かされていないクロちゃんが、目隠しをしたままスタジオに現れるという場面がありました。有吉さんたちにあれこれ話しかけられると、クロちゃんは戸惑いながらも絶妙に面白いリアクションを返してきます。わざとらしく大げさに驚いたりせず、静かにその異様な状況を受け入れてたたずんでいる姿が何とも言えない笑いを誘っていました。

TBSテレビの演出家である藤井健太郎さんは、この企画でクロちゃんのポテンシャルの高さを再認識して、『水曜日のダウンタウン』でさらにその可能性を掘り下げていきました。そこでクロちゃんは、大掛かりなドッキリを仕掛けられると常に予想を上回る反応を返していきました。そんな彼はいつのまにかこの番組に欠かせない人材になっていました。

クロちゃんは芸人ではありますが、自分から積極的に発言したりするタイプではありません。ただ、ドッキリ企画などで何らかのシチュエーションが与えられたときに、その場で笑いにつながる的確な返しをする能力だけが突出して高いのです。漫画『キン肉マン』に出てくる返し技の達人「ジェシー・メイビア」のように、相手の力を利用して技をかけるときに真価を発揮するのです。

そもそもクロちゃんは初めから芸人志望だったわけではありません。女性アイドルの曲も原曲キーで歌えるほどの甲高い声の持ち主である彼は、アイドルを目指して松竹芸能に入りました。ところが、事務所の人に安田大サーカスの団長安田さんを紹介され、そこにHIROさんも加わって、なぜかお笑いトリオとして活動させられることになってしまいました。

元力士のHIROさんとアイドル志望のクロちゃんは、その時点では笑いのいろはも知らない素人同然の状態でした。ただ見た目のインパクトだけで芸人になることを求められたのです。セリフもまともに覚えられない2人に、団長安田さんは根気よく指導を続けていきました。虎や象などの猛獣がサーカスの団長に手なずけられるように、クロちゃんも少しずつ芸人として「調教」されていったのです。

そんな経緯でたまたま芸人になってしまったクロちゃんには、今でも芸人としての余分な自意識がほとんどありません。いまだに自分をアイドルのように思い込んで、ツイッターでも明るく前向きな言葉だけを並べています。

「他力本願」こそクロちゃんの才能

自分が笑いのプロであるという意識が高い人ほど、ドッキリ系の企画では「面白く見られたい」「結果を残したい」という自我が邪魔をして、自然なリアクションができなかったりすることがあります。そういう人の反応は見ている人の想定内に収まってしまいがちです。

しかし、アイドル気取りのクロちゃんには、芸人としての隠すべき内面がありません。自分がありのままで恥ずかしくない人間だと信じているからこそ、生身の姿を堂々とさらけ出して、演出する側の意図に100%身を委ねることができます。それがあの予測不能な面白さを生んでいるのです。

そして、その場しのぎのウソをついていることをどんなに追及されても、平気な顔でしらを切り続けます。なぜなら、クロちゃんの脳内世界では、クロちゃんこそが完璧なアイドルであり、クロちゃんこそが正義であり、そんなクロちゃんがウソをつくはずがないからです。常に「心の目隠し」をしているクロちゃんには現実が見えていません。だから、どんな忠告も批判の声も決して届かないのです。

長い歴史の中で、テレビバラエティの演出はどんどん緻密になっています。そこでは作り手が求めていることを細部にわたるまできちんとこなせるタレントが求められています。そんな時代だからこそ、クロちゃんがここまで重宝されているのでしょう。調教されることに慣れているクロちゃんには、流れに身を任せる「他力本願」という偉大な才能があるのです。